
ライザップのマーケティングコンサルティング事業開始について考えたこと
ライザップがマーケティングのコンサルティング事業を開始したとのニュースがありました。
RIZAPグループは30日、マーケティング支援のコンサルティング事業を9月に始めると発表した。マーケティングの戦略立案からテストマーケティング、広告制作・運用などを一括して引き受ける。戦略立案を担う人材の派遣や組織構築の支援も手掛ける。フィットネスジムのマーケティングで培ったノウハウを外部企業の支援に活用する。2024年度内に数億円規模の売り上げを目指す。
このニュースの裏側がどうなっているのか、マーケティング業界に与える影響などについて考えたことを書いていきます。
なんといっても、chocoZAPの成長があっての動きだと思いますので、詳細を見ていきましょう。
chocoZAPの現状はどうなっている?
chocoZAPは2022年9月に展開開始しており、2年が経過しようとしています。
2025年3月期の決算説明会資料を読み込むと、chocoZAPはかなり順調に成長しています。
2024年8月14日の開示資料の数字を抜粋します。
・会員数は127万人でフィットネスジム 会員数国内No.1
・退会率は1%切っている
・店舗数は2年で1597店舗
・単月黒字化済店舗が86%
・出店コストはスケールメリットが効いて3割減
・RIZAP入会者の17.2%が chocoZAP会員
・行政(提携の候補施設10万超)や医療機関連携を進めており、インフラ化を進める
・裏側ではAIカメラや会員データなどを組み合わせて、データ利活用を進める
まとめると、数字を見る限りはかなり順調に成功しています。
chocoZAPはマーケティング視点で何が優れているのか?
ライザップがマーケティングのコンサルティング事業に参入する上で、このchocoZAPで蓄積したノウハウをフル活用する想定のはずです。
chocoZAPのマーケティングノウハウとは何なのかを分解してみます。
1. 新規顧客獲得ノウハウ
デジタル×オフライン媒体などを掛け合わせて新規顧客獲得をするノウハウはたっぷり蓄積していそうです。
1年前ほどに話題になっていましたが、バナー広告4000種ほどを運用して検証をかけている記事が出ています。
2. データからの学習とサービス改善
chocoZAPが優れているのは、広告データも含めてプロモーション施策から得られたデータをもとに「サービス改善」に活かしている点です。
ライザップのデジタルマーケティングを担当されている田牧さんは下記のようにインタビューにて発言されています。
今後も同じようなペースで膨大な種類の広告を打ち出していく方針には変わりないという。理由について田牧氏は「chocoZAPのサービスは100%完成しているわけではありません。今後もお客さまの声を反映し、サービスを進化させていくためです」と説明する
3. クロスセル・アップセル設計
新規会員獲得で終わらず、既存会員に対し関連サービスを提供していく(アップセルやクロスセルと言われる領域)はchocoZAPが非常に優れています。
決算説明資料には、「RIZAP入会者の17.2%が chocoZAP会員」とあり、アップセル・クロスセルに大成功していることがわかります。
事業成長の鍵は、ライト層を広く獲得し、ミドル・ロイヤル顧客へ転換していく流れをつくることであり、その方法論をライザップはもっているわけです。

それにしても、20%弱もライト層から本気層への転換できているの強い…
このような、
・新規顧客獲得のための広告ROIを高める仕組みづくり
・大量のデータを学習しながらサービス改善も行う仕組みづくり
・サービス内のクロスセル・アップセルを設計→LTV(顧客生涯価値)を高める設計
これらを事業を動かしながら蓄積したライザップのノウハウは、広告代理店が簡単に真似できるものではありません。
完全成果報酬型という超強気
上記のノウハウをもとにした支援であるために「完全成果報酬型」という強気のサービス提供形態となっています。
RIZAPの強みを最大限に生かし、事業成長や拡大を加速させるマーケティングコンサル事業です。広告運用費はRIZAPが負担し、結果が出た後に料金が発生する完全成果報酬型モデルでサービスを展開いたします。
導入時のフローとして、まずは支援実施確定後、3か月のテストマーケティングを設けます。そこで成果を実感いただいた後、本契約を行い、運用戦略を作成、分析・改善を行いながら売上や事業拡大に貢献いたします。また企業毎の目的・要望に応じて「RIZAP」、「chocoZAP」の集客ノウハウの共有だけでなく、組織やソリューションなど事業に沿った支援を提供するCMO※1コンサルタントを派遣し、さらなる事業成長をお約束します。
マーケティングの成果報酬型サービスは、事業コミットなのか、広告コミットなのかによって難易度もガラッと変わります。
ライザップのサービス概要を見る限りは広告領域がメインになっていそうです。
挑戦的な事業意思決定にどこまで踏み込むのか?
