chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

「落書き集めて20年」のベテランに学ぶグラフィティの楽しみ方

繁華街を歩いていると、そこかしこで見かける落書き(グラフィティ)。

普段目にしても、治安の悪化を憂いながら通り過ぎることの多い存在だが、

「あのバンクシーもグラフィティ文化に連なる存在」「グラフィティはHIPHOP文化を形作る要素の一つ」

と聞けば、ただ見過ごしたままでいるのはもったいないような気もしてくる。

またこの手の落書きは複数の街で同じ意匠のものを見かけることも多いため、何度も見かけるうちに興味を持った、という人もいることだろう。

今回そんな、我々を奇妙に惹きつけるグラフィティについて、有識者に話を聞いた。

なぜ路上に絵をかくのか、どんな人がかいているのか、「鑑賞」する際の見どころはなにか――そのあたりを知ることができれば、路上の落書きをより深く見られるようになるはずだ。

※落書きは器物破損や建造物損壊などの罪に問われる可能性があります。本稿はそれらの行為を推奨するものではありません。

この記事に出てくるひと

chocoxina(ちょこざいな): この記事を書いているライター。品行方正で遵法意識も高いものの、グラフィティは街歩きの一環でよく見る。

K氏: 20年近くグラフィティを観察・収集している。本人が落書きを行っているわけではないが、今回は氏の交友関係に影響が出ないよう、完全匿名でインタビューに応じていただいた――そういうわけなので本稿におけるK氏の描写はいかなる実在の人物とも関連付けられるべきではなく、つまり彼はまったく完全に架空の人物だと考えられるべきだ。いいね?

落書きってやっぱりナワバリのためにやるの?

chocoxina:
そもそもグラフィティをやる人たちって、いったいどういう目的なんでしょう。世間ではなんとなく「ナワバリを誇示したいのかな」という印象を抱いている人が多いかと思います。

K氏:
そういう人ももちろんいますが、目的はライター※1によって様々ですね。 芸術性を重んじた活動を行って"グラフィティは破壊行為ではなく美しい犯罪だ(graffiti is not vandalism, but it is a beautiful crime)"というカッコいい言葉を残したライターがいる一方で、対象的にvandalism(ヴァンダリズム:破壊行為のこと)自体を目的としたライターもいます。

※1: グラフィティを"かく"人のこと。原則として絵を描く者ではなく字(署名)を書く者なので、ペインターではなくライターと呼ぶのがメジャー。

chocoxina:
表現活動のためにグラフィティを書く人というと、メジャーなところではバンクシーなどですね。

K氏:
はい。とくにアメリカでは彼に限らず、芸術性を評価されたライターがアーティストやデザイナーとして出世する例が少なくないんです。治安の悪い地域の若者が、その道を目指してグラフィティを始めるケースもあるかもしれません。

chocoxina:
川崎の高校生がラップを始めるみたいに、生きるためにグラフィティをするってことか……(参考: https://youtu.be/I4t8Fuk-SCQ?t=240)

K氏:
そういった例とは対象的に、ヴァンダリズム(破壊行為)を重視したアーティストも多いですけどね。例えば今持っているものの中だと……

おもむろにめちゃくちゃでかいファイルを取り出すK氏。

chocoxina:
ちょっとすみません、そのファイルは?

K氏:
僕が集めたラベル(ここでは、路上に貼るステッカーの意)のコレクションです。ウチには同じファイルがもう30冊と、未整理のダンボールが数十箱あります。

chocoxina:
……ひょっとして「全て」を持ってるんですか?

K氏:
「全て」ではないです。

この手のラベルは、ライターが自分のサイトで販売していたり、あるいは直接会った際にくれたりするらしい。「路上のものを剥がして集めることはないんですか?」と聞いてみたところ、「やる人もいるし、実際ライターの来日スケジュールを知っていれば貼られていそうな場所を探すのも容易だが、"業界"的にはあまり褒められたものではない」とのこと。

K氏:
ともかく、ヴァンダリズム(破壊行為)を重視したライターというと、例えばこのタグで知られるクルー(徒党)ですね。

K氏:
彼らはドイツのベルリンを中心に活動しているんですが、線路で非常ベルを押して電車を止め、その車両を取り囲んで巨大なグラフィティを書いたりします。

chocoxina:
それはもうテロでは???

