2023年5月のまとめと読書記録
2023年 06月 04日
読んだ本の数:9
読んだページ数:2308
ナイス数:237
よみがえる与謝野晶子の源氏物語の感想
晶子による源氏物語の訳業にまつわる謎を探求した集大成。
図版や資料もたっぷりの500ページ近い大部の著作だが一気に読んだ。晶子は生涯で数度、源氏物語の現代語訳を手がけたが、そのうち一つは出版される前に関東大震災で焼失した。今年は、関東大震災100年、晶子出身の地、堺市のさかい利晶の杜でも「災害をのりこえる晶子の意志」展を開催する。関西ウーマン信子先生のおすすめの一冊で取り上げました。https://www.kansai-woman.net/Review.php?id=202229
読了日:05月05日 著者:神野藤 昭夫
歴史の屑拾いの感想
歴史学に取り組むことについてのエッセイ集。著者が史料から、そして生身の人から日々学び、熟考し、行動し、ときには動揺している様子が書き留められている。日常的で具体的なのだけどどこか霞がかかっているようにも感じられるのはなぜだろう。/学生の要望に応じて新規開講した京大の全学共通科目で、『○○の20世紀』という本を書くとしたらというお題に対する学生の回答を紹介した項が面白い。1回生が圧倒的に多いという科目のはじめの2ー3回目くらいで、そのまま卒論にできそうな問いが立てられていて感心する。
読了日:05月12日 著者:藤原 辰史
女たちのレボリューション: ロシア革命1905~1917の感想
ロシア革命において重要な役割を担った女性たちに光を当てた本。レーニンよりも早くマルクス主義に目覚め、人々を鼓舞し、組織立てていった女性リーダーたちは、歴史家たちによってレーニンら男性指導者の取り巻き程度におとしめられ、過酷な労働環境、生活不安に異議を唱えた女性たちの活動は、すっかりなかったかのようにされてきた。小さな本だが知らなかった事実や示唆に富み、とても面白かった。
読了日:05月15日 著者:ジュディ・コックス
世にも奇妙な君物語の感想
最近夫氏がせっせと朝井リョウ氏の本を借りてきているので私も。うーん。デビューしたての頃の方が良かったような。粗製乱造になった? それともわざと? とりあえず最後の章まで読んで、ああそういう仕掛けだったのかとちょっと納得。それでもなんだかなあと思って他の方の感想を見たら、本家のテレビ番組の雰囲気を再現してあるんですね。
読了日:05月16日 著者:朝井 リョウ
大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ (星海社新書)の感想
人気の大使によるジョージア案内。大使は人生の半分くらいを日本で暮らしているとのことで、表現や例えが親しみやすい。ジョージアといえば、ピロスマニ、スターリン、ワインを連想するが、さすがにスターリンはスルーされている。コンパクトな国土のなかに険しい山、温泉、古い教会、黒海、豊かな食材がぎゅっと詰まっていて、ますます行きたくなった。次の次くらいの行先にしようかなあ~
読了日:05月23日 著者:ティムラズ・レジャバ,ダヴィド・ゴギナシュヴィリ
ジャーナリスト与謝野晶子の感想
先月の書評連載に取り上げた『よみがえる与謝野晶子の源氏物語』で参照されていた本。こちらは晶子の社会評論活動に焦点を当てている。歌人として一世を風靡した晶子だが、パリから帰った頃から社会批評に重心を移し、大量の文章を発表している。ジェンダーの問題や国際化についての考察など、今読んでも先進的で鋭い(逆に言えば百年経っても日本社会はさほど変わっていない?)。思わず授業で熱く紹介してしまった。続けて晶子の書いたものを読もうかな。
読了日:05月25日 著者:松村由利子
女の子たちと公的機関:ロシアのフェミニストが目覚めるときの感想
書評で見つけたのだったか。現代のロシアの女性作家による作品。邦題が直訳すぎる気がする。「女の子たち」とは年齢にかかわらず、公的機関(作品では図書館や美術館が舞台)に非正規で使われる女性たちを指しているので間違いではないが、意訳したほうが手に取る人が増えそうな。本文も、どうもこなれない文章だなと思いながら読んでいたが、作品全体を詩として受けとめればよいのかと思ってから読みやすくなった。おそらく原文はもっと引き込む力があるのだろう。
読了日:05月26日 著者:ダリア・セレンコ
夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行くの感想
ロシア語翻訳家の留学の思い出。母の影響で外国語学習に関心をもち、高校卒業後、ロシアで本格的にロシア語、ロシア文学を学んだ著者。親友との寮生活、テロの脅威と余波、恩師との出会い、猛烈に勉強に明け暮れる日々。それぞれの章がロシア文学の言葉とシンクロしていて雰囲気がある。うっとりと読みふけった。これは書下ろしなのだろうか。連載物にありがちな重複やムラがなく、ていねいに書かれた本だと思った。
読了日:05月29日 著者:奈倉有里
ウォーク・イン・クローゼットの感想
夫氏が借りてきたのを私も。1本目「いなか、の、すとーかー」は、2人の女性に異様に執着される新進陶芸家の話。途中は、いや~な感じが巧く出ているのだが、途中から展開が読めてしまう。終わり方もどうもしっくりこない。この作家は(そんなに読んでないけど)、先に練らずに書き進めるタイプなのだろうか。主人公の悪友が実はストーキングを手引きしていたことに主人公が全然気が付かないままなのはリアルといっていいのか、あるいは盛り込みすぎか? タイトルの妙な表記は、そのことともなにか意味があるのだろうか。2本目「ウォーク・イン・クローゼット」は、話としては1本目のようなムラがないように思えた。主人公は男性にモテることしか考えてないような女性で共感できないが、幼なじみとの友情がいいし、ちょっとずつ自分をもつようになっていくので読後感は良い。
読了日:05月30日 著者:綿矢 りさ
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