全国に1万9887店を展開し、コンビニエンスストアという業態を日本に根付かせた最大手、セブン-イレブン・ジャパン。古屋一樹社長に加盟店に対する支援策についての考え方や、24時間営業、今後の出店計画などについて聞いた。
<span class="fontBold">古屋一樹(ふるや・かずき)氏</span><br>1982年セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗運営部門を長く担当し、2000年取締役、16年5月に社長就任。67歳。(撮影:的野弘路)
古屋一樹(ふるや・かずき)氏
1982年セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗運営部門を長く担当し、2000年取締役、16年5月に社長就任。67歳。(撮影:的野弘路)

人手不足など、コンビニ業界の「いま」をどう分析していますか。

古屋一樹社長(以下、古屋):セブンイレブンの看板を掲げれば自動的にお客さんが来てくれるような時代は、もう終わったと考えています。本当に良い店を作らない限り、もうお客は来てくれません。そのためにもチェーン本部と加盟店には、これまで以上の一体感が求められています。とても大事な時期に入ってきたと認識しています。

 マラソンと一緒ですよね。マラソンって序盤はみんなわーっと走り出して、誰でもいい走りをします。けれど相手を抜くチャンスが訪れるのは、苦しくなってきてからです。変化の大きい時代こそ踏ん張りどきです。加盟店にも本部社員にも、いつもそう話しています。

セブンイレブン本部は17年9月、加盟店から徴収するロイヤルティー(経営指導料)を一律1%引き下げました。加盟店オーナーからは、どんな声が届いていますか。

古屋:非常にポジティブです。先日も商品展示会があり、100人近いオーナーさんと会場で立ち話をしました。みなさん非常に好意的に受け止めていただいています。商売って、やはり気持ちがモノを言いますから。(オーナーの)気持ちが萎えると従業員にも伝わり、お店の雰囲気にも響きます。今回の引き下げを、店員が働きやすい店作りを進める原資にしてほしい。お客様に「感じの良いお店になったね」という形で伝われば、売り上げ向上にもつながります。

ロイヤルティー引き下げ、使い道は店次第

今回の引き下げは、店舗あたりで月6万〜7万円の支援に相当します。ただし引き下げの翌月(10月)には各都道府県で最低賃金が引き上げられました。計算してみると、1店舗あたりの人件費が数万円は上がったことになります。「1%」という引き下げ幅は不十分ではないですか。

古屋:必ずしも(最低賃金の改定に紐付けして)「人件費に充当してください」とか「充当してほしい」と考えているわけではないのです。もちろん人件費は加盟店にとって大きなコストですから、そこに充当していただくのでも構わない。けど基本的には働きやすいお店作りの原資です。これだけ多くの店舗がありますから、それぞれの事情によって使い道は色々あって良いと思っています。

古屋社長は経営方針を語る上でよく「拡大均衡」という言葉を使っています。拡大というのは、チェーン全店売上高が増えることを指すのですか。

古屋:いやいや、拡大均衡というのは一軒一軒のお店が積極的な商売を出来るようになるとか、いろいろな意味を含んだ言葉です。例えばレジカウンターでもっと積極的におでんや揚げ物をおすすめするとか、いままで5個しか売れなかった商品を、みんなで力を合わせて10個売っていこうと考えられるようになるとか。

<span class="fontBold">セブン-イレブン・ジャパンが6月末、ロイヤルティーの引き下げを伝えるために加盟店に送付した文書。拡大均衡がうたわれている</span>
セブン-イレブン・ジャパンが6月末、ロイヤルティーの引き下げを伝えるために加盟店に送付した文書。拡大均衡がうたわれている