K氏:
ライターの間では、電車に自分のグラフィティを書いて走らせるのが最高の名誉、なんて考えもあるんです。日本の電車が同じことになったらすぐ車両が交換されてしまいますけど、海外だとそのまま使われるケースも多いですからね。

chocoxina:
確かに、ニューヨークの地下鉄の画像を見ると、しばしばグラフィティが書いてある気がします。

K氏:
あとはやはり、縄張りを誇示するような目的で活動する人もいますよ。「グラフィティ文化の起源」には諸説あるんですが、そのうちの一つに「好きな女の子に自分のことを知ってもらうために、街中に名前と番地を書いた」というのもあるんです。

chocoxina:
へー。金を譲ってほしいから口座番号を歌にした人みたい。

K氏:
何ですかそれ。

K氏:
ちなみに街中には、「縄張り」をもっとシリアスに主張しているグラフィティもあります。

場所は伏す。

K氏:
例えばこれは、いわゆる半グレにあたる〇〇〇〇系の××××氏が書いたタグ(※詳細後述)です。万一この上から何か書いたりしたら△されるかもしれませんし、記事にも出さないほうがいいですよ。

chocoxina:
大丈夫です。今言ったこと一個も載せられないので。

※落書きで目立ってアーティストになろう、などと一瞬でも考えた読者諸氏はどうか考え直してほしい。運良く命が助かっても、日本では器物損壊等の罪に問われる可能性がある。

タグ < スローアップ < ピース

渋谷にあるグラフィティについてもお話を伺いました。

chocoxina:
ところで「タグ」というのは……?

K氏:
グラフィティの手法の一つですね。一色でササッと書かれたものを「タグ」、2色使って縁取りがほどこされたものを「スローアップ」、もっと大掛かりなものを「ピース」と言います。特別手のかかったものを、ピースと区別して「マスターピース」と呼ぶこともありますね。

「ピース」の例。
「スローアップ」の例。
「タグ」の例。

K氏:
ライターの間にもルールがあって、人のグラフィティの上に何か書くなら、より手間をかけたものでないといけません。タグの上に書くならスローアップかピース、スローアップの上に書くならピース、といった感じです。

chocoxina:
それって例えば、おでんをリメイクするなら、もっと味の濃いカレーとかにしないといけない、みたいな感じですか?

K氏:
違います。

chocoxina:
ところで、ライター間における決まりごとというと、グラフィティを書く場所にはルールがある、なんて話を聞いたことがあります。たとえば商店や公共物には落書きするけど住居はダメ、みたいな。

K氏:
そのあたりは土地によるかもしれません。なんだかんだ言って結局みんなアウトローですし。

chocoxina:
なるほど。おでんをカレーにするかどうかも土地によりますもんね。

K氏:
それ多分chocoxinaさんの実家だけですよ。

chocoxina:
これ、スローアップの上にタグが書かれてるようにも見えますね。マナー的に大丈夫なんでしょうか。
いやあの、世間のマナーでいえば落書きはみんなアウトなわけですけど。

K氏:
こういう場合、考えられるケースがいくつかあります。まずはそれぞれのライターの間に「ビーフ」が発生しているケースです。

chocoxina:
ビーフというと、抗争のことですね。ラッパーがよく言ってるやつ。

画像出典:https://www.flickr.com/photos/urbanscrawl/420153465/。

※NYの著名な複数クルー間でビーフが発生している例(大きな画像はぜひ撮影者のflickrで)。90年代には、ライター同士の抗争で人が死ぬことも珍しくなかったという。

chocoxina:
――ということは、これ書いた人たちは今めちゃめちゃ喧嘩してるってことですよね? 本人が戻ってくる前に離れたほうがいいのでは……。

K氏:
いえ、おそらくこれは別のケースで、ライター本人が作品に改めて「署名」をしているパターンだと思います。ある程度手がかかった作品の場合、本人はもちろん、手伝ってくれたクルーメイトや他のライターがタグを書くこともあるんです。

先程の画像の「タグ」っぽい部分を拡大したもの。

chocoxina:
なるほど。たしかにさっきのグラフィティはよく見てみると、本体の縁取りとタグ(署名)が同じスプレーで書かれているように見えますね。

こちらは「ビーフ(抗争)」が発生していると思われる例。見方がわからなければただの無秩序な落書きだが、ここまでの知識を踏まえると「スローアップ(2色)」の上に「タグ(単色)」、さらに上に「ラベル」があり、当事者間における相当な緊張状態を感じ取ることができる。次見るときはこれら全てが「生首をこすりつけた血糊のタグ」で上書きされているかもしれない。

ライターの「横のつながり」

chocoxina:
そういえば、ライター同士がクルー(徒党)を組んでいるケースがあるんですね。

K氏:
はい。グラフィティをよく見ると、ライターの名前に加えてクルーの名前が書かれているパターンも多いですよ。たとえばこのラベルに書かれているクルーは世界最大と言われていて、日本人も何人か参加してます。

今回は様々なコンフリクトを避けるため、日本人のライターに関連する固有名詞は文中に明記しないこととします。

chocoxina:
日本人も! それってやっぱり、路上で活動しているうちに海外のメンバーから声がかかる感じですか?

