インターネットやスマートフォンの普及で、消費者と服との関係は大きく変わりつつある。その代表例の1つとされるのが、衣服のレンタルサービスだ。
同サービスを手掛けるエアークローゼットでは、利用者がインターネット上で好みのスタイルや体型の情報などを登録すると、スタイリストが選んだ3着の服が手元に届く。料金は毎月の定額制。返却期限はなく、飽きたらクリーニングしないまま送料無料で返却できるという手軽な仕組みで、2015年のサービス開始から順調に会員数を伸ばしているという。
コンサルティング業界出身の天沼聰CEO(最高経営責任者)は、「レンタル事業はゴールではない」と話す。描くのは、顧客情報のビッグデータ化による生産体制の変革だ。
「着る服がない」けど「いつも同じ店」
現在、サービス利用者はどれくらいいますか。そもそも、なぜレンタルサービスを始めようと思ったのですか。

有料会員数は非公開ですが、無料登録も含めて会員数は9万人以上です。
私以外に2人の共同創業者がいますが、我々は元々アパレル業界の人間ではありません。ですので、視線は消費者に近い。実際、このビジネスの着想は、まさに妻の買い物を見ていた時に得ました。みなさんも経験があるかもしれませんが、出かける前になると、妻がクローゼットの前で「着る服がない」と言っていまして(笑)。
で、実際に買い物に出かけると、いつも行く店がだいたい決まっていて、それ以外には寄りません。そして、最終的に買う服も既に持っているものと似たようなテイストになります。自分で似合うと思う服の幅がだいたい決まっているんですね。
仕事や家事などに追われる女性のライフスタイルの中で、服との出会い方が硬直化していると思いました。そこで、スタイリストなど第三者が指摘する形でファッションとの新しい出会いを作るというビジネスモデルを思い付きました。
レンタルが普及すると、「服を買う人が減るのでは」という見方もあります。大手アパレルほどその考えが強いように感じます。
私自身、「服は買わずに全部レンタルで」とは考えていません。例えば、何回でも借りられるようにした点や、送る服をスタイリストが選ぶようにした点は、すべて新しい服に気軽に出会ってもらうための仕掛けです。レンタルして気に入ったら、その服をそのまま買うこともできます。
レンタル対象となるブランド名を開示していませんね。
ブランドと直接契約して、レンタルする服はほぼすべて我々が買い取りさせて頂いています。確かにブランド名は開示していません。これまでファッションレンタルの市場自体、パーティードレスや貸衣装が主で、普段着はほとんどありませんでした。
そんな中で、我々のサービスに商品を提供してもらうことが、ブランディングにどう影響するのか分かりませんでした。うちに関わってブランディングが悪化するという事態は避けたかったので、まずサービスだけを打ち出して市場を作ることを優先しました。今後はブランド名の開示に向けて話し合いもしていきます。
「売ったら終わり」ではなく、その先まで考える
昨年、中堅アパレルのストライプインターナショナル(旧クロスカンパニー)が、自社ブランド商品のレンタルサービスを始めました。アパレル企業自らが乗り出したことについて、どう受け止めていますか。
メーカー側としても、ブランディング上で相応しくないと思えばやらないでしょうし、そういう意味ではポジティブに受け止めています。アパレル業界全体でみると、小売りがゴールになっているような気がします。その後どうするか、にまで視点がいっていないんですね。顧客のライフスタイルを変えようと思えば、「売ったら終わり」ではなく、その先まで考える必要があると考えています。
レンタルサービスは主にインターネット経由で展開しています。顧客の身長や体重、スリーサイズなどの情報が入ってくるし、レンタルした後の反応等も情報として集めることができますね。
お客様の情報をデータ化して、それをどう生かすかを考えています。我々は消費者に一番近い、いわゆる「川下」で衣服を提供している立場です。今でも小売りの店頭では、「試着したけどこの色味が好きじゃない」など、お客様の嗜好に関する情報がアナログで生まれては消えています。
我々はそのデータをデジタルで収集できる。それを人工知能で解析できれば、お客様一人一人の正確な好みと、ファッショントレンド全体の把握が同時に出来るようになります。そのデータをアパレルの生産工程に活用すれば、川下から遡っていく新しい生産体制を作れるのではないかと考えました。実際に、人工知能を扱う企業と検討を進めています。
レンタル対象となる服は10万点ほどありますが、すべて自社で採寸し直しています。袖丈や身幅などの正確なデータを把握することで、実際に利用者に着てもらった際のフィードバックを精緻なデータとして蓄積できます。それを貴重なデータとして人工知能に学習させますが、その手本として、所属スタイリストのコーディネート等のデータを使えるところがうちの強みです。
何を着ているかより、どう着こなしているか
衣服のレンタル市場は広がりつつありますが、その分、競争相手も増えます。
レンタルの場合、「買うよりも安い」という経済的な強みがあります。うちはこれにプラスして、心理的な部分を重視しています。「借りるんだから、着たことのないテイストの服を試してみよう」と考えてもらえたら嬉しいです。
「どのアイテムを着ているのか」よりも「どういう着こなしをしているのか」が評価される時代になっています。トレンドアイテムを沢山扱うということよりも、そちらに価値を置きたいですね。
エアークローゼットの具体的な事業としては、アクセサリーやメンズ、シニア、キッズ、マタニティーなどにレンタル対象を広げたいと考えています。アジアなど海外にも進出し、日本のファッション文化を広めることも目標です。
ただ、レンタル事業が我々のゴールではありません。レンタルを通じて購買拡大につなげたり、蓄積したデータを生産に還元したりするなどして、アパレル産業を支えていきたいと考えています。
誰がアパレルを殺したのか。その未来は?
日経ビジネスオンラインでは、アパレル業界が深刻な不振に陥った背景を多角的に分析するとともに、既存概念から一歩踏み出す新たな動きを追う特集「誰がアパレルを殺すのか」を展開しています。本記事以外の特集記事もぜひお読みください。
併せて、日経ビジネス10月3日号「買いたい服がない アパレル“散弾銃商法”の終焉」もご覧ください。
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