「アースミュージック&エコロジー」などを手がけるストライプインターナショナル。過去5年間の売上高は、年率平均で20%増の成長を遂げている。百貨店や大手アパレルメーカーがマイナスもしくは横ばいで推移している中、ひときわ目立った存在感を放つ。
そのストライプを率いるのが石川康晴CEOだ。石川氏は、1994年に地元岡山でレディスセレクトショップを創業。1年後の95年にクロスカンパニー(現ストライプ)を立ち上げる。その後の20年間で、ストライプ単独では826億円、グループ全体で1103億円の規模にまで育て上げた(2015年1月期)。三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長も「非常に注目している」と言う若手経営者だ。
2015年には自社の洋服をスマートフォンで簡単にレンタルできる「メチャカリ」を開始し、洋服の宅配クリーニングを手がける「Basket」を買収し宅配クリーニングサービスにも参入。従来のアパレルメーカーにとらわれないサービスを展開する。
2017年春の上場も予定されるストライプの石川氏に話を聞いた。

従来のアパレルメーカーが取り組まないようなサービスにも積極的に取り組んでいます。
戦略の一つとして考えているのは「ファッション産業の川下を伸ばす」ということです。昨年始めた1カ月5800円で自社ブランドの服を何点でも借りられる「メチャカリ」はその代表例です。レンタルやシェアサービスは、既存マーケットの敵と捉えられることが少なくありません。レンタルサービスを始めれば、その分人は服を買わなくなる、ということが必ず言われる。つまり、「新品が売れなくなる」という話ですね。
でも、実際にどうなるのかは、やってみないと分からない。自分たちのビジネスが共食いになることも覚悟の上で、まずは始めてみなければと思いました。やらなければ、海外企業やIT企業が入ってきて、アパレル業界をぐちゃぐちゃにされるだけです。それは、アマゾンやアップルが他の業界に与えた影響を見ていれば、火を見るより明らかです。
当然、始める前の検証はかなり綿密にやりました。
どのような形で検証を行ったのですか。
まず、テスト時には、一般利用者500人に使ってもらい、販売売上の推移を確認しています。想定したシナリオは3つ。レンタルを始めた利用者が、ECでも店舗でも買わなくなるケース。もう1つは買うには買うが、減るケース。最後が、何も減らずに、レンタルの月額収入のみ純増になるケースです。当然、1つ目と2つ目になったら、それは恐ろしい結果ですよね。でも、蓋を開けてみると、結果は店舗もECも売上高は少しも減りませんでした。
想定外はほかにもありました。2015年9月当時ストライプの会員数は200万人(編集部注:現在は340万人)。このうちどれくらいがメチャカリに登録するのか。
既存会員の登録が中心だと思っていたのですが、その予想は覆りました。メチャカリ登録者のうち3分の2が新規ユーザーで、つまりストライプとまったく接点のなかったユーザーを取り込めたのです。まだ会員数は4000人程度ですが、伸びる余地は十分にあると思っています。願わくば、他のメーカーが「レンタルは既存市場を食う」と思っているうちに、2、3年の差を付けてプラットフォームを確固たるものにしていきたいですね。
店舗不要の「オンライン発ブランド」もあり得る
米国では店舗を持たないオンライン発のブランドが市場を席巻しています。メチャカリでも、利用者に届ける商品に新しいブランドの洋服を差し込んで、認知度を拡大するといったことも可能になります。レンタルしてもらって、気に入ってもらえば、オンラインで買ってもらう、という過程を築き上げることができれば店舗は必ずしも必要なくなるはずです(参考記事:ファストリが恐れる米アパレル「エバーレーン」)。ネット発の新ブランドを始める予定はありますか。
はい、やろうと思っています。メチャカリがプラットフォームとして大きくなれば、新しいブランドをメチャカリで知ってもらって、それをまずはレンタルで着てもらって、よければオンラインで購入してもらうといったことが現実味を帯びてきます。こうした流れが広がれば、店舗は不要でしょう。
飽くまで構想レベルですが、来春くらいにはそうしたブランドを我々自身が仕掛けていきたいと思っています。デザインや開発では、ソーシャルメディアでのインフルエンサーと協働したいと思っています。ツイッターやインスタグラムでフォロワーが圧倒的に多い影響力のある人たちをデザイナーのような立ち位置にするイメージです。
