消費増税を巡る安倍晋三首相の判断に関心が集まっている。衆院解散戦略と密接に絡む難題だが、政権運営の選択肢を広げ、レームダック(死に体)化を防ごうという安倍首相の思惑通りに事が進んできた面があるのは間違いない。
残り2週間となった今通常国会。2017年4月に予定される消費税率10%への引き上げの是非について、安倍晋三首相がいつ、どのように判断するのかが最大の焦点になってきた。
相次ぐ重要イベント
永田町などで消費増税を巡る論議が一段と沸騰しているのは、これから短期間のうちに重要なイベントが続くためだ。明日18日には政府が重要視する2016年1~3月期のGDP(国内総生産)速報値が発表され、安倍首相と民進党の岡田克也代表らによる党首討論が行われる。
さらに、5月27日には主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)閉幕を受けた安倍首相の記者会見があり、国会会期末の6月1日には国会閉幕に伴う安倍首相の記者会見が予定される。
安倍首相は消費増税の是非についてサミットでの議論などを踏まえて判断する意向を示している。国会閉幕時の会見で先送りを表明するとの見方もあり、与野党や市場関係者が安倍首相の一挙手一投足に過敏に反応する展開となっている。
「再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言する」。2014年11月に消費増税の先送りを決めた際、こう言い切った安倍首相。その後、先送りの条件を微妙に変えてきたが、リーマンショックや東日本大震災並みの重大な事態が発生しない限り予定通り実施する方針に変わりはないと明言し続けている。
「安倍首相は景気が腰折れしては元も子もないとみており、消費増税をしたくないのが本音だ。先送りする場合、どのタイミングにすべきか、熟慮している」。安倍首相の側近はこう漏らす。
各種世論調査では先送りを求める意見の方が多く、市場関係者の間でも「増税先送りは既に織り込まれている」との見方が広がる。自民党内からも参院選を控え、先送りの決断が有利に働くとの声が相次ぐ。
だが、安倍首相が慎重に判断しようとしているように、先送りはそんなに容易ではない。現在の経済状況はリーマン級とまでは言い難く、サミットで各国首脳が世界経済は危機的状況にあるとの認識で一致するのは難しそうだ。
先送りの場合、安倍首相の政治判断で決める構図となりそうだが、これまでの発言との整合性やアベノミクスの現状に対する政治責任、再延期する増税を確実に実施するための手だてが問われることになる。
同時に、消費増税を先送りするなら社会保障充実のための財源をどう確保するのか。市場の信認を維持するためにも、財政再建への道筋を含め明確に示すことが欠かせない。
政権運営の主導権を握り続ける首相
増税の判断は衆院解散戦略と密接に絡む。7月の参院選前に先送りを表明すれば参院選で信を問う形になり、安倍首相にとっては解散時期について別途検討できる利点がある。
ただ、安倍首相周辺からも「2014年の先送り時、政権公約にない税制で重大な変更を行う以上、信を問うとの理由で解散に打って出た経緯がある。参院選は中間評価の場であり、先送りするなら衆院選で問うのが常道だ」との声が出ている。
また、月末に閣議決定される経済財政運営の基本方針(骨太方針)の原案には消費増税を前提にした内容、文言が入っている。
経済官庁幹部は「首相官邸から急な見直しの指示があれば別だが、閣議決定した直後に先送りに急旋回するのは批判されかねない」と指摘する。
自民党の稲田朋美政調会長が先送りする場合の判断時期について参院選と関係しないとの認識を示したように、与党内では「2016年4~6月期の経済情勢を見極めるためにも、判断は参院選後にすべきだ」(自民のベテラン議員)との声も根強い。
衆院解散時期もにらみながら、タイミングを見定めて増税の可否を判断しようとしている安倍首相。難しい政治判断を迫られているが、特に昨年秋以降、衆院解散や増税先送りというカードをちらつかせることで、政権運営の選択肢を広げてきたことは確かだ。
また、安倍首相の自民党総裁任期は2018年9月まで。これまでの自民党なら昨年9月の総裁再選後、「ポスト安倍」を巡る駆け引きが活発化していても不思議でない。それなのに、安倍首相は政権運営の主導権を握り続け、これまでのところはレームダック(死に体)化を阻止することに成功してきたと言える。
サミットの晴れ舞台でホスト役を務め、米国のオバマ大統領の歴史的な広島訪問も決まった。思惑通りの政権運営にさらに追い風が吹く中、いつ、どのような判断を下すのか。長期政権を見据える安倍首相が政局の主役を演じる日々が続く。
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