9月21日、アパレル大手の三陽商会が、250人程度の希望退職を募ると発表した。10月末から11月中に社内で募集をかけ、今年末には退職となる。退職者には通常の退職金に加えて特別退職金を支払い、再就職支援も行うという。

 同社は1970年から英国のブランド「バーバリー」とライセンス契約し、百貨店を主な販路に製造・販売してきた。しかし、2015年6月に契約が終了。ラグジュアリーブランドの方向へ舵を切ったバーバリーが、国外ライセンス事業の見直しに入ったためだ。

 バーバリーを失った穴は大きく、百貨店の市場規模自体の縮小もあいまって、売上高は2014年度から2017年度までに44%減となった。今年度は2月の段階では黒字計画だったが、7月に赤字に修正。その通りになれば3期連続の営業赤字だ。

ネット通販に大きな誤算

 三陽商会にとって誤算だったのが、ネット通販売り上げの失速だ。“ポスト・バーバリー”の成長施策の柱のひとつとして新経営計画にも盛り込み、実際にネット通販経由の売上高は2016年度に前期比28%増、2017年度にも前期比19%増と成長した。今年度も2月時点では30%増を計画し、好調と見られていたネット通販だったが、上期に頭打ちになった。上期だけで計画から6億円の乖離が生じ、7月に修正した計画では、今期は前年度比8%増を見込む。

 ネット通販の拡大に社内体制がついていけず、商品展開や在庫の確保が遅れたことが失速の原因だと同社は分析するが、そもそも成長の見通しが楽観的すぎたともいえるだろう。ファッション通販大手「ZOZOTOWN」の存在はもちろん、アパレル各社がZOZOTOWN依存からの脱却と利益率の向上を狙い、こぞって自社通販サイトの整備に力を入れている。その環境下で大幅な成長を維持することは一筋縄ではいかない。

試行錯誤で再加速目指す

 三陽商会はネット通販の失速から抜け出そうと、試行錯誤の真っ最中だ。9月10日には自社通販サイト「サンヨー・アイストア」を拡充し、モール型の「バイヤーズコレクション」を開始した。自社の衣料品に加え、バッグや時計、食器といった他社ブランド商品を取り入れる。

 今年4月にネット通販運営支援のルビーグループ(東京・品川)を買収した成果も、いよいよお披露目となりそうだ。同社は「ディーゼル」や「ケイト・スペード」など海外ブランドをクライアントに持つ上、サイトのデザインと購買率の関係を分析するなど、データを生かした通販サイト改善も得意とする。三陽商会はそのノウハウを活用し、7月に提携した米ライフスタイルブランド「アポリス」のネット通販をこの秋に開始する予定だ。従来の「サンヨー・アイストア」から独立した通販サイトとして運営し、ブランドの個性を打ち出すことを狙うという。

 ネット通販の成長を再加速させようともがく三陽商会。今回の希望退職を経てもその姿勢は変わらないはずだが、むしろより心配なのは、ものづくりに関わる人材の質だ。高品質のデザインと製造技術に定評があり、老舗百貨店や海外ブランドもうならせてきた。リストラはその技術を失うきっかけになりかねない。

日本橋高島屋S.C.の新館にオープンした「S.ESSENTIALS」
日本橋高島屋S.C.の新館にオープンした「S.ESSENTIALS」

 9月25日に開業した「日本橋高島屋S.C.」の新館に、三陽商会は自社ブランド「S.ESSENTIALS(エス・エッセンシャルズ)」を出店している。低迷が続く百貨店以外の販路開拓のため、近年開発が進む都市型商業施設にテナントとして入居することを前提にしたブランドだ。記者もテナントを訪れたが、品が良くしっかりとしたつくりの商品が多いと感じた。

 ものづくりの品質は、写真や動画を通じて伝えるのが難しい。これをどう顧客に向けて訴えるのか。それが三陽商会のネット通販戦略の命運を握るのではないかと、商品に触れながら考えた。もちろん、品質自体を失ってしまっては元も子もない。

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