彼らが、僕らの開発チームと一緒にブランドを作れば、「サンプルができあがりました!」といったように、作る過程もどんどんソーシャルメディアでストーリーテリングしてくれますよね。完成したときには、フォロワーの何万人が買ってくれる、と。
「ネット時々リアル」のブランドは増える
ただ、これは経験から分かっているのですが、こうしたインフルエンサーとの協業商品は、3カ月程度しか売れない。深追いするとお互いいいことにならないので、そのあたりはしっかり見極めながらやっていきたいと思っています。
僕らに限らずネット発のブランドは今後もっと出てきていいと思います。リアルの店舗に出るのは、時々でいい、というようなスタイル。「オンライン時々リアル」、くらいのイメージです。もっとディベロッパーは催事スペースのようなものを拡大して、ネットブランドが催事的に1週間だけ出るといったようなものを積極展開して面積を広げるべきだと思います。今後、ネット発ブランドは必ず増えるので。
メチャカリ以外にも既存のビジネスモデルにこだわらない新サービスを展開しています。
ストライプの商品を「新品で買う」以外で、いかに顧客と接点を持てるかが重要だと思っています。例えば、メチャカリを始めたと同時に、ECでの中古品販売も開始しています。レンタル後に返却された商品を安く中古品として売れる「出口」を用意しました。昨年4月にベンチャー企業を買収して始めたクリーニングサービス「Basket」も川下を広げることの一環です。
見習うべきは自動車産業だと思っています。自動車は、買った後にもメンテナンスがあり、古くなれば買い取りもし、それを販売するサイクルがある。パーツやアクセサリーの市場もある。自動車産業に倣えば、アパレル市場ももっと大きくできる伸びしろがあるはずです。
そこで要となるのがテクノロジーですね
Basketを買収した際にCEOだった松村映子を弊社のCTO(最高技術責任者)にするなど、積極的に人材登用を図っています。ECをはじめとしたサービスは本来我々が積極的に投資しなくてはいけなかったものを易々と見過ごして、他のIT企業の参入を許してしまったことは、反省でもあり、アパレルはIT音痴な産業であると思っています。
アパレルの業界には、マーケターやデザイナーは多いですが、エンジニアがほとんどいない。それもIBMなどの大手で大規模のソフトウエアを作っていたような方ではなく、アプリを作ったり、課題解決のためのサービスを作れるような方ですね。
マーケット全体が人材不足というのもありますが、そもそもエンジニアの人にアパレルで働くモチベーションがないんです。こうした人にどう魅力を感じてもらい、人材を獲得できるかというのは、今後の企業のパフォーマンスや生産性向上の鍵になると思っています。
海外のベンチャー企業への出資も積極的に行っています。シリコンバレーのECやロボット会社、AIを研究する企業などに出資しながら、最先端の情報を入れるようにしています。クレジットカードがなくなっていくような小売りの決済の世界は遠からず来るはずですから、その文脈でフィンテック関連の銘柄にも注目しています。こうした企業への出資も今後は考えられるかもしれません。
ワールド、オンワードの撤退店舗を狙い撃ち
各社がブランド終了やそれに伴う店舗閉鎖を行う一方で、積極出店できる理由は何ですか。
現状、年に100店舗程度出店しています。むしろ、今こそチャンスだと思っています。オンワードやワールド、イトキンが郊外型ショッピングセンターの一等地から続々と撤退し始めていますので、旧来型のアパレル企業が退店しているところを狙って入っていっています。一方、施設の二等立地のような場所は全部断っています。
2016年2月に始めたアメリカンホリックは好調で、1年で40店舗程度出す予定です。上期ですでに18店舗出しています。通常、立ち上がりのブランドは年平均5店舗くらいなので、非常にハイピッチで店舗を増やしている状況です。想定以上のペースですね。
今多くのブランドが店舗を閉めている原因は、そのブランドに固執しすぎたからだと思っているんです。多くのブランドが、数年前につくった既存ブランドを横展開で拡大している。
例えば僕たちだと、主力事業の営業利益の3割が『未来投資』という位置づけです。数ある事業の中には赤字のものもありますが、アースミュージック&エコロジーとグリーンパークスなど営業利益が5%を超えるような主力事業の営業利益の3割を投資に回そうっていうのが我々の考え方です。これはもう何年もやり続けてきたので、多少調子が悪いときも絶好調のときもずっと、未来に向けて新規事業を年に1つか2年に3つ程度のペースで出し続けてきました。
