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仕事のスピードが早く、人を動かし、想いを実現する、いわゆるデキるビジネスパーソンや経営者を数多く見てきた中で、ある共通点を発見しました。それは、「紙1枚」にまとめる要約力を身に付けていることです。
何十枚にも積み上がる会社の事業計画、自部門の課題と対策、大規模なプロジェクト計画など複雑な事象を、「紙1枚」にまとめあげているか。行動力があり、実績を出しているビジネスパーソンとそうでない人の差が、「紙1枚」の要約力の有無でした。
頭の中に1枚の地図を持っているかどうか。地図が1枚だからこそ、現在の位置と目指すべきゴール、その間に存在する障害を意識することができます。
100枚のプレゼン資料より難しい
この地図が、2枚以上になれば、途端に全体像が見えなくなります。それだけ、頭の中に「紙1枚」が落とし込めるかどうかは、圧倒的な行動力をつくりだす源泉になるのです。
ただし、この「紙1枚」にまとめるということ、これが実に難しい。100枚のプレゼン資料を書き上げるよりも、ポイントを絞り込んで「紙1枚」に削ぎ落とすことの方がはるかに難しいのです。
しかしながら、それが可能になれば行動力や生産性が飛躍的に向上します。代表的なのは、日本一の売上高を誇るトヨタ自動車です。同社は、問題解決のために「A3用紙1枚」にまとめることで、徹底的にムダを省き、要点を絞り込むことを習慣化しています。
前回記事の「小池都知事の"論点ずらし"は作戦か」では、会議を仕切る議長による「論点設定」がいかに重要かを述べました。ただし、それは極めて重要とはいえ全体の一部です。
長く無用な会議になるか、短くとも有用な会議になるかは、会議を仕切る議長の頭の中に「1枚の地図」が描かれ、制約ある時間内にどんなところへ落とし、どこのゴールへ持ち込むかの「地図」が必要になります。
「1枚の地図」とは、思考のフレームワーク(枠組み)です。あまり教わる機会のない、会議におけるフレームワークをご紹介します。その「地図=フレームワーク」が、会議を活用し、生産性を上げる大きな鍵になるのです。
会議の目的が決まったら人員を絞り込む
1枚におさまる6つの対策
以下が最強会議の「地図=フレームワーク」です。
会議している時間を「会議中」と置き、その前後に「会議前」と「会議後」で分別します。その3段階における「理想的会議」と「非効率会議」から6つの対策を挙げました。
【会議前対策】
①会議の目的を定める
会議には、目的が定まってないものがあります。一体なんのための会議なのか。その目的次第で運営方法やゴールが異なります。まずは、目的を整理しましょう。その目的とは、大きく3つに分かれます。
・「決定」会議
決断が求められる会議です。そのゴールは、「可決(OK)」か「否決(NG)」か。経営会議などが代表例です。
・「拡大」会議
発想の拡大や飛躍が求められる会議です。ブレスト(ブレインストーミング)などが代表例です。
・「共有」会議
意思伝達のための会議。伝達が必要な関連者全員が参加します。代表例は、全社員会、朝礼など。
②人員を絞り込む
会議の目的ごとに適切な人員は異なってきます。「可決」か「否決」を求める「決定会議」に、平社員だけが集まってもらちがあきません。会議の目的が決まったら、不要な人員は省き、必要人員を絞り込みましょう。
・「決定」会議
呼ぶ人員:決裁者、プレゼンター、ご意見番など。
呼ばない人員:非決裁者、平社員。
・「拡大」会議
呼ぶ人員:専門家、アイディアマン。
呼ばない人員:批判家、超現実主義者。
・「共有」会議
呼ぶ人員:関連者全員。絶対に抜け漏れがないようにする
呼ばない人員:部外者
会議の制限時間を2つに区切る
【会議前対策】
③会議シナリオを持つ
会議には、必ず制限時間があります。終わりがあります。スポーツで例えるなら、野球のように延長試合があることを想定するのではなく、サッカーのように制限時間で勝敗がつくことを肝に命じなければなりません。
そして、会議の制限時間を2つに区切ります。前半は「拡大時間」です。ここでは、論点を絞った上でですが、その論点を外れない範囲で広く多くの人からの意見を募ります。後半は「収束時間」。ここでは、広く意見を募ったことを3つくらいに絞り、“見える化”します。例えば、
・A案:議長の本命案(前半の意見の中から大多数で適切と思われた意見)
・B案:議長の対抗案(A案とは真逆になるような意見)
・C案:想定外の派生案(A案、B案以外の参加者派生意見)
これらを3つに区分けできたなら会議における議長の仕事は終わったようなものです。なぜなら、3つの中から多数決を取れば、会議の方向性が決定づけられるからです。
「無口モンスター」の意見を活性化
④無関心者から発言を引き出す
ただし、会議にはダンマリを決め込み無関心を装う、「無口モンスター」が存在します。彼らは、その無関心ゆえ声の大きいインフルエンサーに左右されます。したがって、一斉発言したものを見える化し、意見を引き出します。
具体的には、ポストイットを配布し、意見を書いてもらい、一斉に貼り出すのです。こうすることでインフルエンサーの影響を受けず、参加者の意見が見える化され、自分の意見の立ち位置が分かるのです。議長は見える化された意見に対して、質疑応答を繰り返すと「無口モンスター」の意見が活性化されます。
【会議後対策】
⑤議事録を当日配布する
会議後には議事録がつきものですが、会議当日に配布されないことがあります。これでは、まったく意味がありません。なぜなら、会議終了後には参加者の記憶がどんどん忘却の彼方に流されてしまうからです。以下の4項目だけでもホワイトボードに板書し、A4用紙1枚にまとめ、当日配布しましょう。
・情報:日時、場所、参加者
・議題:疑問文にする
・議事:どういう意見が出て、いくつに集約されたか
・成果:可決、否決、保留。次の行動など
⑥次の行動をタスク化する
会議で話し合ったことは、実行に移されて成果になります。行動化のため、次の3つを必ずまとめておきましょう。時間にして5分程度ですが、実行する、しないのとでは、次への行動スピードに何十倍と差がつきます。
・タスク
・担当
・期日
フレームワークは1枚が限界
会議術の講座では、1枚フレームワークにある6つの対策を意識しながら、受講生に会議を進めてもらいます。たった1枚に集約されたフレームワークでも、実際に1時間ほど議論してもらうとあっと言う間に時間がきてしまいます。
その割には大した成果を残せていません。そこで、各自振り返りを促し、議長に必要な重要点を挙げてもらいます。以下が数多くの声から集約された議長に必要な3大条件です。
1)論点を明確にし、幹をズラさない
何について考えるかの論点が甘いことが多く、論点をいかに短い時間でシャープに絞り込むかが重要です。
2)シナリオを常に意識する
制限時間の中で、どこに着地させるか。議長の采配ひとつで空中分解するのか、無事着陸するのかが決まります。ある程度のシナリオあって進められるかどうかが問われるのです。
3)結論、Next Stepを最後にまとめる
複数人が時間をかけて顔を突き合わすのにはコストがかかります。それをムダにしないためにも結論と次の行動を5分だけ時間をかけてまとめることが大事です。
フレームワークを頭の中に入れるには、1枚が限界です。それでも実行に移せないことが多い中で、最低の3大条件だけは忘れずに会議に臨みましょう。会議の質が変わり、普段の仕事の生産性が大きく向上します。
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