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映画「別れる決心」…ビターな大人の恋の物語.


映画「別れる決心」-1
原題:Decision to Leave 製作年:2022年
製作国:韓国 上映時間:138分




お昼に柏の葉で中国映画を観て、そのままおおたかの森へ行き、
韓国映画を観る.この日はアジアン・ディだね ♪
カンヌで監督賞を獲った作品をTOHOシネマズおおたかの森で
本年度43本目に観賞.
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「オールド・ボーイ」「お嬢さん」のパク・チャヌク監督が、殺人事件を
追う刑事とその容疑者である被害者の妻が対峙しながらも
ひかれあう姿を描いたサスペンスドラマ.

男性が山頂から転落死する事件が発生.事故ではなく殺人の可能性
が高いと考える刑事ヘジュンは、被害者の妻であるミステリアスな
女性ソレを疑うが、彼女にはアリバイがあった.

取り調べを進めるうちに、いつしかヘジュンはソレにひかれ、ソレも
またヘジュンに特別な感情を抱くように.
やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに見えたが…….

「殺人の追憶」のパク・ヘイルがヘジュン、「ラスト、コーション」の
タン・ウェイがソレを演じ、「新感染半島 ファイナル・ステージ」の
イ・ジョンヒョン、「コインロッカーの女」のコ・ギョンピョが共演.
2022年・第75回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞.

以上は《映画.COM》から転載.
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ストーリーの軸を担うのは、2人の男女…岩山の頂から転落した男の事件
を追う刑事ヘジュン:パク・ヘイルと、被害者の妻ソレ:タン・ウェイだ.
ヘジュンは、ソレを容疑者として監視するうちに、特別な感情を抱くように
なっていく.

取り調べが進むなかで互いの視線は交差し、距離は縮まっていく.
やがて事件解決の糸口が見つかる.しかし、相手への想い、疑念が
深まっていくうちに、予想もしえない結末へと向かっていく….


映画「別れる決心」-2


刑事が容疑者に惚れていくパターンって、たいていはその容疑者は
ファム・ファタール(=男を破滅させる魔性の女)と相場が決まっている.
本作のヒロイン・ソレも最初のパートではそう見える.
最初の事件ではそう見えて完結するかの様相をみえるのだが、中盤から
後半の第2の事件が起きて、ソレは通常の魔性の女では無いことが明らか
になっていく.


映画「別れる決心」-3


このパク・チュヌク監督は小物使いが実に上手い.後半でソレが着用して
いるワンピースが、人によっては緑に見えたり、青に見えたりする.
これは、ソレという女性は、どういう人間なのか=ファム・ファタールなのか?
あるいは、単にヘジュンを愛する女性なのか…を比喩的に現す小道具なのだ.

また、今時だからのスマホの道具としての使い方も上手いと感じた.
第1の殺人のアリバイとしてのスマホや、そのアリバイ崩しのキーとなった
スマホの万歩計機能とか.

アリバイだけでなく、愛の道具としてもスマホが使われる.
それはスマホの翻訳アプリ.韓国人ヘジュンと中国人ソレの架け橋となる存在.
流暢に韓国語を話すソレだが、重要な事柄は中国語で伝えたい.そこでスマホ
の翻訳アプリに話しかける.

ソレがあえて中国語を話す時は、とても言いたいことがあり、気持ちが切迫し、
興奮しているような状態に見える.それは表情を見ていればわかる.そんな時に
ソルはスマホに対して中国語で話しかける…ヘジュンは、一体、何を話している
のだろう、と感じる.そして、その全容がわかるまで待たなければならないという
もどかしさが生じる.そんなもどかしさに、ヘジュンは“待ってでもわかりたい”と
思うのだ.男と女の関係に生ずる“もどかしさ”の表現にうってつけの道具と感じた.

その他にも、指輪や靴、食べ物、ハンドクリームといったアイテムを用いて
互いの心情を繊細に紡ぎ出し、ヘジュンとソレの愛憎をクールに描き出す
そのアイディアと手腕には唸らされるばかりだ.

脚本もパク・チャヌク自身によるもの.冒頭の山岳転落事件は中盤で一応の
解決を迎えるが、そこから1年後に更に物語は意外な方向へと向かい、
物語は二転三転する内容で、捻りの利かせ方でグイグイと引っ張っていく.
その中でヘジュンとソレの密かな恋慕が切なく静かに盛り上げられていて、
観てて胸が苦しくなるほどだった.

たしかに殺人のからむサスペンス・ドラマの形は取るものの、追う者と
追われる者、見る者と見られる者、ヘジュンとソレの立場を巧みに
交錯させながらスリリングなメロドラマに転じていくのは見事な手腕だ.

これは大人のための映画だ.喪失の物語を悲劇的なものとして語るの
ではなく、繊細さとエレガンスとユーモアをもって表現した、
“大人の恋の物語”に仕上がっている.

今のところ、今年観た45本の中では、ベストだ….


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