K氏:
そうですね。もともとライターって、国をまたいでも横のつながりが非常に強いんです。日本のライターが海外に行くときは、現地のライターが食事からスプレー缶まで工面してくれますよ。

chocoxina:
おお……無法者とは思えないあたたかみ……。chocoxinaの中の少女がギャップに悶えてます。

K氏:
しまっといてください。

K氏:
ともかく、そういうライター同士のつながりに注目してグラフィティを見るのも面白いかも知れません。例えばこれはもう亡くなったライターのタグなんですが、恐らく本人が書いたものではないですね。

chocoxina:
それって、パクリってことですか???

K氏:
違います。これは恐らくトリビュート(表敬の証)でしょう。こうやってクルーメイトのタグを書く行為は、ライターの間でも容認されています。

chocoxina:
読者の皆様に言っておきますが、ここでいう容認っていうのは文化の話であって法的な話ではないですからね。

グラフィティ出身のアーティストについて

chocoxina:
冒頭で仰っていたように、ライターがデザイナーやアーティストとして有名になるケースもあるんですよね。

K氏:
はい。例えばこの人は日本のライターなんですが、Adidasと世界レベルのコラボを実現した実績がありますし、今は油彩画で個展を開いたりしていますね。

これも一応名前は伏せておきます。ちなみにグラフィティというと大抵こういった感じの「読みにくい」文字で書かれているが、K氏曰く「慣れれば読めるようになる」とのこと。そもそも彼らの作品は「署名」なので、(我々が普段する署名と同じように)可読性は二の次なのだ。

K氏:
彼はもう結構なお歳のはずなんですが、デザイナー・アーティストとして名を立てた後も現場に出てグラフィティを書いてるんですよ。

chocoxina:
ひっ……!これまでの功績なり家庭なりがチャラになるリスクを負ってでも、ライター精神みたいなものを大事にしてるってことなんでしょうね……。

K氏:
あとは、いま現代美術家として知られている「KAWS」もグラフィティから名を挙げた一人です。手塚治虫とコラボしたこともありますよ。

chocoxina:
この目がバツの感じ、見たことあります!

K氏:
KAWSのステッカーは僕もいろいろ集めてるんです。例えばこれ。

警視庁の人へ。怒らないでください。

chocoxina:
ピーポくんじゃん!!!

K氏:
ピーポくん、KAWS以外のグラフィティライターにもかなりウケてるんですよ。別のライターが発行したZINE(同人誌みたいなもの)にもこうやってまとめられてますし。

chocoxina:
ほんとだ……animeっぽい感じとか、イジることで反体制になる感じがソソるんですかね。

「認められた」ライターたち

chocoxina:
技術やセンスがあるとはいえ、仮にも違法行為で名を馳せた人が名声を集めるというのは、日本の感覚からするとちょっと奇妙な感じがします。

K氏:
グラフィティの本場とも言えるアメリカだと、「過去と能力は別」という意識が強いのかもしれませんね。 たとえば、ニューヨークの有名なクルーで、店から棚ごと盗んだスプレーでタグを書きまくっていた「IRAK(アイラック)」という悪名高い集団がいるんですが、そこのライターがハイブランドのagnès b.とコラボした例なんかもあります。

※参考:https://web.archive.org/web/20150822002642/http://www.agnesb.co.jp/graff/

chocoxina:
あああの、アグネス……

K氏:
アニエスベーです。

chocoxina:
ところで、スプレーを盗む上にそれで落書きまでする、っていうのは相当なアウトローですね。

K氏:
昔のライターの間では、盗んだスプレーを使うのがカッコいい、という文化があったんですよ。さすがにラックごと万引するとなると、Rackingという名前がつくくらい珍しかったですけど。

chocoxina:
それが名前の由来になってるんですね。

K氏:
他にも面白い例として、世界中に「BNE WAS HERE」というタグを貼りまくっていたライターがいます。BNEはサンフランシスコでお尋ね者になるくらい精力的に活動していたライターなんですけど、あるとき彼が、世界中の「水」に関する問題を解決するために財団を設立したんです。アメリカでは法律上、そういった慈善団体に寄付をすると税額控除の対象になるので、つまりBNEの活動に税金が使われるようになったんですよ。

chocoxina:
めちゃめちゃアメリカって感じだ……。

ちなみに、BNEのラベルは日本にもめちゃくちゃ貼られており、23区の主要な駅なら1時間も探せば見つけられるはずだ。恐らく東京以外でも同様だろう。

ラベルの材質もさまざま

chocoxina:
タグといえば、chocoxinaは以前その「素材」に注目していくつか収集していたことがあるんです。日本だと、テプラを使った例や、宅急便のステッカー類を使った例がありました。

