11月11日に悲願の初飛行に成功し、日本全国を沸かせた国産ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」。その余韻が冷めやらぬクリスマスイブの12月24日、開発主体の三菱航空機(愛知県豊山町)は愛知県内で記者会見を開き、初号機のANAホールディングスへの引き渡しが「1年程度遅れる」と発表した。従来の2017年4~6月から、2018年へとずれこむ。
2008年3月 | 全日本空輸(ANA)から受注し、三菱重工業が事業化を発表 |
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2008年4月 | MRJの設計・開発を担う三菱航空機が設立。2011年初飛行・2013年納入開始を計画 |
2009年9月 | 主翼などの設計変更に伴い、初飛行を2012年4~6月に、納入開始を2014年1~3月に変更(1度目) |
2012年4月 | 開発作業の遅れにより、初飛行を2013年10~12月、納入開始を2015年度半ばから後半に変更(2度目) |
2013年8月 | 初飛行を2015年4~6月に、納入開始を2017年4~6月に変更(3度目) |
2014年10月 | MRJのロールアウト(初披露) |
2015年4月 | 初飛行を2015年9~10月に延期、米国での試験強化により、納入開始時期は変更せず |
2015年10月 | 初飛行を2015年11月に延期、納入開始時期は変更せず |
2015年11月 | 初飛行を実施。納入開始時期は「変更しない」と三菱航空機の森本社長が発言 |
2015年12月 | 対策や試験の追加と見直しにより納入時期を1年程度延期すると発表(4度目) |
三菱航空機によれば、納入延期は完成度の高い機体を目指し、試験項目の追加や見直しなど開発体制全体を洗い直した結果だという。「飛行試験によって深刻な不具合が発覚したのでは?」という質問については真っ向から否定した。ただ、納入時期の延期は2008年の事業化決定以降、今回で4度目。初飛行で弾みを付けたかに見えた受注拡大への逆風になるのは明らかだ。
「50年ぶりのことだけに、想定が甘いところがあった。知見が足りなかった面もある」。会見で三菱航空機の岸信夫副社長はこう語った。これまで実施した3度の飛行試験の結果は「良好だ」と強調したが、同社が開発スピードを高めるために設置した北米拠点の技術者らのアドバイスを受けるなかで、部品の耐久性試験などの地上試験や機材改修の追加・拡充が必要だと判断したという。
従来はシミュレーションで済ませる予定だった項目で実物での試験を実施したり、試験に要する日数を従来の想定よりも増やしたりと、今後のスケジュール全体を見直した。一方、飛行試験については従来計画を踏襲。今後は役員クラスを北米拠点に派遣するなど、開発拠点間の連携を一段と強化して、2018年の納入を死守する構えだ。
スケジュール延期は当たり前?MRJの歴史
これまでの飛行試験を踏まえて、現在、主翼や胴体などの強度向上、操縦システムなどのソフトウエアのバージョンアップといった改修も実施中だという。一部報道で延期の主因として指摘された、「主翼の強度不足」や「ANAからの仕様変更への対応の難航」といった点については明確に否定した。
三菱航空機の森本浩通社長は11月、初飛行後の記者会見で 「(開発期間が)タイトになってきていることは否定できない」としつつ、「今のところ納期を変えるつもりはない」と厳しい表情で述べていた。再度の延期は不可避と判断した時期について、24日の記者会見では明確な回答を避けたが、当時から開発体制の見直しの必要性を認識していたようだ。ただ、見直し内容について詳細に積み上げ、納入先であるANAなどとの調整が済んだのは12月に入ってからという。
三菱航空機がMRJの初号機納入の時期を変更するのは、今回で4度目となる。事業化を決めて、三菱航空機を設立した2008年時点では「2011年の初飛行、2013年の納入」を目指していたが、主翼などの設計変更を理由に2009年9月に納入時期を「2014年1~3月」に変更したのが初めての延期だ。2012年4月には「2015年度半ば~後半」、2013年8月には「2017年4~6月」と、開発の遅れに伴って後ろ倒しした。
その後も初飛行時期の変更はあったが、納入時期は変えない方針を貫いてきた。日本と異なり、1日に何度も試験機を飛ばせる米国での飛行試験の比重を高めることで、「納入時期はずらさずに済む」と説明してきた。
納入時期の延期によって懸念されるのが顧客開拓への打撃だ。MRJはこれまで「ゲームチェンジャー」を掲げ、新参者ながら客席数90席以下の「リージョナルジェット」と呼ばれる航空機でシェアを取る戦略だった。11月の初飛行を成功させたことで営業活動に弾みがついたものの、今回の遅延は今後の受注活動において、大きなマイナスになる可能性を否定できない。
この点について森本社長は、ライバルのブラジル・エンブラエルの新型機は2020年以降の投入になるとして、「(納入時期が延びる)この1年で大きく市場バランスが変わるとは思っていない」と強気の姿勢を崩さなかった。
環境性能などMRJの機体そのものの優位性も揺るがず、現時点ではキャンセルなども起こっていないとした。記者会見に同席した三菱重工業の鯨井洋一副社長も「(2020年度に月産10機という)量産体制構築への影響はない」との認識を示したが、同年度に単年度黒字を目指すとの目標については、「これまで明確に言ったことはない」とやや言葉を濁した。
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