プロ野球が開幕した。セパ両リーグの開幕カードは、明暗のくっきり出た結果となった。
去年優勝を逃した巨人(2位)は、中日(6位)に3連勝。同じく日本ハム(1位)に大逆転を食らったソフトバンク(2位)も、オープン戦が絶好調だったロッテ(3位)を3連勝で蹴散らした。
なかでも予想外の好スタートを切ったのは、去年5位に終わった楽天だった。オリックス(6位)に3連勝。新加入のペゲーロが3戦で2本のホームランを叩き込めば、第3戦ではルーキーの高梨雄平(ドラフト9位)と菅原秀(ドラフト4位)がリリーフで好投。逆転勝ち(5対4)の要因となった。
打線には、ペゲーロ、ウィーラー、アマダーと3人の外国人選手が名を連ね、2番に身長192センチの大砲ペゲーロを起用するという超攻撃型の布陣。梨田昌孝監督の大胆な采配が選手たちの意識をより攻撃的にさせたのは間違いない。打ち勝つ野球でオリックスを粉砕した。
この3連戦、投打に日替わりでヒーローが出るなか、連日チャンスを演出したのはロッテから移籍して2年目を迎える今江年昌内野手だった。6番で迎えた初戦が4打数3安打1打点。2戦目が4打数2安打2打点。3戦目も4打数2安打。開幕3連戦で12打数7安打(5割8分3厘)と打ちまくった。
新天地では力み過ぎが重圧に変わる
PL学園からロッテに入団して14年間。マリーンズでは押しも押されもせぬ3塁手のレギュラーとして活躍を続けた。楽天には去年、FA(フリーエージェント)で移籍。新天地でも活躍が期待された。
ところがふくらはぎ痛や腰痛などの故障もあって、1年目は不本意な成績に終わった。出場は89試合、打率こそ2割8分1厘とまずまずの結果を残したが、ホームランは3本、打点も23打点と存在感をアピールすることはできなかった。登録名を「今江敏晃」から「今江年昌」に改名したのも、心機一転を期してのことだった。
FAであれトレードであれ、また海外からの復帰であれ、移籍してきた選手が過去の実績に見合う活躍を続けることは難しい場合が多い。環境の変化、対戦相手の違い、自身の加齢…など、原因は色々と考えられるが、誰にでも当てはまる理由は精神的なものだ。これは野球選手だけでなく、職場や学校でもあり得ることだろう。
この時期に多い異動や転勤、また新入社や新入学。新しい環境にどうやって順応するかというテーマだ。それは最大のモチベーションでありながら、一方で本領発揮を難しくさせる一番の要因になるのが、使命感や責任感の類だろう。また過去の自分以上の成績を上げたいという欲も同時に働く。
つまるところ「何事も力んでしまう」のだ。そして思うような結果が出ないと、それが今度はプレッシャーとなって重苦しさに変わっていく。新天地に抱いた期待はやがてしぼみ、「こんなはずじゃなかった」という重圧となって伸びやかさを奪っていく。
目の前の仕事をはつらつとした気分で
今江は、そんな自分に気が付いて名前を変えたのだろう。去年を振り返ってこんなことを言っている。
「(不振には)焦りもあったと思う。ボールを思いっきり打つとか、野球を始めた時の楽しくて仕方がない、そんな気持ちを思い出したい…」
結果ばかりを考えて、窮屈に野球をやっている自分がいた。本当は楽しくてやっていること。それがいつの間にか苦しいことになってしまう。
取り戻したのは笑顔だった。原点に返る。初心を思い出す。好きで始めたことだから、ここまで頑張ってくることができた。目の前の試合(仕事)をはつらつとした気分で迎える。その気持ちが、今江を本来の自分に戻すきっかけとなった。
それは責任感や焦燥感を放棄しろということではない。そうした思いがあるからこそプライドが生まれる。しかし、何事も力を発揮しようと思ったら、喜びの中にいた方が大きな力が出る。しかもその姿勢と思考法には持続性がある。
「僕は本当に野球が好きだから。野球をやっていなかったら、とかも考えられないし…」
取り戻した原点が、今江を笑顔でプレーさせている。
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