ビール各社は現在、自社の課税出荷数量を半期ごとに発表する。毎年7月に発表する1~6月、同1月に発表する前年1~12月の出荷動向は、12月期決算のビールメーカーの業績を分析する有力な材料になる。業界全体と各社の出荷動向をもとにメーカー別のシェアも把握できるため、業界関係者の関心は高い。
大手5社の、2016年ビール類の課税済み出荷数量の合計は4億1476万ケース(1ケースは大瓶633ml×20本換算)。統計を開始した1992年以降で過去最低を更新した。内訳はビールが前年比2%減の2億1070万ケース、発泡酒が6.8%減の5730万ケース、第三のビールが1.2%減の1億4675万ケースとなった。
メーカー別に見ても、全社が前年比でダウンした。なかでも苦戦が目立ったのがキリン。前年比5.4%減で、下げ幅は5社中最大。シェアも1ポイント減らした。
上期は微増も、天候不順で一転失速
昨年1~6月の段階では、ビールは9557万ケースと前年同期から0.4%増えていた。年後半に失速したのは、最も消費が伸びる夏場が思わしくなかったからだ。
ビール消費は、人口減少や高齢化、さらには嗜好の多様化などにより、長く低迷傾向にある。ただ、2016年の場合、不振の最大の要因は天候不順だ。昨年夏は東日本で梅雨明けが遅れたほか、夏~秋にかけて日本全体で台風が頻繁に上陸し、飲食店への客足が遠のいた。実際、日本フードサービス協会によると、「パブレストラン・居酒屋」の8月の売上高は前年比で11.5%の大幅減。飲食店など業務用の不振が、ビール需要の足を引っ張った格好だ。
ビール類の出荷数量をもとにした各社のシェアを見ると、最大手のアサヒビールと4位のサッポロビールで上がった一方、2位のキリンビールは低下した。
アサヒは39%と0.8ポイント上昇。主力のビール「スーパードライ」は業務用の不振で販売が落ち込んだが、第三のビール「クリアアサヒ」が家飲みなど節約志向をうまく取り込んで2ケタ増やしたのが寄与した。
サッポロは0.2ポイント上がり12%。ビール「黒ラベル」、「ヱビス」、第三のビール「麦とホップ」がいずれも伸びた。「逆風、ダウントレンドの中でほぼ計画通りに推移し、手応えを感じた一年だった」(高島英也社長)。
なお、3位のサントリービールは15.7%、5位のオリオンビールは0.9%と、ともに横ばいだった。
「前年の施策をなぞり、打ち手が遅くなった」
唯一、シェアを落としたのはキリンだ。32.4%と、前年比で1ポイント下がった。主力のビール「一番搾り」で、47都道府県別に味を変えた商品が人気を集め、ビールの販売数量は1.8%減と、市場全体より減少率は低かった。一方、キリンの第三のビールは8.7%減と、市場全体の1.2%を大幅に上回る。主に苦戦したのは「のどごし」で、機能系の「のどごしオールライト」も厳しい販売状況となった。
落ち込みについて、布施孝之社長は「『のどごし』は2015年、季節限定品も含めて評価された。この流れで昨年は2015年の施策をなぞってしまった。季節限定品は若干リニューアルしたが、2年目になるとどうしても鮮度が落ちて、前の年の7掛けぐらいの数量になってしまった。お客様の変化のスピードは速く、打ち手が遅くなったと考えている」と振り返った。
発売30~40年ブランドが販促の好機
各社は今年も様々なキャンペーンを展開し、反転攻勢を狙う。今年は「スーパードライ」発売から30年、「黒ラベル」の販売開始から40年にあたる。スーパードライは花見の時期に合わせて桜をデザインした華やかなパッケージの限定商品を投入する方針。サッポロも様々な販促活動を予定しており、業界全体でビールの需要を盛り上げるには好機だ。
業務用の需要喚起にも力を注ぐ。アサヒは「スーパードライ」のパーティーサーバーを飲食店で本格的に導入。来店客が樽生ビールを自ら注ぐ楽しさを体感できるもので、「お酒を飲む機会が減っている若い消費者を開拓したい」(平野伸一社長)。キリンはクラフトビール専用の小型サーバー「タップ・マルシェ」を、今年4月をめどに首都圏で展開。年内に1000店での取り扱いを目指す。
サントリーは、毎月末の金曜の退社時間を早めて消費活動を促す「プレミアムフライデー」が2月に始まるのを追い風に、主力の高価格帯ビール「ザ・プレミアム・モルツ」の販促に力を注ぐ。同社は2010年から断続的に「金曜日はプレモルの日」と銘打ったテレビCMを流してきた。「オリンピックに例えると、メダルを取る場所を決める。プレモルと(第三のビールの)『金麦』を強いブランドに育てていく」(水谷徹社長)。
政府は昨年12月に決定した2017年度の税制改正大綱で、2026年にビール類の酒税を一本化する方針を盛り込んだ。350ml当たり54円になる見通しで、現在47円の発泡酒と28円の第三のビールは増税、現在77円のビールは減税となる。
今後は税制改正を見据え、ビールの開発や投資に力を注ぐ取り組みが出てきそうだ。酒税の一本化に向けた動きをうまく生かし、ビールの消費を伸ばしてビール類全体の市場を底上げできるか。これからの10年が、業界の将来を左右する重要な時期となりそうだ。
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