ドメスティック・バイオレンス(DV)についての相談件数は、配偶者暴力相談支援センター(2022年度)では約12万件、内閣府のDV相談プラス(2022年度)は約4.8万件、警察への相談件数(2022年)は約8.5万件と高止まりしています。
 2019年、立憲民主党の提案により児童虐待防止法改正にDV防止法(「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)見直しの検討条項が盛り込まれたのを受けて政府内での検討が始まり、第211回通常国会では「暴力」に「精神的暴力」を含める等の改正案が成立しました。

 内閣府が男女間の暴力について行った調査で、配偶者から暴力を受けたことがある女性は約4人に1人、うち5人に1人は命の危険を感じた経験があることが分かっています。
 他方で、被害を受けた女性の約4割がどこにも相談しておらず、相手と別れたい(別れよう)と思ったが別れなかった人も4割以上にのぼります。
 なぜ、DVの被害者は、暴力を受けているのに、相談して助けを求めたり、加害者と別れたりできないのか。DVは、身体的暴力だけでなく、心理的暴力・経済的暴力・責任転嫁(暴力を被害者のせいにする)・特権を振りかざす(「しつけのため」など主張する)・子どもを利用した暴力など、外から見えにくく、暴力と認識しにくい力を利用して「パワーとコントロール(力と支配)」を強めていく構造があると説明されます(パワーとコントロールの車輪)。  被害者は、この構造にまきこまれると、暴力に支配されて逃げる機会や気力を失ってしまい、加害者に迎合して孤立してしまうことがあるといわれています。
 また、社会的な要因として、人権侵害であるDVを「家庭の問題」と矮小化する考え方や、女性の経済的自立が困難なこと、「妻は夫に従うべき」「どんな親でも子どもには必要」といった意識などがあると指摘されています。

◆DV防止法と今回の改正点
 DV被害者を救済するには、まず被害者と加害者を引き離すことが必要です。加害者の支配下では、被害者は加害者の意に反する行動をとることができないからです。
 DV防止法は、DVの被害者と加害者を引き離すため、裁判所が加害者に対し被害者や子どもに接近すること等を禁止する接近禁止命令や、住居からの退去を命じる退去命令などのしくみを定めています。
 DV防止法は2001年に成立し、その後4回(2004年、2007年、2013年、2019年)にわたる改正が行われました。
被害者支援団体などから、
・対象となる暴力の範囲が狭すぎ、相談の多くを占める精神的DVが含まれていないこと、
・接近禁止命令の期間が短く、被害者の保護に欠けること、
――などの課題があると指摘されていました。
 政府はこれらの指摘を受け、今年2023年の通常国会に、
・接近禁止命令の対象となる被害に精神的被害を含めること
・接近禁止命令の期間を1年に延長すること
――などを定めるDV防止法改正案を提出しました。立憲民主党は、この法案に附帯決議を附して賛成。法案は可決成立して2024年4月から施行されます。

衆議院 附帯決議
参議院 附帯決議

◆残された課題
 2023年改正法では、加害者への退去命令については微修正にとどまり、被害者が「逃げる=生活の本拠地から離れる」不利益を余儀なくされる状況は変わっていません。また、差し迫った危険から被害者を守るための緊急的な接近禁止命令についての定めもありません。
 さらに、DV防止法によって保護されるのは同居のパートナーのみで、いわゆるデートDVは保護対象とされていません。しかし、女性を暴力やDVから守るためのイスタンブール条約(※)(日本は未加入)は、同居していないパートナーや親子間で発生する暴力もDVに含めて対策を求めています。
(※)女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンスの防止に関する欧州評議会条約

すべての人が暴力や差別から自由になるために
 DVは、蓄積期(ストレスが蓄積される)―暴力爆発期(激しい暴力)―ハネムーン期(謝罪して極度にやさしくなり二度と暴力を繰り返さないと誓う)→備蓄期→というサイクルで繰り返されるパターンがあり、このことも、被害者や周囲が被害や危険性を適切に認識できなくなることの一因です。被害者や支援者が「暴力は人権侵害であり許されない」と正しく認識できるための環境整備が必要です。
 イスタンブール条約は、暴力やDVの防止のため、メディアや教育を通じて女性に対する暴力に寛容なステレオタイプをなくすために意識啓発を行い、被害者と関わる専門家を訓練することも求めています。
 女性差別のゆがんだ考え方による被害が生まれないよう、さまざまな施策においてジェンダー平等を実現しなければなりません。DV被害者の多くは女性ですが、男性やノンバイナリー(本人の自認する性が、男性/女性の二分法(バイナリー)に当てはまらない人や状態のこと)等の被害も防止・救済されるべきことは言うまでもありません。

 立憲民主党は、すべての人が暴力や差別を受けることのない、自由や尊厳が守られる社会の実現を目指し、取り組みを進めます。

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