12月24日に日韓首脳会談が開かれたが……(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
12月24日に日韓首脳会談が開かれたが……(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 韓国に対する輸出管理の厳格化の方針が発表されたのが2019年7月の初めだった。それ以来、メディアでは輸出管理への理解不足、知識不足から臆測記事がまん延してきた。政府がもっと分かりやすく丁寧に説明すべきだったかもしれない。私もこのコラムの連載でそれを正す解説を続けてきたつもりだ。しかし半年たってもいまだにゆがんだ臆測記事が絶えない。

 12月24日に開催された日韓首脳会談を巡る今回の報道もそうだ。

「韓国への一部優遇」との臆測記事

 首脳会談直前の12月20日、経済産業省はある発表をした。これまで1件ごとに個別許可が必要であった半導体関連の原材料の3品目のうちレジストについて、継続的取引をする輸出企業に対して、最長3年間の包括許可を認めることにしたのだ。

 韓国向け半導体関連の3品目については行方不明が発生するなど不適切事案があったので個別許可になっていたが、問題ないことを確認できた輸出企業の取引に包括許可を認めた。これは健全な輸出実績が特定企業間で6件以上積み上がったために、きちんと自主管理できる企業に限って、特定企業間の取引について認める制度だ。基準になる年間の件数も公表されている。もちろん韓国向け以外でもこうした制度はある。

 これは、既に通達で明確にしていた方針で、何ら新たな方針ではない。11月に局長級対話を再開すると記者会見したときにも、3品目については個別許可が積み上がって、問題がなくなれば見直すことは再度説明している。淡々とこうした方針通りに素直に対応しているだけだ。

 包括許可にはいくつか種類がある。これは特定包括制度という特殊な包括制度で、健全な取引をしている輸出企業にとって、輸出手続きの手間が省けるようにするためのものだ。輸出企業に対する利便性向上のためのもので、決して韓国に対して緩和・譲歩するものではない。いわゆる「ホワイト国」のように、相手国の輸出管理の信頼性に着目した包括制度とは趣旨がまるで違う。韓国への優遇措置ではない。

 ところが一部のメディアは「この直後に予定されている日韓首脳会談のお土産にするつもりだ」と臆測報道を流していた。首脳会談の元徴用工問題に引っ掛けて、それとの関係での政治的な判断とする解説が横行した。話としては面白いかもしれないが、これは輸出管理の知識のない、単なる臆測だ。不勉強か意図的かのどちらかだ。

 「タイミングがいかにもそう見えるので、経産省は外交音痴だ」という指摘もある。別に役所を擁護するつもりはないが、健全な取引が積み上がった特定の輸出企業からこの制度を活用するための申請が既に以前からあって、審査をする現場では取引状況や自主管理がきちんとされるかなど、実地調査も積み重ねる。その結果、この制度の適用を判断するもので、タイミングも含めて政治的に、あるいは恣意的に設定できるものではない。

 逆に日韓首脳会談後に発表したら、「会談での韓国側からの要求に一部応じたものだ」との臆測報道もされた可能性もある。どのタイミングでも臆測報道するメディアの体質は変わらない。だが行政は、そうしたものにゆがめられず、淡々と手続き変更を恣意的にならないようにすべきものだ。

 韓国の反応はさらにとんちんかんの極みだ。日本の一部メディアやコメンテーターと同様、輸出管理のことがまるで理解できていないことを露呈している。韓国に対する緩和ではないにもかかわらず、韓国が勝手に誤解して「一歩前進と評価するものの、十分ではない」と発言するのは滑稽でもある。

「原状」は2004年以前である!

 日本の輸出管理措置について、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「撤回をして原状回復を日本に求める」と発言したという。文大統領にとっては軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の継続との関係で、これを日本に撤回を求めないと国内向けのメンツがかかっているからだろう。

 しかし今回7月発表の措置は、韓国側に輸出管理上の問題があったから、韓国をホワイト国にした2004年以前の状況に戻しただけだ。19年の7月以前が「原状」ではない。2004年以前が本来の「原状」であることを忘れてはならない。

 しかもその問題を解決するボールも韓国にあることを理解していない発言だ。それを理解しない限り、事態の進展はいつまでたっても望めないだろう。いつもながら韓国は問題の本質にわざと向き合わない。

 日本の一部のメディアは「元徴用工問題や、韓国への輸出規制(「輸出管理」を意図的に言い換えている)強化措置を巡り、双方の主張は平行線をたどった」と報道している。するとあたかも日韓それぞれがボールを持っているような印象を与えるが、それは韓国の思惑そのものだ。