chocoZAPの成功要因は、当然マーケティング(特に広告領域)だけでは語れません。
とくに、ファイナンス面では、資金調達力や、事業構想に紐付き一気に勝負に出られる意思決定力が今回の急成長の鍵だと考えています。
リスクをとって勝負に出る、ライザップの組織文化や瀬戸社長のリーダーシップがあって2年間で大きな成長を成し遂げていると考えています。
前のめりの投資に関しては、下記の会計数字を見ると一目瞭然です。
24年3月期までの2年間で出店費用や会員獲得のための広告宣伝費などに370億円を投じた。2年間で稼いだ営業キャッシュフロー(営業活動で生じる現金収支)の3.7倍に当たる。大量出店に伴って固定資産は931億円と4割増え、総資産の6割を占める。
直近の決算説明資料では、損害保険大手のSOMPOホールディングスから計300億円の出資を受け、財務戦略の機動性・柔軟性の確保について万全の準備をできていることが触れられています。

このように、事業成長は、ファイナンス×ビジネスモデル×マーケティングを掛け合わせて設計できるかが鍵です。
代理店やコンサル会社に求められる、ともにリスクを背負うこと
この3要素を支援できるプレイヤーが求められてきていると考えています。
ライザップが一緒にリスクを背負って投資→市場創造をする支援まで踏み込んできたらマーケティング支援の在り方が変わるのでは?
ファイナンス×ビジネスモデル×マーケティングこの3要素を掛け合わせて支援することは、当然難易度が高く、「どのマーケティング業界内のプレイヤーも目指しているけど試行錯誤中」の認識です。
マーケティング支援のビジネスモデル変化
広告代理店も「脱代理店化」を進める動きが出てきています。
マージン型→フィー型への以降
ビジネスモデルの話では、マージン(広告運用額に基づいた手数料をもらうモデル)からフィー型(安定して一定の金額をもらうモデル)への以降の動きが出ています。
デジタルホールディングス(HD)傘下のネット広告代理店大手オプト(東京・千代田)は2024年4月1日にデジタルトランスフォーメーション(DX)支援会社のデジタルシフトを含む関連会社4社と経営統合した。広告費の一部を手数料として収益にする「マージン型」と呼ばれる、広告代理店の事業モデルからの脱却が狙いだ。
コンサルと広告代理店の垣根がなくなる
さらに、経営コンサルティング領域で大きく成長しているアクセンチュアも、広告運用支援にも事業領域を広げてきています。
今までは、広告会社とコンサル会社の垣根がなくなってきているという議論がされてきました。
これからは、事業会社と支援会社の垣根がなくなっていくのでは?
これからの動きがある中で、ライザップが大きな変化を主導していく存在になっていく可能性も十分考えられます。
なぜなら、ライザップは「事業コミット力」「事業成長に紐づくマーケティングノウハウ」を保有しているからです。
コンサル・代理店など支援側の会社からではなく、大きく成長している事業会社からの動きがマーケティング業界を変えていく流れが出ていることが今までとの違いです。
私もマーケティング業界で働く身として、ライザップの動きからも学びながら、理想のマーケティング支援の在り方を体現していきたいと思っています。