米国の防衛大手ハネウェル。航空機に搭載する電子機器や各種装置などを手掛け、日本企業との取引も多い。防衛装備品の輸出制限を緩和した日本政府の方針を受けて、防衛ビジネスに変化は生じているのか。アジア太平洋地域の防衛・宇宙部門で副責任者を務めるマーク・バージェス氏に話を聞いた。

ハネウェルのマーク・バージェス氏。英防衛大手BAEシステムズを経て、2013年にハネウェル入社。普段は豪州駐在。東京での国際航空宇宙展の開催に伴い来日した。
ハネウェルのマーク・バージェス氏。英防衛大手BAEシステムズを経て、2013年にハネウェル入社。普段は豪州駐在。東京での国際航空宇宙展の開催に伴い来日した。

ハネウェルにとって日本はどのような市場でしょうか?

バージェス:防衛・宇宙部門では日本は世界でも米国に次ぐ第2の取引規模の有力マーケットとして重視している。陸海空の自衛隊が運用するすべての固定翼機やヘリにはハネウェルの何らかの電子機器などが搭載されているといっても過言ではない。各種の制御機器や飛行記録装置、地上接近警報装置などだ。

 防衛産業を中心に日本企業とのつながりも歴史的に深く、技術面で関係の強固なパートナー企業が15社程度ある。エンジンを中心とする三菱重工業や川崎重工業などとの取引が多い。ライセンスの供与先は50社超にのぼる。日本関連の取引額は具体的には公表できないが、過去3年で約15%成長した。

 日本での長期的な経営基盤を構築するため、企業や政府への営業担当、マーケティング担当など、必要な陣容の強化を進めている。現在進行中の戦闘機「F35」や輸送機「オスプレイ」の日本への導入など、日米間のビジネス拡大に大変期待している。ハネウェルのミサイルの制御システムなどは欧米では実績があるが、日本ではまだ開拓の余地がある。このほか衛星通信などハネウェルの強みを日本で発揮しきれていない分野についてもテコ入れしていく。

武器輸出を禁じてきた日本は2014年、防衛装備品移転3原則を閣議決定しました。平和貢献など一定の条件を満たせば防衛装備品を輸出できるようになりました。日本の政策転換をどうみていますか。

バージェス:ハネウェル社内でも多くの時間をかけて、日本の政策転換の影響について注意深く議論してきた。日本企業は従来も航空機産業などのサプライヤーとして米ボーイングなどから高い評価を得て仕事をしてきた。実績を考えると、防衛装備品マーケットだけを特別視する必要はない。他の産業と同様、少しずつ段階を踏みながら、いずれ日本は相応の存在感を発揮できるだろう。一流の技術があり製品の信頼性も高い。輸出後の維持補修やサービスなどについては豊富な海外ネットワークを誇るハネウェルが協力できる面も少なくないだろう。

川重の哨戒機、マーケットに競合少ない

日本は豪州からの潜水艦受注に失敗しました。どのような製品が輸出案件としては有望でしょうか。

バージェス:例えば、川崎重工が自衛隊向けに近年開発した哨戒機「P-1」、輸送機「C-2」などの競争力が高いとみている。川重は販売後のアフターサービスなどを確実に提供する能力もある。P-1の競合は実質的にはボーイングの「P-8」くらいしかない。ライバルの少なさは参入のチャンスだ。C-2の場合、中型の輸送機でエンジンは2基。貨物の輸送性能もさることながら4基のエンジンを要する輸送機よりもコスト競争力が高い。ハネウェルはP-1、C-2ともに各種の機器・装置を供給している。

川崎重工が「P-3C」の後継で開発した哨戒機「P-1」。洋上や潜水艦などを警戒監視する。
川崎重工が「P-3C」の後継で開発した哨戒機「P-1」。洋上や潜水艦などを警戒監視する。

日本の防衛産業は輸出に前向きになりましたか。

バージェス:政策転換を経て、日本企業の輸出に対する姿勢は1~2年前には考えられなかったほど柔軟になった。輸出への意識は確実に高まっている。ただし、興味はあっても様子見といった感じだ。理由は輸出にあたって日本政府の協力がどの程度得られるのか、実際のところまだ不透明な要素が多いためだ。国と国が絡む防衛装備品マーケットの性質上、政府の姿勢は極めて重要だ。

政府の建設的な関与、装備品ビジネスに不可欠

 日本の防衛大手である三菱重工や川崎重工などにしても、一般的には防衛部門はこれまであまりメインとはいえない事業だった。だが他の事業では日本企業は豊富な輸出経験を積んできている。防衛装備品も潜在的な可能性は大きい。他の事業での経験を生かしつつ、海外向けの防衛装備品ビジネスを軌道に乗せるため政府の関与をもっと引き出すにはどうすればよいのか、日本企業自身が真剣に検討することが大事だ。

 既に防衛装備品マーケットで成功しているハネウェルのような企業とうまく組むことも有意義だ。事業拡大に必要なすべての能力を自前で賄うことはできない。パートナーを信頼し、助言を求めることで成功する確率も高まる。

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