 実はいずれの問題も韓国側にボールがあることから目をそらそうとしているのだ。

いわゆる元徴用工問題とも切り離す

 これに対して安倍首相は、「輸出管理当局同士の対話で問題が解決されるよう期待する」と発言している。

 これは、(1)この問題は輸出管理当局の問題で、首脳の政治的判断の問題ではないこと、(2)「対話」であり、交渉事ではないこと、を明確にしたものだ。
その結果、GSOMIA問題と切り離すことはもちろんのこと、元徴用工問題とも明らかに切り離している。

 それにもかかわらず、日本のメディアやコメンテーターの一部は、「日本の輸出規制は元徴用工問題への対抗措置。元徴用工問題で解決しなければ、輸出規制の撤回はない。それを上の判断に委ねた」との報道、発言を繰り返している。

 日本政府は「輸出管理の世界で完結して処理するだけだ」との方針を明確にしている。それにもかかわらず、こうした意図的なコメントを繰り返すのは、かえって日韓関係を悪くすることに気付くべきだろう。

 さらにこうした人々は「それは建前で、本音は元徴用工の問題への対抗措置でリンクしている」と言う。いくら事実を説明されても、かたくなにそう思い込みたいようだ。

 元徴用工問題の対抗措置でないのは建前ではない。本音で切り離して対応しようとしているのは、例えば政策対話の内容を素直に直視すれば明らかだ。

 確かに7月当初そうした誤解を与える発言が政治家からあったのは事実だ。そのころ私はこう指摘している(参照:誤解だらけの「韓国に対する輸出規制発動」)。

 日本は措置の理由として輸出管理上の理由を2点説明している。

 「輸出管理の対話の不在」と「不適切事案の発生」だ。3点目に当時の世耕経産相が元徴用工問題での信頼関係が損なわれたことを付け加えた。ところがこれは措置の「理由」ではなく「背景」の1つで、不必要な部分だ。

 国内政治的には留飲を下げることになっても、国際的に誤解を与えることになりかねない。そこで日本政府もすぐに正確に説明するようにして、輸出管理上の「理由」だけしか指摘していない。日韓首脳会談での安倍首相の発言もそうしたことを踏まえたものだ。

 ところが韓国は不都合な2点の「理由」を意図的に無視していた。3点目の「背景」だけに焦点を当てて反発していた。

 ただし、先般の輸出管理の政策対話では輸出管理当局者同士の意思疎通が改善されつつあるのも事実である。問題は、その結果、この「理由」を正面から受け止めて韓国が対応するかどうかだ。

 それにもかかわらず一部メディアの受け止め方が相変わらず変わらないでいる。

 本質は、元徴用工問題の解決いかんに左右されず、輸出管理当局の判断で運用の意思が決定されるということだ。そうでなければ米国を含め国際社会の納得を得られないことは自明の理だ。だからこそこれは建前ではなく本音と言えるのだ。

これから輸出管理問題はどうなるのか

 当時、半導体関連の3品目の個別許可について「韓国の半導体産業に大打撃」などと報道が繰り返されていた。これは明らかに不安をあおり過ぎで、私は当時からこれは“空騒ぎ”だと指摘していた(参照:韓国の半導体産業、世界の供給網への影響も“空騒ぎ”)。

 実態が分かるのは時間の問題だった。最近、韓国政府でさえ「影響は限定的だ」と認める発表をしている。日本のゆがんだ報道が当初の韓国の過剰反応を助長させてしまったようだ。

 現在でも半導体生産に支障は生じていないが、今後、3品目の他のものについても、健全な取引が積み上がって信頼できる輸出企業に対しては手間を省くために同様の包括許可が認められるだろう。

 だが、いわゆるホワイト国からの除外の問題は別の問題だ。こちらはこれまでもコメントしているように、あくまでも韓国側の審査体制、法制度の対応次第で、実効的な審査であることが確認できるまでは時間はかかる(参照:日韓の輸出管理、やっと軌道に戻ったか?)。先般の政策対話はコミュニケーションがスタートしたことは一歩前進ではあるが、日韓の輸出管理当局者の説明は平行線であった。韓国の輸出管理に対する日本政府の評価は現時点ではこれまでと変わっていないのだ。時間はまだまだ要するようだ。

 そしていずれも「韓国に譲る、譲らない」という性格のものではない。これを誤解しているメディア、コメンテーターには厳しい目を向けるべきだろう。日韓関係にとって明らかにマイナスだからだ。

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