不動産会社の大京が民泊に参入する。ネット系の不動産会社なども参入を検討しており、東京五輪に向けて民泊市場は拡大していくようにも見える。しかし、業者主体の民泊はAirbnbなどが広めてきた民泊とは一線を画するものだ。

 ライオンズマンションなどを展開する不動産会社、大京は、今春をめどに「民泊」事業に参入する。傘下の仲介会社、大京穴吹不動産(東京・渋谷)が空き家を100戸程度買い取り、改装したうえで、旅行者などに貸し出す。民泊の特区となっている東京都大田区を中心に事業を展開する計画だ。

 民泊への参入を検討しているのは大京だけではない。複数のネット系不動産会社が自社物件を民泊に活用するための準備を進めている。昨年11月には、アパマンショップホールディングスが民泊事業に参入することを表明している。

 日本を訪れる外国人客数は2000万人に迫る勢いで伸びている。大都市を中心に宿泊施設は慢性的に不足してきており、宿泊料金は上昇している。不動産会社が続々と民泊事業に参入すれば、旅行者が利用できる物件数は格段に増えることになる。2020年の東京オリンピックを見据え、民泊市場は日本でも拡大していくように見える。

 しかし、こうした不動産業者の相次ぐ参入は、世界的に広がる民泊の動きとは一線を画するものだ。日本の民泊が、「ガラパゴス化」してしまう懸念さえある。

 民泊市場の世界的な広がりは、米Airbnb(エアビーアンドビー)がけん引してきた。2008年に創業した同社は、現在、世界3万4000都市、200万件の物件が登録され、累計6万人が利用する一大プラットフォームに成長した。

 これほど短期間にAirbnbが急拡大してきたのは、ホテルなど従来の宿泊施設にはなかった体験が得られるからだ。Airbnbでは、自宅やマンションの一室を旅行者向けに貸し出している場合が多い。ホストファミリーや地元の人との交流などを目的に、Airbnbを選ぶ人に支持されてきた。古民家などに泊まれることも、ホテルなどでは体験できないものとして人気があった。

 Airbnbでは、一棟貸しなど色々な形態も選べる。2015年末、友人と6人グループで日本を訪れた米国人のブラディー・ケントさん(25)は「ホテルだと6人部屋はなかなかないので、大阪と東京でAirbnbを利用した」と話す。登録物件が郊外にあることも多く、ホテルなど従来の宿泊施設とも、ある程度住み分けができていた。

民泊解禁となっても、喜ぶのは業者ばかり

 ところが、日本で動き始めた不動産業者が主導する民泊はこうした新しい需要の掘り起こしにはつながらないだろう。ホストファミリーとの交流体験などは期待できず、単なる宿泊場所の提供にとどまれば、ホテルなど既存の宿泊施設と直接競合することになる。それでは、価格競争につながる可能性が高い。

 さらに、不動産価格の上昇につながる懸念もある。海外でも、パリやバルセロナでは、業者が民泊のために不動産を買い漁った結果、不動産価格が上昇するという問題が深刻化している。

 現状、旅館業法に抵触した形で日本に広がりつつある民泊。政府も重い腰を上げて解禁に向けたルール作りを始めている。ただ、現在、民泊の解禁は旅館業法の規制を緩和した許可制になりそうだ。

 ただ、一般市民が民泊の許認可を取るのはハードルが高い。このままでは「民泊解禁」と言っておきながら、日本では参入するのは業者ばかりということになりかねない。海外でも企業が手掛ける民泊はあるが、個人宅に泊まれる民泊も充実している点が日本とは異なる。

 そもそも、民泊はなんのためにやるのか。民間企業が宿泊事業に乗り出したければ、従来からある旅館業法に則るべきとの指摘もある。ホテル不足を補うための代替手段としてしか利用できなければ、せっかくの市場拡大のチャンスを逃すことになりかねない。

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