「さっき配信が始まったと聞いて、早速ダウンロードしたんです」。7月22日の10時30分ごろ、東京都内にある大手ハンバーガーチェーン「マクドナルド」の店舗前で、20代の男性がスマートフォン片手に笑顔を見せた。
7月22日、任天堂の人気ゲームシリーズ「ポケットモンスター(ポケモン)」のキャラクターを利用したスマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO」が、日本での配信を開始した。ポケモンGOはスマホの位置情報を利用したゲーム。ユーザーは実際に移動することで画面に現れたポケモンを捕まえ、強化・対戦などを通じてゲームを楽しむ。
配信の開始に合わせて、日本マクドナルドの全店が、ゲームで必要なキャラクターを集められたり、キャラクター同士が戦ったりする場所になった。こうした場所は「ポケストップ」や「ジム」と呼ばれる。ポケストップやジムは、マクドナルドの店舗以外にもあるが、配信開始と同時に全店が対象となっているのはマクドナルドのみだ。
マクドナルドは全国に約2900店あり、ユーザーにとっては分かりやすく足を運びやすいスポット。その分、店側にとっては大きな集客効果を見込める。学校が夏休みに入ったタイミングでもあり、「ポケモンは(売上アップの)救世主になる」と、あるフランチャイズチェーン(FC)の加盟店オーナーは大きな期待を寄せる。
オーナーがポケモンGOの配信を諸手で歓迎する背景には、FC店が抱える“借金”の存在がある。2014年夏以降、チキンマックナゲットの中国の仕入れ先が期限切れの鶏肉を扱っていた問題や異物混入騒動により、マクドナルドの客数は大幅に減り、業績不振に陥った。そのため、日本マクドナルドはFC店に対してロイヤルティーの一部の減免を実施。減免は2016年6月で終了し、その分の返済が今秋から始まる。
デジタルコンテンツを生かした集客に力
日本マクドナルドホールディングスの業績は、一時の苦境からは脱しつつある。2015年秋から不採算店を大量に閉店。2015年12月期の売上高は1894億7300万円(前年度比14.8%減)で、349億5100万円の最終赤字。赤字は2期連続だったが、2016年1~3月期は、売上高521億9900万円(前年同期比27.7%増)で営業損益は1億5100万円(前年同期は99億円の赤字)と7四半期ぶりに黒字となった。
既存店の売上高は、2015年12月以降、7カ月連続で前年を超えている。客数は、2015年は1年を通じて前年割れが続いていたが、2016年1月以降はプラスに転じて、6カ月連続で前年を超えた。
FC店についても「全国的に財務状況は改善しているようだ。以前は廃業の噂もよく聞いたが、最近は聞かなくなった」(FCオーナー)。
日本マクドナルドにとって任天堂との関係は深く、これまでも、同社のコンテンツを活用したマーケティングを度々実施してきた。15年ほど前から、ポケモンのぬいぐるみやカレンダーを販売。2009年には、約3200店舗で携帯ゲーム機「ニンテンドーDSシリーズ」を使ったサービス「マックでDS」を導入し、店舗内に専用の無線配信装置を置いて、ゲームキャラクターのダウンロードやスタンプラリーなどをできるようにした。当時は6月中旬からサービスを開始したため、夏休みにはファミリー客が多く来店。「客席でDSを楽しむ子どもがあちこちで見られ、売り上げの増加につながった」と当時を知る社員は話す。
また、今回のポケモンGOの配信に合わせるかのように、この7月には子ども向けセットメニュー「ハッピーセット」で、ポケモンのキャラクターを使ったおもちゃを配布している。
関係者によれば、日本マクドナルドは、2016年夏以降、デジタルコンテンツを生かした集客に力を入れる方針を掲げているという。「ポケモンGO」とのコラボレーションは、その一環ともいえる。
ポケモンGOの配信を開始した22日、関東地方はあいにくの雨だった。だが、日本マクドナルドの関係者にとっては、恵みの雨に見えたかもしれない。
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