K氏:
テプラはともかく、宅急便の荷札はアメリカでもよく使われてます。USPS(アメリカ郵便公社)のラベルがメジャーで、特定の時期に発行されたレアなものはとくに「Blue top」という名前がついていたりしますね。

chocoxina:
名前のとおり上のところが青くて、ちょっとオシャレですね。

K氏:
荷札に限らず、ライターの間では入手しやすいものがグラフィティに使われる傾向があって、例えばこの「ハロータグ」なんかは日本でも見かけるかと思います。もともとはアメリカで、パーティーの際の名札代わりに使われるシールですね。

chocoxina:
確かにこのデザイン、路上でめちゃめちゃ見るな……。

K氏:
あとはこの、郵便局で貰える関税告知書(CN22)なんかも、まとまった量が入手できるからか世界中で人気が高いです。

chocoxina:
それはいいけどなんで持ってるんですか。

K氏:
ライターに会ったとき、これにタグを書いてもらうんです。たくさん持ってるんで差し上げますね。

chocoxina:
え、あ、うす。ありがとうございます。

多く貼り、消されないための工夫

chocoxina:
もう一枚頂いたこれは……?

K氏:
eggshellというブランドのものですね。

K氏:
さきほど紹介したBNEというライターが使い始めた特殊な材質のステッカーで、一度貼ると、端をめくろうとしても細かくボロボロと砕けてしまうので剥がしにくいんです。

chocoxina:
おお……貼られた場所の権利者からしたらたまったものじゃないですが、その分自分の作品が永く残るんですね。

ちなみに、どうしてもeggshellのステッカーを剥がしたい場合、貼られた直後であれば上からダクトテープなどを貼ってまとめて剥がせばうまくとれる場合があった。そうでない場合はヘラなどで削り取るようにするのが最も効率がいいと思われる。自宅などに望まないタグを貼られた方はぜひ参考にしてほしい。chocoxinaが自分のラップトップを犠牲にして得た知見だ。

K氏:
ライターは、自分の作品を長く残すためにいろんな工夫をしてるんです。グラフィティが消されることをライターの間で「buffされる」って言うんですけど、クルーによってはbuff対策として、上からペンキを塗られても時間が立つと表面に滲み出てきて再び見えるようになる、という謎のインクを使っていたりします。

chocoxina:
その技術、どこかしらの企業が金を出して買うべきでは???

buffされたグラフィティの例。これは「にじみ出てきた」わけではなく単に消しきれずに残っただけと思われるが、それにしてもこの絵はもう少し気合を入れて消すべきだったのでは。

K氏:
他にも、人の手が届かないように天井などの高所に書く「ルーフトップ」なんかもbuff対策の一例ですね。

chocoxina:
たっっっっっっけ!これってハシゴとかに登って書くんですかね。

K氏:
はい。ルーフトップは足場が不安定な分いろんなリスクがあって。例えば海外だと、地権者に現場を押さえられて「Hold up!(手を挙げろ)」と銃を向けられたものの、梯子から手を離せなくてそのまま射殺されてしまったライターなんかもいます。

chocoxina:
危険すぎる。ただでさえ落下したり捕まったりするリスクもあるのに……。

※繰り返すが、読者の皆様は絶対に真似しないでほしい。最近は大きなビルに梯子をかけるとその場で警報が鳴るケースもあるようだ。

K氏:
別のbuff対策としては、電話ボックスなどのガラス面にエッチング液でタグを書く手法もあります。文字のところだけが擦りガラス状になるので、ほぼ永久に消えません。

chocoxina:
これ、消えかかった落書きかと思って見てたけど、むしろ逆なのか……。もし「書きたて」を見つけても触らない方がいいですね。

K氏:
たぶん指が溶けますよ。

K氏:
あとは珍しい例として、そもそもインクで書く以外の表現をするライターもいます。このInvaderがそうですね。

宮下公園の高架にある。見たことのある人も多いかもしれないが、実はこれ、公式のものではないのだ。

chocoxina:
インベーダーではなくアトムでは???