ハイペースで新規事業を展開するとなると、その見極めも大切です。どのように判断しているのですか。
数字を基に、スピードを重視しています。例えばアメリカンホリックの投資計画は、3年で何億円、という数字を決めている。新しく始めたグローバルブランド「KOE」は50億円です。うまくいくアパレルブランドは3年で離陸するとわかっていますので、3年間の赤字がその投資計画範囲内でないと、当該ブランドはマーケットからずれていると考え、撤退する。そうでなければやる意味がないと思っていますし、潔くやめます。情緒的に投資したり、やめたり、ということは一切ありません。
数字で管理するのは、既存店舗でも同じですし、例えば、ノウハウのない新しい飲食業などに入る時はもっと厳しく見ますね。
要は攻める前に負けのシナリオも組んでいるんです。数字に基づいて。ある程度出店を加速しても、「立ち返るべき数字」と「未来に向けた新規開発という投資」があれば、そこまで大崩れしたり急ブレーキがかかったりということはないと思っています。
出店が加速度的に増えることに不安はないですか。
あります。毎日怖いですよ。一等地だって、息を吹き返した競争相手がどんどん営業でアピールしてくるので、いつ取れなくなるかわかりません。アメリカンホリックのような新規ブランドも、今は調子がよくても、前年のデータがない中で、疾走しながら、未知の世界で商品づくりをしています。いつ失速するかっていう不安との闘いです。
自国の文化を押し出さなければ世界は目指せない
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長からもアドバイスをもらうことがあると聞いています。ただ、同じSPAとしてライバルにもなり得ます。ファーストリテイリングと比べた時の強みは何ですか。
当然、今はまだ小学校の野球部と大リーグのチームくらいの差がありますけども、「違い」は出していけると思います。
まず組織としては、ブランドポートフォリオが組まれているというのが我々の強みです。例えば、ファーストリテイリングにはセオリーやGUがありますが、現実にはユニクロが占めるウエイトが非常に大きい。一方、我々は18ブランドあります。1本足か18本足かの差が一番大きいですよね。
グローバルブランドとして立ち上げた「KOE」は、「日本らしさ」をユニクロや無印良品と同様に提供していきたいと思っているブランドです。日本らしいって何なのって考えた場合に、僕はテクノロジーとエコだと思っているんです。
世界ブランドとして成功したブランドにはパターンがあると思っています。ZARAもH&Mもヨーロッパのランウエイに出ているラグジュアリーブランドの安価版ですよね。いわゆるヨーロッパのファッション文化を安く提供している。
GAPは、あれは誰が見てもヨーロッパのブランドだとは思わないですよね。パーカーにジーパン。いわゆるアメリカントラッド、アメリカンカジュアルを世界に押し進めていっている。カリフォルニアサーファーのにおいのするような、アバクロンビー&フィッチなどもそうですよね。成功したブランドは、自国の文化を世界に押し出しているっていうのが、特徴だと思っているんです。それをアップデートしているな感じですよね。
だから、もしKOEが“なんちゃってH&M”のようになった瞬間に、それはヨーロッパの文化を押し出していることになるので、日本では成功できても世界では絶対にうまくいかないと思っているんです。
なので、僕たちはユニクロがベーシックで攻めるなら、無印がシンプルさや禅のような概念で攻めるなら、僕たちは「テクノロジーアンドエコ」だと思っています。これが提供できれば、20年後僕たちは世界のトップに立てていると思います。
「エコ」については、まず11月に東京・自由が丘で表現しようと思っています。「KOE HOUSE」という1階がサラダショップ、地下はバイオマスの木を使った食器屋で、僕のイメージでは「ネオ無印」のようなイメージです。
来年の冬には都内で大型店舗を出す予定ですが、そこはテクノロジーや日本のサブカルチャーが見えてくるKOEショップをつくろうと思っています。

もう服だけに頼って大きくなっていくのは難しいですか。
100パーセント無理だと思っています。当然、アパレルを中心に考えますけど、少なくともライフスタイルや生き方を提供していく、といった考えを根底に持ちながらやっていかないと成長は見込めないと思います。
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