「アニメディア7月号」では、“読者が選ぶミワクの歴代人気アニメベスト10”を特集。歴代人気アニメ作品第3位には、『おそ松さん』が選ばれた。『えいがのおそ松さん』もまだまだ公開中で、6月26日にはオリジナルサウンドトラックも発売されるなど、人気は健在な『おそ松さん』から、藤田陽一監督のインタビューを掲載。「超!アニメディア」では、本誌に掲載しきれなかった部分を含めてご紹介する。
――『おそ松さん』シリーズは歴代人気アニメ部門で第3位となりました。ご感想をお聞かせください。
これだけアニメ作品が多いご時勢のなか、選んでいただいて大変光栄ですね。『おそ松さん』とノリがかぶっているアニメはあまりないので、そこがよかったのかなと思います。
――『おそ松さん』制作開始当初は、監督ご自身の作品の狙いはどんなところにありましたか?
元々は『ザ・シンプソンズ』(※社会風刺やパロディーが盛り込まれたアメリカのTVアニメ)っぽいコメディーを作りたかったんです。深夜枠というのは決まっていたので、大人が仕事から帰ってきて夜中に気楽に観られる、アニメマニア向けとは違うラインの作品ですね。ギャグものって“今”をいじることができるし、いろんなことができるフォーマットになるので、本当はもっとやりたかったことがありました。いろいろダメだと言われて現在に至り、だいぶライトになりましたから(笑)。ただ、思った以上に6つ子が売れちゃったので、そこからずいぶんと世界が広がり、よくも悪くもキャラクターが引っ張ってくれる作品になりましたね。
――今回「人気キャラクター」には、カラ松、チョロ松、一松がランクインしました。
チョロ松が入ったのは『えいがのおそ松さん』の影響ですかね。正直、TVシリーズ第1期のときはそれほど人気がなかったので(笑)、「チョロ松、面白いのになぁ」と思っていたんですよ。だから今回、人気が上がってきたのはうれしいです。映画では神谷(浩史)さんの芝居も面白かったし、18歳チョロ松のギャグ的な立ち位置は笑いとしてもアリですし。ほかの兄弟のこじらせ方は、ちょっと笑いでは済まされないイタさがあるというか、だからこそ「わかる」と思えるところもあるんですけどね。
――TVシリーズ開始時に「このキャラクターは人気が出そう」という予想はありましたか?
全然なかったですけど、強いて言うなら十四松かな? 最初から大ボケするポジションで、フィジカル的な動きのボケも多くて、笑いの面では十四松が持っていくことが多いかなと思っていました。逆にカラ松は人気が出るとは思わなかったですね。中村(悠一)さんの声が入ってから完成されたのかなと。「カラ松ガールズ」というのも本人が言っているだけで、まさか本当に生まれるとは想定していなかったです。
――そんな6つ子たちの人気ぶりを、どのように感じていますか?
ここまで人気者になってしまうと、もう自分の手から離れていく感覚ですね。抵抗しようのない大きなうねりがやってきて、そこに流されるままに、気がついたらいろんなことをやっているという感じで。こっちはずっと家とスタジオを往復するだけの変わらない日々を過ごしているので、その人気を実感できる環境でもなく、僕自身にはあまりいいことがないなぁと(笑)。何かが変わるわけでもないんですけど、自分が関わる作品でこういう体験は滅多にできることじゃないので、むしろ幸運なのかなと思います。
――作品としても多くのコラボを生み出すほどの人気です。ずばり『おそ松さん』の魅力はどこにあると思われますか?
そこは絵の力だと思っています。原作の赤塚(不二夫)さんの世界だったり、浅野(直之)くんのキャラクターデザインだったり。ポップでシンプルなアイコンとして完成されているので、どこにでも入り込んでいけるのかなと。今どきの深夜アニメ作品としては線が少ないから、いろんなものになじみやすいんだと思います。
あとシンプルな分、浅野くんの絵によって作品世界が広がったところも多々ありますね。アニメとしてはオリジナル作品に近いので、彼にイメージボードを描いてもらうことも多いんですよ。今回の映画でもクライマックスの崩壊シーンとかは、最初に僕が口頭でイメージを伝えて、それを彼がイメージボードで形にして、絵コンテや美術に落とし込んでいくという感じでした。
――『えいがのおそ松さん』は初の劇場版ですが、監督として「映画だからこそやりたかったこと」というのはありますか?
