女性の支出の絞り込みには「5つのステップ」がある
今回は景気の動向について、女性の消費の観点から考えてみる。
2008年9月に「リーマンショック」が発生した後の、景気後退局面の「谷」は2009年3月である。女性が購買層の中心である百貨店の売上高統計(同年4月の全国百貨店売上高)を基にして筆者は当時、女性層による支出額の絞り込みには、以下のように「5つのステップ」があることを指摘した(「プラス」「マイナス」は既存店ベースの前年同月比を示している)。
支出額絞り込みの段階(ステップ) | 支出絞込みの対象 | 説明 | マイナスの期間 |
---|---|---|---|
【ステップ1】 | 「美術・宝飾・貴金属」 | いわゆる「光り物」を買うのをやめる | 2007年3月以降、26か月連続マイナス |
【ステップ2】 | 「婦人服・洋品」 | ファッションにかけるお金を減らす | 2007年7月以降、22か月連続マイナス |
【ステップ3】 | 「惣菜」 | 「デパ地下」のお惣菜を買うといった、ちょっとしたぜい沢も手控える | 2008年6月以降、11か月連続マイナス |
【ステップ4】 | 「食堂喫茶」 | 「ちょっと喫茶店で休憩」もやめるようになる。ランチも安い店で | 2008年8月以降、9か月連続マイナス |
【ステップ5】 | 「化粧品」 | 多くの女性にとって重要な化粧品代も、ついに削減対象になる | 2008年12月以降、5か月連続マイナス |
では、足元の状況はどうなっているだろうか。全国百貨店売上高の2016年3月分が、4月19日に公表されている。上記のステップ5つについて直近の状況を記すと、以下のようになる。わかりやすいように、足元で前年同月比がプラスになっているものには〇を、マイナスになっているものには●を付けてある。
支出額絞り込みの段階(ステップ) | 支出絞込みの対象 | 直近の状況 | マイナスの期間 |
---|---|---|---|
【ステップ1】 | 「美術・宝飾・貴金属」 | ● | 前年同月比▲4.3%/2か月ぶりマイナス |
【ステップ2】 | 「婦人服・洋品」 | ● | 前年同月比▲8.3%/5か月連続マイナス |
【ステップ3】 | 「惣菜」 | ○ | 前年同月比+0.0%/2か月連続プラス |
【ステップ4】 | 「食堂喫茶」 | ● | 前年同月比▲4.5%/5か月連続マイナス |
【ステップ5】 | 「化粧品」 | ○ | 前年同月比+13.0%/12か月連続プラス |
〇が2つ、●が3つであり、2009年4月のような女性層による支出絞り込みのきれいなステップ感は、少なくともこの統計上では見出されなくなっている。その大きな理由は、中国人など訪日外国人によるインバウンド消費の増加である。
「リーマン」後ほどではないが、女性の支出は減少
日本百貨店協会の公表資料によると、3月の訪日外国人動向は好調を維持し、売上高は前年同月比+13.2%(約157億円)になった。売上高総額約5277億円の約3%である。一方、購買客数は同+31.0%(約23万人)。「一般物品売上が前年を下回ったものの、消耗品売上の伸びがこれをカバーするなど、購買品目の拡がりも含め消費スタイルに変化が窺える」という。
ここで言う「消耗品売上」には化粧品が含まれている。したがって、「ステップ5」の化粧品が12か月連続で前年同月比プラスになっていることを、国内の女性の消費意欲がまだ崩れていない証しだと早合点すべきではないだろう。
5つのステップのうち、インバウンド消費の影響が小さいと考えられるのは、「婦人服・洋品」「惣菜」「食堂喫茶」の3つである。
これらのうち、「婦人服・洋品」と「食堂喫茶」は、ともに5か月連続で前年同月比マイナスを記録している。「惣菜」は足元でプラスではあるものの、強い数字ではない。<図3>
以上から「リーマンショック」の影響を含んでいた2009年4月までの局面ほどの弱さではないものの、女性層による支出の絞り込みがある程度までは進んできているというのが、今回の結論になる。
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