大手牛丼チェーン「すき家」は、2月24日、地方百貨店である「スズラン高崎店」(群馬県高崎市)の地下食品売り場に出店した。持ち帰りが主体の店舗だが、デパ地下への進出は、1982年の創業以来初となる。

開店早々、50人以上が列を作った「すき家スズラン百貨店高崎店」。高級な和牛弁当は想定以上の売れ行きで、一時は欠品する事態に
開店早々、50人以上が列を作った「すき家スズラン百貨店高崎店」。高級な和牛弁当は想定以上の売れ行きで、一時は欠品する事態に

 目玉メニューは1080円(税込み、以下同)の「和牛弁当」だ。ほかには手ごろな、牛丼弁当もあるが、上質な肉を使用しているため、並盛りで370円と、通常のすき家の350円よりも20円高い。主に持ち帰る顧客を想定しているが、カウンターが4席あり、その場でも食べられる。

 すき家では業界最安値で牛丼を提供することにこだわってきたため、1080円という高額の商品は異例だ。だが、すき家を経営する、ゼンショーホールディングスの浅沼幹典ゼネラルマネジャーは、「本来は1200~1300円つけたいような商品。百貨店で売っている同レベルの和牛弁当といえば1000円台後半からが多いことを考えると、非常にお得だ」と話す。

 新店には午前10時の開店直後から、50人以上が列を作り、和牛弁当は「正午には翌日の販売予定数まで完売した」(同社)という。急きょ材料を追加で取り寄せ、午後3時に販売を再開した。

群馬県産の黒毛和牛を使い、タマネギは同社の加工工場ではなく、店内でカットしたものを使っている。群馬県特産の玉こんにゃくを添えてある。 写真では分かりにくいが、肉の色がやや濃い印象。肉にタレがしっかりと染み込むように工夫したという
群馬県産の黒毛和牛を使い、タマネギは同社の加工工場ではなく、店内でカットしたものを使っている。群馬県特産の玉こんにゃくを添えてある。 写真では分かりにくいが、肉の色がやや濃い印象。肉にタレがしっかりと染み込むように工夫したという

 今回の出店の狙いについて、北関東と新潟エリアの店舗を運営する、関東すき家の栗林徹社長は「すき家といえば、もともと男性やガテン系のイメージが強いが、女性やシニア世代以上の顧客の開拓をしなければ時代に乗り遅れてしまう。女性やシニアを取り込む狙いもあって、百貨店に進出した」と話す。地方百貨店には、質の高いものを求める地域住民が集まっており、新たな挑戦に最適な立地と判断したようだ。

 同社の調査によれば、消費者の9割がすき家を認知しているという。だが実際に来店したことがない人も多い。「工事期間中から、店の前を通る何人もの方から『すき家って一度行ってみたかった』と声を掛けられた。来たことのない人はまだまだいっぱいいると痛感した」と栗林社長は話す。

広さは約8坪、座席数は4席で、持ち帰り客が主体と考えている。座席は背もたれ付きで、カウンターの幅は、通常の「すき家」よりも広めでゆったりしている
広さは約8坪、座席数は4席で、持ち帰り客が主体と考えている。座席は背もたれ付きで、カウンターの幅は、通常の「すき家」よりも広めでゆったりしている
ロゴは金色。店舗設備も重厚感のあるものを選んだという
ロゴは金色。店舗設備も重厚感のあるものを選んだという

労務問題への対応で攻めの施策が打てず

 女性とシニアをいかに取り込むか──。これは外食各社が数年前から取り組んでいる課題だが、なぜすき家が遅ればせながら大々的にうたうようになったのか。背景には、2014年に浮上した労務問題への対応に追われた「ワンオペの呪縛」がある。

 すき家は、もともとのスタッフ不足に加えて、調理作業に負担が多いメニュー「牛すき鍋定食」の導入が、労働環境の悪化に拍車をかけた。1人で全ての店舗業務を行うワンオペレーション(ワンオペ)を実施している店舗が問題となり、外部から批判が高まった。労働環境を改善するため、2014年10月時点では、全国1979店のうち、最大1254店で深夜営業を休止した。

 2015年は外国人留学生を積極的に採用したり、新規開店を抑制したりして、それまでの拡大路線を修正。その結果、東京都と神奈川県では深夜営業は全て再開できた。2016年1月末時点で1970店のうち、深夜営業を休止する店は301店まで減った。

 「店の負担を軽減するため、新商品を出すことも、以前より控えてきた」(ゼンショーホールディングス広報担当者)が、状況が回復しつつある中で、今回の出店を含め、再び攻めに転じようとしている。来月には、春の新商品を発売する予定だ。

 ゼンショーホールディングスの業績も、すき家の深夜営業の再開に合わせて回復基調だ。2015年3月期の連結売上高は5118億1000万円、最終損益が111億3800万円の赤字に転落したが、2016年3月期は売上高5467億2500万円、33億1100万円の黒字を見込む。

「軽減税率対策ではない」

 今回、出店したスズラン高崎店は、高崎市役所から徒歩5分ほどの場所。近くには、コンビニエンスストアはあるが、大手牛丼チェーンの店舗はない。いわば「牛丼空白地」といえる。

百貨店の外でも、弁当の大きな写真を掲示してアピール。あるタクシー運転手は「看板が目立つから、タクシー仲間でも話題になっている」と話す
百貨店の外でも、弁当の大きな写真を掲示してアピール。あるタクシー運転手は「看板が目立つから、タクシー仲間でも話題になっている」と話す

 最近、すかいらーくなどロードサイド中心で出店してきた外食企業は、人口が集中する都市部への出店を加速している。今回の百貨店内への出店は、その一例といえそうだ。高崎に関して言えば、高崎駅から車で30分ほどの場所に「イオンモール高崎」があり、駅周辺よりも郊外で買い物をする若者が多い。そのため、駅周辺は以前よりも活気が失われている面もある。そんな中で、すき家では、百貨店の外商との連携もにらみ、会議用弁当の需要なども取り込んだり、周辺の外食店の顧客を囲い込んだりしたい考えだ。

 外食業界では、来年の消費増税に合わせて導入予定の軽減税率への対応に注目が集まっている。軽減税率の仕組みでは、持ち帰りは8%のままだが、店内で食事する場合は10%となる予定だ。栗林社長は「今回の店は1年前から準備を進めていたので、軽減税率対策ではない」と説明するが、同社にとっては持ち帰り需要への実験につながることには間違いないだろう。

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