尹錫悦政権は米国に急接近し、中国とは距離を置いているが… Photo: Kim Hong-Ji / REUTERS

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薬師寺克行

薬師寺克行

Text by Katsuyuki Yakushiji

中国の圧力にこれまで強気な対応を見せてこなかった韓国の外交姿勢が、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権のもとで大きく変化しているようだ。それはなぜなのか? 朝日新聞元政治部長の薬師寺克行氏が解説する。

大国に隣接する中小国は、常に大国からの圧力にさらされながら生き延びることを強いられる。朝鮮半島も、中国の歴代王朝の脅威や圧力のなかで生き抜いてきた重苦しい歴史を背負っている。

10世紀に半島を統一した高麗は、中国の王朝が元から明に移る過渡期に、元への忠誠を続ける親元派と、明に協力する親明派に分裂し、それがもとで滅びてしまった。高麗を継いだ新たな王朝は、明への配慮から、自らの国号について2つの案を用意し、明が「朝鮮」という名前を選んだとされている。

17世紀に入り、明が衰退し、清が誕生するときも、朝鮮王朝内は明と清のいずれにつくかで対立が生まれ、国としてまとまった対応ができなかった。その隙をついて清が攻め込み、朝鮮は「清に君臣の礼をもって仕える」こととなった。以後、日清戦争で清が日本に敗れるまでの約260年もの間、朝鮮は清への服属を強いられた。

こうした歴史について、故・金両基(キム・ヤンキ)は著書『物語 韓国史』で、「国際情勢を正確に把握できず、国論を統一できなかった国王と執権層の国政怠慢がもたらした大禍であった」と述べている。国政を担う人たちが近隣諸国などの情勢把握を怠り、国内の党派対立にかまけていたことが国を窮地に陥れてしまったのだ。


戦後になると、朝鮮半島は南と北の二国に分断された。その一方の韓国の外交は、中国のみならず米国、さらにはソ連(ロシア)や日本を含む4ヵ国との関係に気を配らなければならなくなった。政権によって米中いずれに重きを置くかという違いはあったが、文在寅(ムン・ジェイン)政権まで韓国流バランス外交は脈々と続いていた。

その韓国外交が、尹錫悦政権で大きく変化しているようだ。

中国と明らかに距離を置く尹政権


文前大統領は、北朝鮮との関係改善を最重視し、そのために北朝鮮に影響力のある中国との関係に重きを置いた。またドナルド・トランプ前米大統領が北朝鮮の金正恩総書記との会談に関心を示すと、米朝首脳会談の実現のために米国とも付き合った。しかし、米韓同盟にはほとんど関心を持っていなかった。

これに対し尹大統領の外交は、文政権の全面的な否定となっている。徴用工問題の打開を皮切りに日韓関係を劇的に改善すると、それをバネに米国との関係を強化し、拡大抑止を確実にするための米韓「核協議グループ」設置で合意するなど、同盟関係の強化を着々と進めている。
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PROFILE

薬師寺克行 Katsuyuki Yakushiji
東洋大学社会学部教授。東京大学文学部卒業後、朝日新聞社入社。主に政治部で国内政治や日本外交を担当。政治部次長、論説委員、月刊誌『論座』編集長、政治部長、編集委員などを経て、現職。著書に『現代日本政治史』(有斐閣)、『証言 民主党政権』(講談社)、『公明党 創価学会と50年の軌跡』(中公新書)ほか多数。

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