映画でしかできない画面作りをするということですね。大人と18歳で最大12人をひとつの画面に登場させて、わちゃわちゃと動かすというのはTVアニメではそうそうできません。しっかりとしたドラマを盛り込むというのも最初に意識したところで、せっかくの映画なので「全部入り」にしようと思いました。ただ「ニートで童貞」っていう設定を考えると、そこから先へ成長する話は掘り下げづらいので、描くとしたら前日譚的なものというか過去しかないかなと。TVアニメの短い時間内でこれだけの過去をがっつり描くのは難しいので、映画だったらじっくり作れるというのもありました。その方向性で、TVシリーズの第1期と第2期を楽しんでくれたファンの方たちが観たいものを、こちらも頑張って作ろうという感じでした。
――6人それぞれにバランスよく見せ場があったかと思います。
わりと自分は映像面でのテクニカルな部分を重視したので、ドラマ面は脚本の松原(秀)くんに任せていましたね。こっちがあえて何も言わなくても、いつもちゃんと考えてくれるので。ただ、6つ子のなかで18歳カラ松だけボケが少ない役回りになったのは、僕からすると申し訳ないなと。ドラマ好きな女の子ファンにはオイシかったかもしれないけど、しょうもないボケをいっぱいやらせてあげたほうが、カラ松に華を持たせられたよう気がします。これは悩ましいところで、むしろサマー仮面をやらせたほうが、カラ松も生き生きしていたかもしれない(笑)。
――大人カラ松が18歳カラ松にサングラスを渡すというエピソードは、タイムパラドックス的な面白さを感じましたね。
あの辺の解釈をはっきりさせたくない感じは、自分好みなところですね。最初は「過去の世界」としてプロットを組んでいたんですけど「思い出の世界」っていうのを思いついたとき、やっと自分の好きなバランスにハマったような気がしたんです。現在とリンクした過去よりも、これが本当かどうかもわからないファンタジー的な「思い出の世界」のほうが、これまでの『おそ松さん』に合っているなぁと。そこでやっと、自分が腑に落ちる映画になるなと思いました。明確な過去にしちゃうと、現在との整合性が……となりますからね。個人的には、考えさせる“行間”がある幻想小説とかが好きなので、今回もその“行間”をどれだけ残せるかというのを意識してやっていました。
――6つ子たちに手紙をくれた女の子の「高橋さん」については、作品ファンの方々を重ねているという解釈もあるようですが?
自分が書いたプロットにはファンを重ねるような要素はなくて、わりとドライに過去を象徴するような存在でした。そこに松原くんが、そう解釈されるようなニュアンスを加えて、あのキャラクターになったという感じですかね。僕としてはもうシンプルに「クソみたいな青春でも誰かにとってはいい思い出」くらいの感覚で高橋さんというキャラクターを置いたんですけど、そこに『おそ松さん』ファンを重ね合わせたのは、松原くんに盛っていただいたところです。どう受けとめられるかはわからないですけど、共同作業のなかで僕と松原くんに解釈の違いがあったとしても、それはそれでいいかなと思っています。
――改めて作品を振り返ってみて、ご自身の想定以上の出来だと感じたところはありますか?
大人6つ子の表情とか芝居は、全部こちらの想定以上に生き生きと上がってきましたね。この作品はアニメーターの方たちもすごく遊んできて、絵コンテ以上にいろんな芝居を原画に入れてくれるんですけど、TVシリーズをやってきたスタッフが関わってくれたことが大きいです。スタッフが進んでよいものにしようと工夫することは、一発限りの映画じゃできないことだなと。拾いきれないくらいの細い芝居が入っているところにいちいち感動するというか、すげえなぁって感心していましたね。逆にこれが基準になったら、今後は大変だなと(笑)。
たとえば屋上のシーンで、18歳トド松が18歳チョロ松の背中越しに大人6つ子に向かって「あなたたち、なんなんですか!?」みたいなこと言うとき、ほっぺたがチョロ松の背中に当たって、ぷくっとふくれていたりとか。ああいうのは絵コンテにはなくて、細かい芝居作りにキャラクターへの愛情を感じます。自分は6つ子に対してもう少し突き放して見ている感覚だから、いろんな人が作り込んでくれるのは非常にありがたいですね。
――そのほかに制作裏話などありましたら、お聞かせください。
18歳6つ子の制服のブレザーは、3パターンくらい色を塗りましたね。「F6」っぽいカラフルな色で塗った案もあって画面映えすると思ったけど、女性スタッフの意見を聞くと、みんな「グレーがかわいい」と。画面が地味にならないかなという恐怖心は感じましたけど、いかにもアニメっぽい色よりも素朴で実際にありそうな色が女性陣には好まれたので「わかりました!」って。そこに僕の主体性はなかったです(笑)。
――ブレザー以外にも学ランという案は?
