
11月29日午後2時30分、朴槿恵大統領が3回目の対国民談話を発表した。5分ほどの談話の内容は「大統領の任期短縮や退陣、全てを国会の決定に任せる」というものだった。
朴大統領は、「与野党が議論して国政の混乱と空白を最小化し、安定して政権移譲できる方案を作れば、その日程と法手続きに沿って大統領職から離れる」と述べた。
また、朴大統領はチェ・スンシル一族の国政介入と不正蓄財に関して再度謝罪したが、「個人的な利益を追求したことは一度もない」と検察の捜査内容を強く否定した。朴大統領は談話の発表が終わると、記者らの質問は一切答えず、「近々色々なことの経緯について詳しく話すので、質問はその時にしてほしい」言い残してその場を去った。
朴大統領の口から「退陣する」という話は出なかった。
韓国民から「談話には満足できない」の声
地上波放送のSBSが朴大統領が談話を語った直後に街角インタビューを行ったところ、インタビュー応じた市民のほとんどが批判的なコメントをした。
「朴大統領自ら退陣を決めるべき。国会に任せるとは無責任すぎる」
「退陣する意向があるなら、何月何日に辞めますと自分から言うべきである。一方的に国会に丸投げするなんておかしい」
「退陣するのかしないのか、大統領としての最後の決断までも他人任せだとは。ずうずうしいにもほどがある」
「国会で朴大統領の退陣を決めたら従うだろうか。信用できない。退陣するまで抗議する」
「最後まで他人のせいにして、自分の責任ですとは言わないので笑ってしまった」
毎週土曜日に朴大統領の退陣を求める集会を行っている市民団体らも、朴大統領が談話を発表した直後にコメントを発表した。
「朴大統領は自分の去就についてすべてを国会に任せたと話したが、本当は退陣するつもりはなく任期の最後まで粘るつもりなのだ。朴大統領は検察の捜査で明るみになった本人の不正についても知らないふりを続けている。これは許されない」
「これ以上国民を苦しめたり、国を混乱させたりすることなく、即退陣するよう朴大統領に求める。それが唯一の解決法だ」
SBSが自社のホームページ上で行ったアンケートでは、談話の内容について「満足できない」が5万1768人、「満足する」が850人だった(午後4時30分時点)。ケーブルテレビのJTBCが同じく自社ホームページ上で行った緊急世論調査では、「朴大統領は無条件に今すぐ辞任すべきである」が4180人、「談話に関係なく弾劾すべき」が2087人、「談話の内容に満足した」は40人、その他が34人だった(午後4時30分時点)。
これまで通り弾劾を求める
共に民主党、国民の党、正義党の野党3党は、「今後の対策は議論中」としながらも、朴大統領の弾劾訴追案は、予定通りに進めると発表した。
共に民主党は29日、朴大統領の談話を受けて緊急議員総会を開いた。同党のチュ・ミエ代表は、「国政の責任者である大統領が、事態を収拾しようとせず、『自分とは関係がない』『側近の管理を疎かにしたせいだ』と責任を逃れようとしている。国民は朴大統領の3回目の談話を聞いて、これ以上1秒も許せないと考えているだろう。朴大統領は民心を知らず国民を無視した。弾劾を目前にして国会を撹乱し、弾劾から逃れようともがいているに過ぎない」と強く批判した。
韓国の検察は一連の大統領スキャンダルの共犯として朴大統領を捜査している。弾劾が決まれば、その瞬間から憲法裁判所が最終判決を下すまで、朴大統領の全ての職務は停止される。国務総理が大統領の代理を務める。
一方で与党のセヌリ党は朴大統領を擁護した。チョン・ジンソク院内代表は、「朴大統領の談話内容は国民に降伏を宣言したもの。自身の去就を国会に白紙委任、下野を決心したという意味である。大統領が辞任を表明したのも同然なので野党は弾劾を原点から議論し直すべき」だと主張した。セヌリ党は、朴大統領が退陣についてすべてを国会に任せると言った以上、弾劾は必要ないのではないかという立場である。
日中韓首脳会談の行方は不透明
12月19~20日、東京で日中韓首脳会談が開催される予定になっている。韓国の外交部(韓国の「部」は日本の「省」に当たる)は11月24日の記者会見で「首脳会談には朴槿恵大統領が出席する」という立場を示していたが、29日の談話により、先行きは不透明になった。朴大統領が12月の日中韓首脳会談に出席するとなれば、就任後初の日本訪問となる。
弾劾訴追案が可決されないとしても、朴大統領の退陣を求める声はあまりに大きい。朴大統領が韓国の代表として日中韓首脳会議に出席するのは難しいかもしれない。
加えて、朴大統領亡命説まで飛び出している状態だ。「国民の党」前代表のチョン・ジョンベ議員は11月24日、一般市民向けに行われた弾劾に関する懇談会で「朴大統領は首脳会談に出席してはならない。(朴大統領は)海外に出国して戻ってこない可能性がある。大統領職を辞任した瞬間に身柄を拘束されるからだ」と発言した。韓国メディアは朴大統領亡命説を大きく取り上げた。
特別検事と国会が捜査に参加
朴槿恵大統領の支持率は11月25日時点で4%(韓国ギャロップ調査)と史上最低値を更新した。29日の朴大統領の3回目の談話に対する評価はとても厳しいものであるたため、支持率が反騰するのは難しいだろう。談話を発表したにもかかわらず、朴大統領にとってはさらに苦しい時間が待っている。12月からは、朴大統領とチェ・スンシル一家を対象にした「特別検事」による捜査が予定通り始まる。
特別検事とは、捜査が公正に行われていないと見られる時に、与野党が合意して始動する制度。特別検事の捜査対象や捜査範囲には制限がない。野党が2人の候補を提示し、その中から大統領が1人を選定して特別検事に任命する。制度上は特別検事を大統領が任命することになっているが、今回は大統領を捜査する特別検事なので、朴大統領が特別検事を任命することに野党は反対している。一方、野党が提示する特別検事候補は2人とも政治的に中立でないとして、朴大統領が任命を拒否する可能性もある。
11月30日からは国政調査も始まる。国政調査は憲法で認められた国会の権限で、国政に関わる特定事件に関して国会が調査する。検察の捜査と違うのは、国民の目線で証人に質問をし、疑惑について詳しく調べ公開することにある。検察の捜査は結果だけ公表されるが、国政調査はテレビやインターネットサイトで生中継される。
チェ・スンシル本人とその一家を証人として国会に呼び、議員らが調査することが決まった。ただし、朴大統領を証人とすることを巡っては与野党が対立している。野党が国会に呼ぶべきと主張するのに対して、与党は大統領を証人にはできないと反論している。
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