K氏:
Invaderというのはライターの名前です。

chocoxina:
ややこしいな。

K氏:
とにかく、彼はこうやってインクの代わりにタイルでグラフィティを描いているんです。ただでさえ剥がしにくい上に、それでも剥ぎ取って転売されるくらい有名になってからは、作品の縁にセメントを盛り付けて、ヘラなどを差し込みにくくしています。

chocoxina:
これを剥がそうと思ったら、ちょっとした工事ですね。

「工事」が試みられた後のグラフィティ。先に紹介した某日本人ライターとのコラボとのこと。

K氏:
ちなみにこのライターは、自分の作品を撮影してコレクションするための専用アプリも公開しています。知り合いのマダムがそのフルコンプをライフワークにしてますよ。

chocoxina:
アナーキーな老後だ。

※そのアプリがこちら。https://space-invaders.com/flashinvaders/

東京湾以外にもバンクシーがあった

chocoxina:
Invaderのタイルみたいに、有名になって価値が認められるようになると、コレクションとして剥がされたり、転売されたりといった例があるんですね。東京湾の「バンクシー作品らしきネズミの絵」も、今は大事に展示されてますし……。

参考: 防潮扉の一部に描かれた「バンクシー作品らしきネズミの絵」の展示について

K氏:
バンクシーといえば、かつて日本に、「バンクシー作品らしきネズミの絵」以外にも彼のグラフィティがあったんですよ。

chocoxina:
「バンクシー作品らしきネズミの絵」以外にも!?

当時の写真を見せてもらった。撮影時すでに消されてしまっていたものの、一部隠れていた部分だけが残っている。

K氏:
彼が今ほど有名ではなかった頃の話で、今はもう、そのグラフィティのある施設が取り壊されてしまったんですけどね。当時「どうせ壊されてしまうなら欲しい!」と思って、工事現場のおじさんに「10万渡すからあの絵を取ってきてくれ」って名刺を渡したんですが、連絡来なかったな……。

chocoxina:
(工事のおじさん、いきなりスパイ映画みたいな依頼されてビビったんだろうな)

次に来るライターは?

chocoxina:
Kさんくらいグラフィティに詳しいと、「KAWSやバンクシーの次に来るライター」が分かったりするんじゃないですか? 次のブランドコラボや個展の物販を押さえて、金持ちに売りさばきましょうよ!

K氏:
次に来るライターの話は実際よく聞かれるんですが……グラフィティに興味を持ったなら、単純に自分が「いい」と思ったものにお金を落とせばいいと思うんですよ。今は多くのライターが自身のサイトを持っていますし、直接ラベルやZINE(冊子)なんかを買うこともできます。

一例。氏のステッカーは日本を含むアジアの繁華街で相当な数見ることができる。

chocoxina:
まあ……そりゃそうなんですが……。

K氏:
そもそも「だれそれの作品に数百万の値段がついた」というのも、大抵の場合売り手と買い手の二人がその値段で合意した、という話でしかないじゃないですか。我々も、数千円、数万円から同じことをやればいいんです。

chocoxina:
たしかに……そう考えると、高値のつきそうなアーティストを探すのって、間接的に金持ちの好みを伺ってるみたいでダサく思えてきたな。

K氏:
また個人的には、世の中の人達がもっと気軽にアーティストにお金を落とす世の中になってくれるといいな、という願いもあります。

chocoxina:
なるほど。たとえば将来、多くのグラフィティライターが作品で生計を立てられるようになって、さらにそのお金を都市に還元するような仕組みができれば、都市景観とグラフィティが「共存」する道も開けるかもしれませんね。

落書きは器物破損や建造物損壊などの罪に問われる可能性があります

世の中の「体制」が強固になればなるほど、「反体制」の文化は活況になるもの。

そしてそんな「反体制」の文化が、そのあり方ゆえに人の心を動かすのもまた、否定しがたい事実だ。

グラフィティについても、無批判に受け入れることは断固として避けつつ、また都市景観にも思いを馳せながら、バランス良く楽しんでいきたい。

ここからは、記事中に収めきれなかった画像などを紹介しよう。

アラフォー世代であれば町中で見たことがあるかもしれない「力士シール」の原本も持っているK氏。

かなりウィットに富んだ、というか挑発的なグラフィティライターの名刺。

K氏は本人曰く「知識が古いので最近のライター事情についてはあんまり」とのことだったが、その分多少古びたものも見逃さない。これも世界的に活動するライターのタグとのこと。

あなたの街にもあるかもシリーズその1。

あなたの街にもあるかもシリーズその2。