首輪と鎖につながれ人身売買・レイプ疑惑も…８人の子を産んだ中国“現代の奴隷”の闇

地元政府「拉致や人身売買の事実は無い」

1月26日、江蘇省徐州市に属する農村の豊県歓口鎮で悲惨な暮らしをしている女性の姿をネットユーザーが動画に撮って1月28日にSNSにアップし、またたく間に拡散された。

農家で撮られた動画は、夫が屋内で子供たちの着替えや食事のサポートをしている一方、妻は半屋外の老朽化した狭苦しい家畜小屋で、虚ろな表情のまま、鉄の首輪をはめられ、犬用の鎖につながれ拘束されている。

真冬なのに彼女は薄い上着しか羽織っておらず、裸足で、頭髪はボサボサに乱れ、皮膚は黒く薄汚れ、歯は抜けてボロボロだ。放り投げられた饅頭（マントウ。蒸しパン）を貪っている。小屋の中は古着とごみ、残飯が散らかっている。

高度経済成長とハイテクを謳歌する21世紀のオリンピック開催国で、女性が首輪と鎖で奴隷のように拘束されている現実に、多くの人民が例えようもないショックを受けた。

SNSで拡散された女性の動画

「首輪と鎖の女性」動画が拡散したことから、豊県政府は同じ1月28日、慌てて声明を発表。

●くだんの女性は1998年8月に歓口鎮在住の董志民（ドン・ヂィミン、56）と「合法的に結婚」した楊慶侠（ヤン・チンシア、52）で、拉致や人身売買の事実は無い。

●董家や隣人は、楊慶侠が理由もなく子供や高齢者を殴打することが多いと報告していた。地元の診療所は楊慶侠が精神疾患に苦しんでいると診察し、彼女は治療を受けており、中国共産党豊県委員会と県政府は董家を支援している。

●首輪と鎖の動画は、カメラマンがネットユーザーの注目を集めるため故意に誇大宣伝されたもので、ふだんは拘束されていない。

だが、中国で精神疾患患者は結婚できないはず。悲惨な生活環境から、女性は長年、虐待を受けて精神を患ってしまったとする疑惑が浮上した。董志民は中国メディアに対し「妻は精神病患者で、善悪の区別がつかず暴れ回って手が付けられないことがある」と語った。

ホームレス？　少数民族？　失踪女性？

1月30日、豊県政府は改めて「調査結果」を発表する。

●楊慶侠はホームレスで各地を流浪していたところを1998年6月、董志民の亡父に拾われた。それ以来、彼らは同居している。

●楊慶侠はもともと精神障害があるが、自分自身の面倒を見ることはできる。

●歓口鎮政府職員は結婚登録する際に彼女の身元を確認しなかった。ゆえに楊慶侠がホームレスとなる前の経歴は不明。

●鎖でつながれた理由は、2021年6月以降、楊慶侠の精神病病状が悪化し、転倒したり他人を傷つけたりしないようにするための措置にすぎない。

「合法的な結婚」が一転、「拾われたホームレス」に……。厳格に人民の戸籍を管理する中国の政府機関が、結婚証を発給するとき新婦の原籍を確認しないなどあり得ない。

2月7日、中国共産党徐州市委員会と江蘇省政府の合同捜査チームが「新たな捜査結果」を発表。

●楊慶侠の本名は小花梅（シァオ・フアメイ）で、雲南省怒江リス族自治州福貢県亜谷村出身の少数民族・リス族女性。実妹によると1979年生まれの43歳。両親は既に他界。

●1994年に同省の保山市の男性に嫁ぐが1996年に精神疾患のため離婚。

●故郷・亜谷村の隣人女性で江蘇省連雲港市東海県に嫁いだ桑（サン）某が、治療のため小花梅を東海村に連れて行く。

●ところが雲南省から江蘇省へ列車で移動する途中、行方不明に。

当局は、犯罪との関連性を調査中だと釈明した。2月10日、合同捜査チームは楊慶侠と小花梅の親族のDNAを検査した結果、楊慶侠が小花梅で「確定」したと発表した。

ただ、当局の3回にわたる支離滅裂な公式発表は、人民の不信感を増大させ、ネットユーザーの怒りを煽るだけの結果となった。

楊慶侠の地元歓口鎮の住民はメディアに、「村にやってきた時の楊慶侠は聡明な娘で、英語を話すことができ、精神状態もごく普通だった」と証言。

「董志民の父が彼女に対し息子の董志民と性的関係を持つよう頼んだとき、彼女は拒否して暴れた」という。精神疾患状態で村に来た、精神は昨夏に悪化、という当局の見解は疑わしい。

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四川省の失踪少女にそっくり

あるネットユーザーは楊慶侠について、四川省南充市の行方不明少女・李瑩（リー・イン）に酷似していることを突き止めた。

中国では今も、人身売買を目的とした子供の誘拐事件が後を絶たない。行方不明になる子供は年間20万人に上り、「宝貝回家（我が子よ戻れ）」などのサイトで誘拐、遺棄、迷子などによる未成年失踪者の情報が多数掲載されている。

李瑩は1984年7月生まれの38歳。12歳だった1996年の冬、ふだん通り小学校に登校したあと、午後に誘拐された。

父親はチベット自治区に赴任していた元・武警（中国人民武装警察部隊の軍人、国内の治安維持にあたる）で、退役後は妻とともに南充市の政府部門で働いている。

ネットユーザーが楊慶侠と李瑩の顔写真を重ねて解析したところ、ほくろの位置や目鼻立ち、骨格が驚くほど一致していることが判明する。また、動画から聞き取れる楊慶侠の発音からは、四川省人特有のアクセントも確認できた。