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絶賛炎上中の「LGBTが気持ち悪い人の本音」記事はなぜ完全にダメなのか


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4月6日に掲載されて炎上しているwithnewsの記事ですが、どこがどうダメなのか完全解説してみましょう。詳細は以下から。

朝日新聞東京社会部の原田朱美記者によるwithnewsの「LGBTが気持ち悪い人の本音『ポリコレ棒で葬られるの怖い』」が各方面で盛大に炎上しています。

記事内容は記者が「LGBTが理解できない」と明言する「ただの差別主義者」へのインタビューに愚にも付かない感想が貼り付けられたもの。社会問題を裏側から眺めてみて「簡単に答えの出ない難しい問題だ」と悩ましげに頭を抱えるだけの簡単なお仕事です。

とはいえこの記事には差別とは何かということ、多様性とはどういうことかということについて看過できない誤りを含んでいるため、徹底検証してみます。

◆「心で思う」ことと「表現する」ことは完全に別物である
まず指摘しておかなければならないのは、心の中で差別的な考えを持っていることと、その考えを心の外に出すことは全く別の話であると言うことです。

差別問題が大きく取り上げられるようになった2010年代の日本でキーワードとして登場したのが「ヘイトスピーチ」という言葉ですが、この訳語は「差別扇動表現」であり、言葉に限らずイラストや動画などの表現全てを内包しています。

ここで注目すべきなのは、差別というのはあくまで「表現行為」であるということ。対象を属性で排除し、誹謗中傷し、嘲笑するなどの実際の行為によってのみ「差別が行われた」と言うことができます。

例えば先日大きな騒動となった「保毛尾田保毛男」のように、LGBTを揶揄し、嘲笑するようなキャラクターを登場させることは差別行為になりますし、これに触発されてLGBTを笑いものにする事も差別行為と認定されて致し方ないものです。

逆に言えば、「心の中」でどれだけLGBTを「理解不能。気持ち悪い」と思おうと、それが心の中でだけ思っていて心の外に「表現」されなければ何ひとつ問題はありませんし、その人は差別主義者とは呼ばれません。

キリスト教では「マタイによる福音書 5:28」に

女を情欲を抱いて見つめる者はみな,心の中ですでにその女と姦淫を犯したのだ

(マタイによる福音書 5_28 (Japanese Bible)より引用)


とあるように、実際に行為に及ばず心の中で思うだけでもその罪を犯したとされます。ですが、神ならぬ人間には他人が心の中で何を思っているかを知る事はできませんし、法治国家では「表現」されない心の中の考えをもとに人を断罪することは許されません。

お分かり頂けたでしょうか?つまりこの男性は心の中でLGBTを「理解不能。気持ち悪い」と思っているからではなく、アンケートに「本音」を記載し、記者に話すという表現を行っていることで「ただの差別主義者」へと成り下がったのです。

◆LGBTを「理解」する必要は無い
そしてこの男性を含め、多くの人が勘違いしているのが、LGBTを差別しないためには「理解しなければ」ならないと考えていること。このふたつは全然別問題なのですが、なぜかひと繋がりのこととして捉えられがちです。

差別しないことと理解することはイコールでは結べません。この男性のように「自分と同じ体をしているんだよ?それで興奮するの?」と、LGBTのことが理解できなくても全然構わないのです。

理解できない事と、差別をする事の間には20億光年程の距離があります。大切なのは誰が同性を好きになろうが(或いはネリリし、キルルし、ハララしようが)、そのことを理解できなくても放っておくことです。

多様性というのは異質な存在が異質なまま共存することです。相互理解できないからこそ異質なのですし、無理矢理に「理解」しようとすればそこには異質さ故の軋轢が生じます。

LGBTの話で言えば、異性愛者が同性を好きになる感覚を理解する必要はなく「自分が異性を好きになるように同性を好きになる人がいるんだな」と頭で分かっていればもう十分で、心までついていかせる必要はありません。

では、必要なのが理解ではないなら何なのか?それはLGBTがその属性によって差別されている時に、それはおかしい、あってはならないと気付けることです。この男性で言えば

「僕、保険の代理店をしていたこともあるんですけど、同性パートナーだと保険金の受取人になれないんですよ! 3年前に知って驚きました。そんな不都合は、すぐ解消してあげたらいいと思うんです」

(LGBTが気持ち悪い人の本音 「ポリコレ棒で葬られるの怖い」 - withnews(ウィズニュース)より引用)


という感覚です。マイノリティがその属性によって不都合を被っている時に、それを解消すべきだと考えられること。これは社会に公正さを求める態度ですが、LGBTを(そしていかなる属性の人も)差別しないために必要なのは「理解」ではなくこの考え方です。

◆時代は巡り「心の原風景」の花畑はもう存在しない
この男性はそうした意味では差別をしない準備はできているものの、それでも差別表現を行い「ただの差別主義者」に堕してしまっています。そしてその理由を尋ねられた時に「心の原風景」という極めてナイーブな言い訳を持ち出します。

この男性は、LGBTへの差別を批判されることを古き良き中学生時代の「心の原風景」を荒らされる行為だと受け取るのです。

「後になって『あの時傷ついた人に気付けなかったあなたは罪人です』と言われると、『うち実家の花畑はキレイだなあ』と思っていたら、いきなり戦闘ヘリが飛んできて機銃掃射で荒らされる、みたいな気持ちになるんですよ」

(LGBTが気持ち悪い人の本音 「ポリコレ棒で葬られるの怖い」 - withnews(ウィズニュース)より引用)


これは原田記者も言及しているように、実際に中学生時代に「保毛尾田保毛男」に大笑いしたことを実際に咎められたのかは明らかにされていません。

もしこの男性にとって「そう思えている」だけの話だとすれば、脳内に「マジョリティを啓蒙してやるという選民思想感が鼻持ちならない」「この手の議論に関わるLGBTの人」の藁人形をせっせとこしらえて被害者意識に浸っているだけに過ぎません。

