海外で大人気のマシュマロ屋が長野にある。Twitterや現地メディアの報道で人気に火が付いた。日本国内でもあまり知られていない小さな地方の企業が、なぜ一時のブームに終わらせずに人気を長続きさせられたのか。秘訣は、転送サービスなどの仕組みを使ったきめ細やかな対応にあった。
今年3月に北陸新幹線が金沢まで延長されたことで新幹線の停車駅となった長野県の飯山駅。そこから車で15分ほど行った場所にその会社はある。「マシュマロ専門店やわはだ」だ。
専門店と言っても、マシュマロを売っているのは自社サイトだけで、店舗があるわけではない。イタリアンレストランの店舗だった場所を改装した長野県中野市の事務所は、キッチンと数台のパソコンが置かれたデスクあるだけの簡素な作り。そこから米国や台湾などの海外にたくさんのマシュマロが送られていることは、近所に住む人にもあまり知られていない。
横村愛子氏がやわはだを始めたのは、2007年。飲食店の経営が行き詰まり、人口が少ない長野県中野市でも集客できる新しいビジネスとして、マシュマロのインターネット販売を思いついた。マシュマロの柔らかさやおいしさを、どうしたらインターネットの画面を通じて消費者に訴えられるか――。試行錯誤の末に、猫の肉球型のマシュマロに行きつく。
事業を始めて2年ほどは注文が入らない日も多く、鳴かず飛ばずの状況が続いた。それでも口コミなどで徐々に売り上げが伸び、事業も軌道に乗った2012年頃、横村氏は不思議な現象に気付く。
注文者の中に、明らかに中華系の名前が目立つようになったのだ。気になって調べてみると、国内に住む台湾人がやわはだのマシュマロを買い求めているらしい。知らないうちに、台湾の地元メディアに取り上げられたことがきっかけだった。
2012年頃から増えた“不思議な”住所
さらに半年ほどたった頃から、今度は同じ住所からの注文が増える。通常の住所の末尾にアルファベットと数字が組み合わさった記号のようなものがついている。こちらも調べてみると、転送業者に割り当てられた住所だった。
転送業者は、海外の人が日本のEC(インターネット通販)で買い物をする際に利用する。日本のECは基本的に、日本に住んでいる人を対象にしているため、海外の人は利用できない。そこで、転送業者は海外の居住者に、私書箱のような形で住所を割り当てる。利用者はECでその割り当てられた住所向けに配送してもらい、転送業者が海外の住所に転送する仕組みだ。
やわはだでも、台湾在住の人が、この転送業者を使ってたくさんのマシュマロを購入していたのだ。2013年頃には、20件に1件はこうした転送業者向けの発送が紛れ込むようになった。
これは、商機になる――。横村氏は考えたが、自社で海外の発送作業を手掛けるのは手間がかかる。例えば、国内向けの荷物は、運送会社のシステムを通じ、自動で伝票が作成できるが、EMS(国際スピード郵便)の場合は手書きで伝票を作らなければいけない。さらに、海外の消費者からは「船便でも届くのか」「配送料は」といった問い合わせが相次ぎ、「ひどい時は海外の人の対応をするだけで一日終わってしまった」(横村氏)。
そこで、やわはだは、2014年6月にホームページを作り変えた。転送業者の存在を知らず、海外から注文をできない顧客のために、転送大手の「転送コム」のURLを紹介。さらに、注文までの流れについて、英語での説明を加えた。海外の消費者が利用しやすいネット決済のペイパルとクレジットカードを決済手段として整えた。
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