チェーン全体だけではなくて、店舗ごとの売上高や利益も含むということですか。

古屋:そうです。それが積極的な接客、積極的な品ぞろえにつながります。まあ、社内用語ですけどね。

縮小均衡という言葉はよく聞きますが、拡大が均衡したら成長が止まるのでは。

古屋:いや違いますよ。まあ、(言葉については)あまり深く考えなくて大丈夫ですよ。

セブンイレブンの店舗数は今年度内には2万店を超える勢いです。店舗数は将来的にどこまで増えるのでしょうか。

古屋:明言はできませんが、向こう3年は年1600店を開業する予定です。1600といってもビルド&スクラップを含むので、年800店ずつ増えるイメージです。

<span class="fontBold">(撮影:的野弘路)</span>
(撮影:的野弘路)

店舗数が増えれば本部が受け取るロイヤルティーの合計額は増えますが、セブンイレブン同士が競合して、それぞれの加盟店の売上高は減るのではありませんか。

古屋:よくそれは言われます。ただ、地域におけるセブンイレブンのシェアが35%を超えると、一店一店の日販(店舗あたりの1日の平均売上高)は上がるんです。ですから、いま我々が地域シェアを60%近く取っている栃木県や群馬県、山口県や福島県では、日販が70万円近くにのぼります。あまり大きな経済圏ではないのに、全国平均を超えているんです。

 もう10年前でしょうか、マスコミのみなさんは全国のコンビニ店舗網が4万を超えたときにも「もう飽和」と仰っていました。でも現在5万7000を超えて、我々も近いうちに2万店となり、それでも売り上げや客数はずっと伸びています。現在の社会環境をみると、マイクロマーケット(小商圏市場)は肥沃で、まだまだ深い。潜在的需要は多大にありますよ。

 お年寄りや働く女性が増えている中では、遠くのお店まで行って重い荷物を持って帰るより、やはり質が高い商品を置いたお店が身近にあって、朝起きてから夜寝るまで商品が買えるとなったら、こんな便利なことってないですよね。

「私の経営手法は加盟店ファースト」

既存店売上高は9月まで62カ月連続のプラスとなりました。ただ8月は前年比0.2%増と、かなりギリギリの水準でした。

古屋:まあ今年の夏は子供たちもプールにも海にも行けないぐらいのひどい天気でしたから。まさに薄氷を踏むような数値でした。

とはいってもこれだけプラスが続くのは驚異的です。引き続きこの記録を伸ばしていく考えですか。

古屋:そうですね。ただ、やはり私の経営手法って「加盟店ファースト」なんですよね。加盟店オーナーさんが「セブンに加盟してよかった」と感じていただけない限りは、本部だけが収益を上げて良しとするビジネスでは絶対ありませんから。もちろんメーカーなどに対する信用力としては、セブンイレブンとして売り上げを伸ばし続けることは大切ですが。

加盟店の利益は伸びているのですか。

古屋:昨年度でも3〜4%ぐらい伸びています。ただ1万9800店あると個店ごとの格差はあります。それはお店の経営努力の問題もありますし、やはり地域によっては競合店舗が増えているという問題もあります。ですから、立地に問題があればビルド&スクラップを進めたり、駐車場の狭いお店は(近隣の土地を取得して)駐車場を広げるとか、一軒一軒手を入れているわけです。

24時間営業についてのお考えは。外食産業では見直しの動きも出ています。

古屋:セブンイレブンとして、24時間営業は絶対的に続けるべきと考えています。社内で見直しを議論したことはありませんし、加盟店からもそんな声は全く出ていないですね。

 まず売り上げに響きます。店を閉じている時間だけじゃなくて、開けている時間の売り上げも落ちるんです。コンビニ店舗の売り上げのピークは、夜はだいたい午後7時から10時くらいです。午後11時に閉店するとなったら、夜には棚から商品がなくなります。そのまま置いていたら深夜は何も売れないのが分かっていますから、商品の発注をしぼるんです。

 確かに深夜帯はお客が少なくて、売り上げも大きくありません。けれど、もし午前7時〜午後11時の営業にしたら、深夜ぶんの売り上げ以上に、昼の売り上げが落ちるんです。全体で3割は減収になると思います。

