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映画「八犬伝」…正義で何が悪い.


映画「八犬伝」-1
製作年:2024年 制作国:日本 上映時間:149分



邦画鑑賞が続いている.
役所広司の新作を公開初日に近所のシネコンで観賞.
本年度累積213本目は滝沢馬琴の物語.
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山田風太郎の小説「八犬伝」を役所広司主演で映画化.
里見家の呪いを解くため運命に引き寄せられた8人の
剣士たちの戦いをダイナミックに活写する“虚構”パートと、
その作者である江戸時代の作家・滝沢馬琴の創作の
真髄に迫る“実話”パートを交錯させて描く.

人気作家の滝沢馬琴は、友人である絵師・葛飾北斎に、
構想中の新作小説について語り始める.
それは、8つの珠を持つ「八犬士」が運命に導かれるよう
に集結し、里見家にかけられた呪いと戦う物語だった.

その内容に引き込まれた北斎は続きを聴くためにたび
たび馬琴のもとを訪れるようになり、2人の奇妙な関係
が始まる.連載は馬琴のライフワークとなるが、28年の
時を経てついにクライマックスを迎えようとしたとき、
馬琴の視力は失われつつあった。絶望的な状況に
陥りながらも物語を完成させることに執念を燃やす
馬琴のもとに、息子の妻・お路から意外な申し出が入る.

滝沢馬琴を役所広司、葛飾北斎を内野聖陽、
八犬士の運命を握る伏姫を土屋太鳳、馬琴の息子・
宗伯を磯村勇斗、宗伯の妻・お路を黒木華、馬琴の
妻・お百を寺島しのぶが演じる.
監督は「ピンポン」「鋼の錬金術師」の曽利文彦.

以上は《映画.COM》から転載.
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“八犬伝(南総里見八犬伝)”は曲亭(滝沢)馬琴
により1814年から28年かけて106巻が刊行された
戯作(げさく). 虚構の世界を描く.
室町時代を舞台とし安房里見家の伏姫の因縁に
よって八つの玉に導かれたアザをもつ若者が
里見家に結集し古賀公方を討つというストーリー.

本映画は、その虚構の世界を描くと供に、文字
起こしされる前の馬琴:役所広司の脳内の事を
ふらっとやってきた葛飾北斎:内野聖陽に口頭で
聞かせる構想という体で始まり、馬琴の半生を
描きだす.


映画「八犬伝」-2


いわば虚実二つの物語が並行して描かれる巧みな
脚本になっている.二つ分ゆえ二時間半にも及ぶ
長尺は致し方無いであろう.

テーマは“虚実”であろう.馬琴と北斎は連れだって、
流行りの歌舞伎を観に行く. 出し物は「東海道四谷
怪談」と「仮名手本忠臣蔵」の合わせもの.
いわば虚と実の混ぜ合わされたものであった.

四谷怪談の登場人物は、忠臣蔵の登場人物の娘
だったり孫だったりする.映画に出てきた中村座に
おける初演では、この2作品を物語の時系列順に
2日かけて上演され、馬琴と北斎は二日も足を運ぶ.

このくだりで、中村獅童や尾上右近による歌舞伎や、
日本最古の芝居小屋である金丸座の様子も再現
されているのは金が掛かった映画と再認識させられる.

この芝居小屋での鶴屋南北:立川談春との対峙は、
本作の見どころのひとつ.薄暗い奈落で、馬琴は南北と、
創作についての刃を交えるようなやりとりをする.

舞台上から暗がりに逆さに頭を覗かせ、天井近くの
スペースに貼り付いたまま会話する立川談春の姿と
語り口が、絶妙に不気味で可笑しく、インパクトがある.

この舞台を見た馬琴は、お岩の不幸話が忠義を果たす
仇討ち物の合間に挟み込まれている様について
「辻褄が合わない」と言う.

馬琴は、正しいものは本来報われるべきと考える.
一方、南北は四谷怪談を「実」だと言う.正義が
報われる話など非現実的だと.

南北の意見に反発する馬琴だが、彼の舞台に惹き
つけられたことも事実で、その後この時の会話が
頭から離れなくなり、その後の「八犬伝」作成に
悩むこととなる.

実の部分を演じる役所広司と内野聖陽は存在感
が半端無く、堂々たる演技を魅せてくれる.
脇では馬琴の妻に寺島しのぶ、嫁に黒木華と
申し分無いキャスティングだ.二人とも上手い
演技を見せてくれる.

虚のパートの「八犬伝」では伏姫:土屋太鳳を
筆頭(笑)になにやら得体の知れない若者たちで
大根役者オンパレード(笑).


映画「八犬伝」-3


八犬伝パートはダイジェスト的な進行だし、
キャラ立ちし過ぎるような大げさな演技が
実パートとの落差があって、かえって
相応しかったのかもしれない.

善なる一族への呪いを解くため、運命の絆と
使命を持つ者たちが一人また一人と出会い、
敵地に乗り込んでラスボスを倒す.
ちなみにラスボスは玉梓:栗山千明で、
怪演を見せてくれる.

最後に彼らに使命を与えた姫君伏姫:
土屋太鳳が現れ、これまた見事な大根演技
を披露してくれるのには大笑い.

創作物をただ享受する側から見れば、正しい
ものが報われる話も、報われない現実を描く話も
両方あっていいと思うが、個々の創作者には
それぞれ違う信念がある.


映画「八犬伝」-5


馬琴は76歳になり視力を失ってもお路:黒木華
の助けを得て完成にこぎつける.それだけ創作意欲
を保ち続けられるのは稀有なことだ.

この信念があればこそ馬琴は、28年に渡り物語を
紡ぎ続け、完成させることができた.
 正しいと思うものを命尽きるまで貫けば、それが
「実」になると馬琴のファンであった渡部華山は言う.

息子の死や失明を乗り越えて馬琴が完成させた
この物語は、現在に至るまで時代を超えて人々の
心を動かし続けている.

本映画のキャッチ「正義で何が悪い」、
これは不変の至言であろう.
 
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