映画「ダブル・サスペクツ」
原題:Roubaix, une lumiere
制作年:2019年 制作国:フランス 上映時間:119分
レンタル屋の棚で探す際はジャンルと表題で探すのだけど、たまに監督名や俳優で
選んでしまうことがある.本作は女優の名で選んでしまった、好きな女優:レア・セドゥー
に惹かれて本年度家庭内DVD観賞60本目に観たのはフランス製警察映画.
「そして僕は恋をする」のアルノー・デプレシャン監督が、自身の故郷である
フランス北部の町ルーベを舞台に殺人事件の顛末を描いたサスペンスドラマ.
ベルギー国境に近いフランス北部の小さな町ルーベ.中東系の警視ダウードが
署長を務めるルーベ中央警察の管内は治安が悪化し、凶悪犯罪が多発する
ようになっていた.
ある日、年老いた女性が他殺体となって発見される.捜査に乗り出したダウードらは、
被害者の近所に住む貧しい女性クロードとマリーを逮捕し、入念な取り調べを
始めるが…….
出演は「007」シリーズのレア・セドゥー、「チャップリンからの贈りもの」のロシュディ
・ゼム、「ゲンスブールと女たち」のサラ・フォレスティエ.
2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品.
WOWOWでは「ルーベ、嘆きの光」のタイトルで放映.
以上は《映画.COM》から転載.
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本作、日本では劇場未公開.WOWOWでだけの放映.
その時は「ルーベ、嘆きの光」のタイトルだったらしい.ほぼ原題通りでこれは
好ましい.「ダブル・サスペクツ」の題の陳腐さは言うまでもない愚劣さ.
舞台はベルギー国境に近いフランス北部の街ルーベ. 在仏時に近所を通った
覚えがあるが、なんの変哲もない普通のフランスの地方都市.
中産階級は姿を消し街は破綻.75%は問題区域に指定.人口の45%が貧困に
苦しみ、あらゆる人種が集まり、その昔産業で栄えたことなど誰も知らない街だ.
主人公の署長ダウードにロシュディ・ゼム、北アフリカからの移民だが、彼自身は
この地で生まれ、育っている.家族はみな北アフリカへ帰国していて、一人暮らしだ.
職務も真面目にこなし、部下の面倒見も良く、温厚な人柄.私生活も服役中の
甥がいたり、馬好きで馬主であるとか、性格描写も含め.丁寧に描かれている.
そんなルーベ署で扱う個々の事件を淡々と写していくのが前半.フランスの地方
警察の仕事ぶりがじっくり観察できる.後半は放火時間と老女殺人事件が中心で
ここで、二人の若き女性クロード(レア・セドゥ)とマリー(サラ・フォレスティエ)が登場.
街で起きた放火事件の目撃者であり殺人事件の通報者である2人の女性
クロードとマリー、結局この2人が容疑者として逮捕される.
それからは終盤まで、新任刑事:アントワン・ライナルツと署長の二人の女性への
取り調べシーンが中心になる. レア・セドゥーが演じているからといっても、綺麗、
可愛いという部分は微塵も無く、生活に疲れた貧困層の子持ち姉さんを演ずる.
取り調べ中、相手を庇いたい、自分を守りたい、嘘と小出しにする真実….
徐々に取り調べで追い込まれていく様子が描かれる.
このパートが本物語の核心なのではないだろうか.「真実」が形をかえられていく様
を見ることができる.事情聴取で見えていた、クロードとマリーの証言の食い違いは、
クロードに圧倒的に不利な状況を生み出す.実際に殺人に手を下していないと主張
していたのに.
しかし、現場での実況見分で、クロードの強さ、美しさ、まなざしにより、ある意味で
精神的に支配されていくマリーがする証言は、クロードの誘導通りになっていく.
クロードの言葉と態度により、マリーの記憶の中の「真実」がどんどん造り替えられて
行く様が描かれる.署長は否定も肯定もせずただ聞き流している.
このスタイルの尋問と思い込みの捜査、その特殊さがフランス警察の基とは
思いたくないのだが、なにか強い違和感を感じてしまう.
人は言葉や記憶により、真実を構築していく存在なのだろうか.
真実は立場の違いにより、いくつかあるという簡単なものではなく、人と人の
コミュニケーションにより、別の真実へと上書きされていく…そんな現象を
目のあたりに見せつけられる特殊な作品.
人によって本作は評価が分かれるだろうな.
私は違和感を感じるし、全く話に華が無い.
手放しで誉めようとは思わない.
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