月次の企業サーベイであるQUICK短期経済観測調査(QUICK短観)の3月調査結果が、18日に公表された。新興国の景気減速や円高・株安を背景に、全国の上場企業の景況感が製造業主導で悪化していることが、はっきり示された(調査期間:3月1日~15日、420社が回答)。
筆者が特に注目したのは、この調査に含まれている円相場判断DI(回答比率「想定よりも円安」-「想定よりも円高」)の急低下である<図1>。製造業は▲62(前月比▲50ポイント)で、「アベノミクス」が2012年12月に正式に始まるよりも前、同年8月(▲63)以来の水準に落ち込んだ。為替相場の円高基調への急速な転換が、景気・企業業績の下振れリスク増大に直結している。
また、QUICK短観には「1年後」「2年後以降」の消費者物価見通し(前年比)も含まれており、日銀の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)の数字を予想する際に重宝する。今回の調査では「1年後」の平均が+0.7%、「2年後以降」の平均が+1.0%で、いずれも前月から0.1%ポイント下がった。原油安、円高、個人消費低迷などが原因だろう。
物価見通しの低下は「トレンド」ではないか
これらのうち「2年後以降」を、日銀短観「企業の物価見通し」の物価全般の見通し「3年後」「5年後」と比較すると、両者は連動していることがわかる<図2>。4月初旬に発表される日銀短観3月調査では、「3年後」「5年後」ともに低下する可能性が高い。実際にそうなれば、低下は4四半期連続となり、「企業の物価見通しの低下は一過性の動きであってトレンドではない」と日銀が強弁することは、もはや難しくなる。
「アベノミクス」への期待感から日本株を大きく買い越していた海外投資家の売買動向も、このところ大きく変わっている。
財務省が発表している「対外及び対内証券売買契約等の状況(週次・指定報告機関ベース)」のうち、「対内証券投資 株式・投資ファンド持分」について、「アベノミクス相場」が始まったとみられている野田佳彦首相(当時)の衆院解散表明(12年11月14日)および実際の解散(同月16日)があった週(12年11月11~17日)以降の「取得・処分ネット」累積額を図にしてみよう<図3>。
日銀が「量的・質的金融緩和」の導入を13年4月4日に決めた後、同年5月12~18日の週に累積額は10兆円を突破。日銀が14年10月31日に追加緩和に動いた後、同年11月16~22日の週には20兆円を突破した。ピークは15年5月31日~6月6日の週に記録した25兆0527億円である。
ところが、同年8月の中国人民元切り下げなどで市場が「リスクオフ」に傾く中、海外投資家は日本株を売り越すようになり、累積額は減少基調に転じた。今年最初の週(1月3~9日の週)にはまだ20兆円台を保っていたが、そこから水準を毎週切り下げ、3月6~12日の週には15兆円を下回って14兆8288億円になった。これは13年11月10~16日の週以来の水準である。
難局切り抜ける妙案見つからず
為替市場では、海外の投機筋が円先高観を前提にしたポジションを作るようになっている。シカゴマーカンタイル取引所(CME)上場の円通貨先物(ドル/円相場が対象)について、投機筋が主体とされる非商業取引の建玉バランス(ロング-ショート;円の買い持ちから売り持ちを差し引いた数字)を見ると、3月8時点で6万4333枚のロング超になった(08年3月25日以来の水準)。
「アベノミクス」が始まってから2015年末までは、ショート超がずっと続いていた。海外投機筋の間では円の先安観が支配的だったわけである。ところが、2016年に入るとロング超に転じ、しかもプラス幅が拡大した<図4>。週ごとに数字の上下動はあるものの、ロング超の状況はその後も変わっていない。
円安・株高の流れを足場にして景気回復を追い求めてきた「アベノミクス」の行き詰まり、円高・株安方向への「逆回転」を、以上のマーケット関連指標の動きから、明確に見て取ることができる。
安倍晋三首相の経済政策運営は、7月に参院選を控える中で、大きなピンチに直面している。だが、この難局を切り抜けることのできる妙案が出てきているようには見えない。
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