ウクライナ侵攻の追加制裁として米国がロシア産原油の禁輸に単独で踏み切った。実はこの措置の実効性には疑問符が付く。ロシアにとって米国向けの割合は原油で約1%、石油製品は約20%で、これをどう見るかだ。それでも踏み切ったのは、バイデン政権にとって対ロ強硬の米国世論にもアピールする議会対策の意味を持つからだ。
禁輸は議会対策の強硬ポーズ
ロシアに対する強硬論の米国議会が超党派で主導して仕掛け、バイデン政権がこれに渋々応じたものだ。
見逃してはならないのがバイデン政権の“ご都合主義”だ。
米国が経済制裁を科している南米の産油国ベネズエラに対し、制裁の緩和について協議しているとのニュースに注目すべきだ。実はこれがロシア産原油の禁輸に密接に関係している。
そもそもロシア産の原油を米国が輸入しているのは、ベネズエラへの経済制裁の一環でベネズエラ産原油の輸入を停止したことによって、ベネズエラ産特有の重質原油の代替供給を求めてのことだった。そして今度は逆に、ロシア産を代替するために、ベネズエラに対する経済制裁を緩和して同国産の輸入を再開しようとしているのだ。これは“制裁のご都合主義”と言えるだろう。
禁輸措置は国内の石油価格の高騰につながりかねず、中間選挙にマイナスになるので、バイデン政権も本音としてはやりたくない。米国ではガソリン価格が1ガロン(約3.8リットル)3ドルを超えると、政権は選挙に負けるといわれている。今は4ドルを超えて過去最高を記録している。従って、各国が禁輸すると原油価格は高騰するので悩ましい。
他国にも一応は同調を求めるポーズはするだろうが、単独でもやむなしというのが本音だろう。西側の足並みの乱れを指摘する論者がいるが、これは当然、ある程度織り込み済みで的外れだ。いずれにしても、急きょ10日夜に開催することになった先進7か国(G7)のエネルギー大臣会合でも話し合われるだろう。
米国にとって、ロシア産原油は原油輸入全体の約1%だが、石油製品も入れた石油では8%となる。仮にベネズエラとの交渉が不調でも、国内の石油で代替できる。
カナダはそもそも産油国で、ロシア産原油をほとんど輸入していない。ロシア産原油禁輸宣言は強硬姿勢のポーズだけだ。欧州は原油輸入の3割がロシア産で、禁輸に同調するのは北海油田を持っている英国ぐらいだろう。米国などはエネルギーの安定供給に支障はないが、その他の西側諸国ではそうはいかない。もちろん脆弱なエネルギー供給構造の日本がすんなり同調できるものではない。
他方で、ロシアも中国向けに輸出を振り向ければインパクトは薄まる。
こうした本質を見ずに真に受けるのは大きな間違いだ。
米政権の環境ご都合主義が招いた危機
そもそも米国産のシェール・オイル、シェール・ガスを増産すれば、現在のエネルギー危機の状況が大きく改善するのは明らかだ。しかし党内の環境派によってバイデン政権はがんじがらめになって身動きできないでいた。こうした身勝手なご都合主義で、他国に同調を求められるわけがない。
また、今日のドイツの状況を招いた責任はバイデン政権にもある。2019年、ロシアからドイツに天然ガスを送るパイプライン「ノルドストリーム2」の建設に関与している企業に制裁を課す超党派で可決した法案に、トランプ前大統領は署名した。その際、このパイプラインは 「将来ドイツをロシアの人質にしてしまう」と指摘したのだ。
しかし昨年5月、バイデン政権はエネルギー不足に直面するドイツの要請で制裁措置を止めてしまった。
米国内では、バイデン政権のエネルギー政策がロシアのウクライナ侵攻を招いたとの批判が噴出している。脱炭素を理由に国内の石油・ガス産業の投資が急減し、国際的なエネルギー価格を高騰させたことで、エネルギー輸出に依存するロシアを利することになったからだ。
サハリン2、日本企業は撤退すべきではない
米国のご都合主義を考えると、日本は国際協調を踏まえつつも、冷静に自国のエネルギー安全保障について判断することが必要だ。
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