また「『うち実家の花畑はキレイだなあ』と思っていたら、いきなり戦闘ヘリが飛んできて機銃掃射で荒らされる」としていますが、実際はこの男性は実家の花畑をキレイだなあと思っていたわけではなく、LGBTの人の花畑が戦闘ヘリの機銃掃射で荒らされる様子を見て大笑いしていたのだということを指摘しないわけにはいきません。

「昔は緩かった」「昔はもっとおおらかだった」と懐かしむ時、その緩さやおおらかさは、誰かの被害や忍従の上に成り立っていたのかもしれないということは常に頭に入れておかなくてはなりません。

◆「ポリコレ棒で葬られるの怖い」という幻想
この記事はLGBTへの差別という文脈で書かれていますが、忘れてはならないのは、この問題は人種差別、性差別、被差別地域問題などと基本的に変わらない「差別問題」という構図の話だということ。

そして、LGBTに対して言われているのと同じ事を外国人や女性、該当する地域に住む人たちに言えるのかということです。

「この年まで〇〇が当たり前だと思っていたのに、急に『お前は差別主義者だ!自覚せよ!』と糾弾されて、社会的に罪を背負わされたような表現をされると、こちらとしても、つい『何を!?』となってしまうんです」

という〇〇に「奴隷制度」や「士農工商穢多非人」「男尊女卑」などを代入してみれば、「何を!?」となってしまう感覚がいかに差別主義的であるかが分かります。

大切なのは「これまでは当たり前だったということが、今現在差別してもよいという理由にはならない」ということ。今ある状況は公民権運動や部落解放運動、女性解放運動などにより、差別されたマイノリティが「差別されない」事を目指して勝ち取ってきたものです。

この男性が突きつけられているのは、そうした差別に対する戦いとその成果を否定するのかどうかということ。もし否定するのであれば、それは差別をしたいのだと受け取られても致し方ありません。

つまり「ポリコレ棒で葬られるの怖い」とこの男性が告白する時、既にこの男性は自らが「差別棒」を手に持っていることを認めていることになります。

なお、ポリコレ棒で殴られるのは基本的には差別棒を振り回した時に「殴り返される」ということです。「心の中」に差別棒をしまっておく限りにおいてはいきなり殴られることはありません。

「そんなの窮屈で息が詰まってしまう」というのであれば、それは「自由に差別棒を振り回させろ」ということと同義になりますから、どうしても「ただの差別主義者」扱いされてしまうことを認めるしかありません。この男性は

「じゃあもう怖いから、何も関わらない方がいいとなってしまう。でもそれじゃあ、苦しんでいる当事者に対する偏見は消えなくて、ますます当事者は苦しみますよね?」

と言いますが、「何も関わらない」で全く問題ありません。理解もせず、差別棒も振り回さず、何も関わらずに生きればいいのです。この男性がわざわざ当事者に対する偏見を消そうとする必要もありませんし、当事者の苦しみに寄り添う必要もありません。

◆「本当の解決」と結論の不在
ここまで読んできましたが、この男性の言う「本当の解決」とは何なのかを考えても曖昧模糊としてつかみ所がありません。

直前に「忖度して『差別はよくない。みんなで明るい未来をつくろう』と回答すれば、良かったのかもしれない」とあることから、タテマエのキレイゴトを述べても「自分の心に巣食うような差別はなくならない」と言いたかったのかもしれません。

であれば既に結論は出ており、「心にどれだけ差別が巣食っていようと、それを実際の言動で表現しない」ということに尽きます。

「差別はよくない。みんなで明るい未来をつくろう」は確かにタテマエのキレイゴトかもしれません。ですがそもそもの問題として、LGBTであろうとなかろうと「他人とは、心から理解して受け入れられる存在だ」と考えることも同様にタテマエのキレイゴトでしかありません。

繰り返しになりますが、理解できない異質な存在がいるにせよ、そうした人々と分かりあえないままに共存することこそが多様性です。求められるのは拒絶するのでも同調を求めるのでもなく、ただ放っておき、関わらないことです。

ですが原田記者はここで、月並みなドキュメンタリー番組の最後に美しい風景と穏やかな音楽に載せて語られるナレーションのように

どうすればいいのか、簡単にこたえは出ません。
ただ、「Bさんと会って、話して、よかったな」と思ったのは、たしかです。

(LGBTが気持ち悪い人の本音 「ポリコレ棒で葬られるの怖い」 - withnews(ウィズニュース)より引用)


とだけ述べてインタビューを尻切れトンボのままに終えてしまいます。ここには結論めいたものは何も存在していません。

この記事が「連載『LGBTのテンプレ考』」のひとつとして書かれている以上、この内容はどっちもどっち的な両論併記の役割を果たします。

差別問題という実際の被害者が存在する極めてセンシティブな問題において「LGBTが理解できない」と明言する「ただの差別主義者」の言い分に価値判断や批判を加えないままに垂れ流すことは、「こういう人もいる」「こういう意見もある」とした差別の再生産への荷担となり得ます。

最後にバンクシーがパレスチナのガザ地区を訪れた時に世界に向けて発したメッセージを掲載しておきます。

「もし我々が強者と弱者の間の紛争に無視を決め込むなら、我々は強者に加担しているのだ。中立のままでいられるわけではない」


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【2018 4/13 12:50追記】
この記事の主旨を全く理解していないまとめサイト「オレ的ゲーム速報@刃」が、本記事をネタにした悪意たっぷりのセカンドレイプ記事を公開しました。次記事にて徹底批判しておりますので併せてご覧下さい。

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