学ランの案もありましたね。TVシリーズの最初に6つ子の青いスーツ姿を作ったから、ブレザーだと変わり映えしないんじゃないかと思い、学ランのラフも作ったんですけど、浅野くんのほうではしっくりこなかったみたいです。今回に関しては、学ランだと6人のバリエーションが付けづらいというか、着こなしをアレンジをするとシルエットが崩れすぎてしまうというか。まずはブレザーも学ランも全部並べてみたんですけど、やっぱりブレザーのほうがかわいいという意見もあり、色のパターンもすべて試した上で、グレーのブレザーに落ち着いたという感じです。
――藤田監督は公開後に、舞台挨拶にも何度か登壇されました。ファンの方々と身近に接してみていかがでしたか?
お客さんたちが熱かったです。僕でも制作中も含めて、全編通しで観たのは10回くらいだと思うんですけど、30回以上観ている人がいましたから。一度、新宿ピカデリーの一番後ろの席で普通に客として観に行ったんですけど、そんな感じの人たちがいっぱいでしたね。もう何回目なのか慣れた感じで、飲み物も食べ物もいっぱい用意して、その環境ごと楽しんでいるんだなぁと(笑)。松原くんとのトークショーもありましたけど、役者でもない僕らスタッフとしては、制作裏話くらいしか出せる武器がないので、何か実のあることを話せていたらいいんだけど……という感じでした。
――では今後、もしも『おそ松さん』の新作を作る機会があったら、どんな作品にしたいですか?
次にまた作れるとしたら、中身のない虚無なものを作りたいですね。今回はわりと真面目なドラマを入れちゃいましたけど、本筋とは関係ないボケをもっと入れたかったし、そっちのほうがこの作品の「真ん中」じゃないのかなっていう気もするので。
福島の舞台挨拶で、TVシリーズでやった某求人宣伝トラックのオマージュの話題が出たんですけど、その場でお客さんに元ネタのトラックを知っているか聞いたらノーリアクションだったんです。だから、みんな意味がわからないまま放送を観ていたんだなと。確かに東京都内の繁華街にしか走っていないですからね。でも僕は、わけのわからないものを大人が一生懸命作っていることが楽しいので、そんなノーリアクションなものを全国に放送できて、むしろよかったなと(笑)。逆に今回の映画では意味のあるものを作ってしまったなと反省しているので、なおさら虚無なものを作りたいです。
――その意味のある映画で、感動したという声も多かったかと思いますが……。
それはそれで、すごくありがたいことです。今回の話はちょっと物悲しさもあって、最後にはふざけてバランスを取っているけど、捉え方によってはただたださびしい話かもしれません。もちろんこういう話も嫌いじゃないんですけど、意味がない話も大好きなので悩ましいところですね。その両立がなかなか難しくて。赤塚さんも元々ナンセンスな話も人情話も描かれる人ですけど、今回の映画で言えば、人情話の部分はクリアしたけどナンセンスな部分をもっと入れてもよかったかなと。だから今後があるとしたら、望まれていない不条理をどんどん世に落としていければなと思います。
――実際のところ、新作が作られる可能性はあるのでしょうか?
お仕事なので、求められれば……っていう感じですかね。『おそ松さん』には“今”をいじれるフォーマットがあって、その時々に合わせてちょっとずついじったり空気が変わったりするのも全然ありなので、もしやることになったとしても、ネタ切れとかの心配はあまりしていないです。ただ、実際に作り始めると死ぬ思いもするので、気楽にやれたらいいなと思います。
――最後にアニメディア読者へのメッセージをお願いします。
アニメディアは僕も昔買っていました。まさか自分がこういう形で載るとは想定していなかったので、読者OBとしてうれしい限りです。引き続き『おそ松さん』をよろしくお願いします。
取材・文/株田馨(アイプランニング)
『えいがのおそ松さんオリジナルサウンドトラック』
発売中
発売元/エイベックス・ピクチャーズ
3,000円
(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会2019