第2次安倍内閣発足以降、支持率が最低となった。8月上旬とも言われる内閣改造の後も支持率が回復せず、さらに落ちるようなことになれば、安倍内閣は崩壊の道をたどるだろう。
読売新聞が7月7〜9日に実施した全国世論調査で、支持率は36%。6月17〜18日の前回調査の49%から13ポイント下落した。逆に不支持は52%で、前回調査の41%より11ポイント上昇している。朝日新聞の世論調査では、支持率は33%、不支持率は47%だった。その他、産経新聞、共同通信の調査でも、支持率は30%台まで落ち込んでいる。
支持率急落のきっかけとなったのは、森友・加計問題だ。ただ、よくよく考えると、加計学園の問題など一私立大学の一学部の問題である。国会が動くような話ではなく本当に小さな問題なのだ。
それがなぜ、大問題になってしまったのか。
これは森友学園問題についても言えることだが、理由は全ての関係者が逃げ回っている点にある。こんなことは、従来の自民党を振り返ってもあり得ないことだ。だから、国民の不信感がどんどん強まってしまった。
例えば、森友学園問題では、なぜ大阪府豊中市の国有地が8億1900万円も値引きされたのかという謎がある。しかも、近畿財務局と学園側との交渉の記録や報告書は、破棄されてしまったという。もし記録の破棄が事実であったとしても、それを作成するための計算書は残っているはずだ。
明らかに不自然さが残る。「破棄した」と言い続け計算書まで出て来ないのでは、「文書が明るみに出れば非常に都合の悪いことだ」という疑惑が深まるばかりだ。
財務官僚による国会答弁は納得できないものだった。財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は、「パソコンデータは復元できない」と言い、安値で国有地を売却した理由の説明を拒んだ。
新聞やテレビは、官僚を批判している。しかし問題は官僚になるのではない。官僚が自ら白々しい答えを言うわけがない。政治家が「このように答えろ」と指示しているのだ。
ところがマスコミは、その政治家たちに対する追及をしようとしない。ただの「官僚いびり」をしているだけだ。
先日、僕は森友学園の籠池泰典前理事長を取材した。僕は籠池氏に、「一昨年の9月、あなたは安倍昭恵氏に電話をしたが、その時、昭恵氏は海外出張中で留守番電話だった。一体、あなたは安倍夫人に何を頼もうとしたのか」と聞いた。
すると籠池氏は、「近畿財務局が土地を売ると言っているが、値段が高すぎる。これを何とか安くできないものかと言おうとした」と答えた。ほかにも2つほど用件があったそうだが、メーンは国有地の値下げだったという。
その後、恐らく昭恵氏が経済産業省の谷査恵子氏(当時は内閣総理大臣夫人付)に頼んだのだろう。谷氏から連絡を受けた籠池氏は、谷氏に詳しい手紙を書いて郵送したという。
しばらく経って、谷氏からFAXが届いた。「近畿財務局に交渉をしてみましたが、残念ながらご期待に添えるような事態にはなりませんでした。申し訳ございません」という返事だった。
ところが、少し時間を置いてから、谷氏から二度目のFAXが届いた。「今年度はご期待に添えませんが、来年度(16年度)での予算を行う方向で調整しています」と書かれていた。
新年度に入ると、何と近畿財務局は、先にも触れたように国有地の値段を8億1900万円も値下げして売却したのだ。
僕は籠池氏に「これは、満額回答と言っていいんですか」と聞いたら、「もちろん満額回答です。昭恵夫人が色々やってくださったおかげで、要望が実現しました。非常に感謝しています」という答えが返ってきた。
籠池氏はこのように言っているが、政治家たちは官僚に責任をなすりつけて逃げ回っている。
加計学園問題でも全関係者が逃げた
加計学園問題でも、内閣府から「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」と文科省に圧力をかけたとする文書が出てきた。
それについて菅義偉官房長官は、当初、「怪文書だ」と言い捨てていた。ところが、周囲からの批判が強まり、対応できなくなると、文科大臣が「調査をする」と言わざるを得なくなった。その結果は「確認できなかった」というものだった。
さらに、マスコミの追及に菅官房長官が追い詰められ、文科大臣が再び調査をすることになった。その結果は、最初の調査とは異なるものだった。「官邸の最高レベル」「総理のご意向」と書いた文書が存在したことが判明したのだ。
これに対し山本幸三地方創生担当相は、「それは全くあり得ない話だ。内閣府はそんなことを言っていない」と全否定した。もし全否定するのならば、内閣府の文書を示すべきである。
なぜ、山本大臣は、文書を示せなかったのか。逃げているからだ。国民は、山本大臣の発言を全く信用していない。言えば言うほど、山本大臣は信用できない人物だと感じてしまうだろう。
山本大臣の発言によって、再び文科省から文書が出てきた。それには、昨年10月に萩生田光一官房副長官が「安倍首相は2018年4月の開学を目指しているから、獣医学部新設計画を認めるように」と文科省に要請していたことが具体的に記録されていた。
ところが、萩生田氏は全否定している。萩生田氏と会ったはずの文科省の常盤豊高等教育局長も「記憶がない」と言っている。
全員が逃げているのだ。だから、国民は「何かやましいことがあるに違いない」と不信感を募らせてしまう。こうして問題はどんどん大きくなってしまった。
昔、竹下登氏がよく言っていた言葉がある。「国民に好かれるような政治家になりたいと思えば、野党の政治家になれ。国民に嫌われる覚悟のある人間は、与党の政治家になれ」。
今の自民党の政治家たちには、その覚悟が全くない。すべての問題から逃げている。だから、安倍内閣の支持率が急落してしまったのだ。
内閣改造をしても、支持率は回復しない
安倍首相は、8月に内閣改造をすると言っている。しかし、僕は内閣改造をしても、支持率は回復しないと思う。
このまま支持率が30%を割れば、自民党の議員たちが、次の選挙で自分は当選できないのではないかという危機感を持ち始めるだろう。自民党の議員たちは、この国をどうするのか。自民党をどうすべきか。そういった肝心要の問題について全く考えていない。彼らの頭の中にあるのは、自分の落選に対する恐怖だけだ。
すると、安倍内閣の支持率が30%切るあたりで、「安倍降ろし」が始まる。その時、自民党は大混乱に陥るのではないかと僕は考えている。
ではどうすればいいのか。自民党幹部の中で、誰かが責任を取らなければ、この動きは止まらないと思う。
このまま支持率が下がり、安倍降ろしが始まったとしても、自民党内には「ポスト安倍」は不在だ。従来の自民党には、必ず次期首相候補がいたが、今は有力な候補者がいない。ポスト安倍が誰なのか見当もつかないから、大混乱に陥るだろう。
例えば、今、首相候補として石破茂元幹事長の名前が挙がっているが、彼は安倍批判をしているだけで、「私ならこうする」という話は一切していない。
このままでは、自民党の未来は未知数どころか崩壊だ。以前、「内閣支持率急落が示す『自民党の劣化』」でも述べたが、全ての原因は自民党の劣化だ。しかし、党内でそれに気付いている者はいない。支持率が30%を切るのは、時間の問題だろう。
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