映画「ある船頭の話」 (DVD観賞)
制作年:2019年 制作国:日本 上映時間:137分
この春公開の作品.コロナ禍のごたごたで観落してしまったので、DVDリリース
されたのを機に鑑賞.家庭内鑑賞86本目.
オダギリジョーの長編映画初監督作品で、柄本明が演じる船頭を通して本当の
人間らしい生き方を描いた.
橋の建設が進むある山村.川岸の小屋に暮らし、村と町を繋ぐため船頭を
続けるトイチは、村人の源三が遊びにやってくる時以外は黙々と渡し舟を漕ぐ
毎日を送っていた.
そんないつもと変わらない日常を送るトイチの前に、ある1人の少女が現れた
ことをきっかけに、トイチの人生は大きく変わっていく.
主人公のトイチ役を「石内尋常高等小学校 花は散れども」以来11年ぶりの
映画主演となる柄本明が演じ、源三には村上虹郎が扮した.
「ブエノスアイレス」「恋する惑星」などで知られるクリストファー・ドイルが撮影監督
を務め、黒澤明監督の「乱」でオスカーに輝いたワダエミが衣装デザインを担当.
音楽を映画音楽初挑戦となるアルメニア出身のジャズピアニスト、ティグラン・
ハマシアンが手がける.
以上は《映画.COM》から転載.
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斎藤工とかオダギリジョーとかこの世代の役者たちは監督志向が強いね.
映画作りは総力戦だから、だれが支援するかで大きくその作品の質を
左右すると思う.
本作に関していえば、衣装、音楽はとにかくとして、 その撮影、映像の
素晴らしさはとびっきりだ. クリストファー・ドイルによる映像美は本当に
一見の価値がある.
川のせせらぎ、穏やかさ、山々の緑、青い空、白い雲….
色調を抑えモノトーンに近いような表現で構図もきっちりまとまっている.
主たるシーンの季節は夏.穏やかな川の流れに響くひぐらしの鳴き声が
たまらなく愛おしく感じられる.
打って変わって終盤は冬の雪のシーン. 雪に包まれた白銀の画は、
水墨画のように感じさせてくれる.
さて、主役トイチを演ずる柄本明. 渡し舟の船頭をしている.川の辺りの小屋で
一人で暮らし、客が来ない時は 魚を釣り、木彫りをし、客が来たら舟を出す.
客は様々.馴染み客:浅野忠信、永瀬正敏や風変わりな医者:橋爪功、
上品な老婦人:草笛光子や、芸姑:蒼井優が率いる若い女たち….
草笛と柄本の会話が印象的.「いやね、孤独って言う字、知ってる?
孤独の『孤』は『狐』って字に似てんだよ」.
忘れた頃に川べりに孤独な狐が1匹たたずむシーンが挿入される….
近くで橋の建設に携わる職人たちも船に乗る.散々嫌味や悪口を言われる.
「役に立たないものはみんななくなっていくんだよ.わかるか、船頭!!」
橋の建設の完成までもうすぐ.完成したら便利になる.行き来が忙しくなり、
村にとっても町にとっても仕事や生活が豊かになる. その一方…、
渡し舟の仕事は無くなる.
それに対してもトイチは一見は穏やか.そうなったら、そうなるまで….
実際は心中、穏やかではない.皆の生活が豊かになるのはいいが、
自分自身は…、今更他の仕事は出来ない.
複雑な心境を柄本明は微妙な表情をうまく演ずる.
川上から流れてきた少女、お風:川島鈴遥とも付かず離れずの不思議な関係.
名の「お風」になぞらえてかのセリフが次々出てくる.
「風向きで水の流れが強くも弱くも、川の性格まで変えちゃうだろう」
「風が吹けば船は流される、世の中も少しの風で変わってしまう」
橋が出来て、渡し船の仕事は終焉を迎える.トイチの家に出入りしていた
源三:村上虹郎の背広姿に驚かされる. かつては「できあがる前にぶっ壊さ
ねえか、あの橋」とトイチにささやいていたのに.
これが時代の変わりよう、これが人の変わりようと象徴的な姿だが、お風に
襲い掛かり、あっけなくお風に返り討ちされてしまう最期も哀れだ.
最後は源三の遺体と小屋に火をつけ、お風と船で逃避行にでるトイチの姿.
冬の白い川辺にこぎゆく船の画像が限りなく美しい….
近年最も美しいラストシーンかも….
「何か新しいものを求めたら古いものは消えていく、それはしょうがないことなんだ」
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