 店舗オペレーション上の問題もあります。30年ほど前、私の担当していた神奈川県で20軒ほど、深夜営業をやめたお店がありました。ところが「作業が回らない」といって、すぐ自分から24時間営業に戻したのです。コンビニってお客の少ない深夜は品出しや陳列棚を整える作業をしているんです。

思っているかもしれないが、声は出ていない

シャッターを下ろしたうえで、店員は店内作業に集中させるという考え方はないのですか。

古屋:だって店が何のために営業しているかといったら、やっぱりお客様に利便性を提供するためですから。ライフスタイルが多様になり、いろいろな時間にいろいろな人が動いています。24時間営業の見直しというのは、我々、基本的には議論もしたことがないですね。

<span class="fontBold">(撮影:的野弘路)</span>
(撮影:的野弘路)

チェーン本部はそういう考えでも、加盟店は違う見方をしているのでは。

古屋:いやいや。

相談したいんですけど…みたいな声もないのですか。

古屋:それは1万人を超えるオーナーさんがいますので、一部はあるかもしれないですよ。ただ、それは声としては全く出ていないですね。

「深夜営業は人件費も高くて辛いので、閉めたいんですけど」は。

古屋:基本的にないですね。

フランチャイズチェーン(FC)契約を結ぶ加盟店ではなく、直営店展開のほうが店舗のビルド&スクラップも商品展開もやりやすいのではないですか。

古屋:やっぱり地元をよく知っているのって、地元で育ち、地元で商売してきたフランチャイズオーナーさんなんですよ。その証拠に、我々は1号店からフランチャイズ出店ですから。

直営を増やすようなことは。

古屋:全然。まったく考えてないです。むしろ直営店は減らしていかなきゃいけない。

人口が減るなかで、店舗数は増えています。オーナーの確保も厳しいのでは。

古屋:商品展示会でオーナーさんと話していて嬉しいのが、みなさん息子さん娘さんがお店を継いでくれて、どんどん連れてきてくれるんですよ。すごくうれしい。酒屋さんだったお父さんがセブンイレブンに転換して一生懸命やってくださって、その背中を見ていて、一旦は「あんな大変なことやりたくない」と外に出ていってしまうかもしれない。それが、セブンイレブンはいま1店1店が成長していますから、戻ってきてくれているんですね。

 もちろんご子息が継がない場合でも、長年働いている社員さんに引き継ぐこともあります。代替わりはすごく順調。パートナーとしては心強いし、うれしい。

潜在需要を掘り起こす

セブンイレブンは消費者の変化を先取りし、独自の商品やサービスでコンビニ業界の歴史を形作ってきました。いま注目している消費者の変化はどんなものですか。

古屋:いっぱいありますよ。大切なのは「潜在需要の顕在化」だと思うんです。確実に存在するのに、まだ気づかれていない需要を掘り起こすということです。たとえばセブンカフェで提供しているいれたてコーヒーは、これまでドトールとかスターバックスで買っていた人が購入しているわけじゃないんです。一部はいるかもしれませんが、それよりは、これまでは普段外でコーヒーを飲まなかった方、例えばドライバーの方とか、それから結構お年寄りの方や、主婦に買われているんです。

 うちの女房なんて、以前は外出先でコーヒーを買う習慣はありませんでした。いまでは車で移動するときにはしょっちゅう飲んでいて、私がふと乗ると必ずこのカップが車内にあったりするんです。今まで外でコーヒーを飲まなかった人が飲むようになってくれているんですよね。

<span class="fontBold">(撮影:的野弘路)</span>
(撮影:的野弘路)

今後はどんな商品に注力していくのですか。

古屋:スムージーもどんどんテストをしています。新しいものを作るのもそうですし、いまはお店の中で脇役的に、まだ目立たない商品もある。それらをどんどん主役に出していくという戦略もあります。電子レンジで温めるカップ麺とか、今年の秋はカップスープも強化していきたいです。健康は一つのキーワードではないかと思います。セブンイレブンはまだまだ成長し続けます。

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