米鉄鋼大手USスチールを約2兆円で買収することを決めるなど、攻め手を次々と繰り出す日本製鉄。かつては重厚長大企業ならではの動きの重さが目立ったが、その足取りは明らかに軽くなっている。ここ5年ほどの間で劇的な変貌を遂げた日本製鉄を追いかけた書籍『日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったか』から抜粋して掲載するシリーズの第2回。(文中敬称略)
地球の裏側から帰国してすぐに覚えた違和感は、社内に漂う雰囲気だった――。
2016年、橋本は赴任先のブラジルから日本に3年ぶりに帰国した。ブラジルでは、アルゼンチンの製鉄大手テルニウムとの製鉄合弁会社、ウジミナスの副社長として、社内で起きていた経営混乱の火消しに奔走していた。橋本は引き続き難事に当たるつもりだったが、日本に呼び戻されたのだ。
橋本が久しぶりに東京・丸の内の本社に出社すると、社内は先行きを楽観視するムードにあふれていた。聞けば「高級鋼が売れている」「内需が好調」と言う。
表向きはそう見えるかもしれないが、橋本は実態を見透かしていた。第2次安倍晋三政権における経済政策「アベノミクス」による円安や、自動車メーカーの輸出好調の恩恵を受けて採算が改善していただけだ。それに加え、持ち合い株の解消という大義名分の下、10年間で1兆円もの株式を売却し、特別利益として吐き出していた。
「お互い苦しくなって統合した」
“外部環境依存症”だけではない。橋本が社内を見渡しながら不安に感じていたのは、会社から漂う「うぬぼれ」だった。
「統合で規模が大きくなったことで、全員が勘違いしていた。みんな、全体感が分からなくなっていた」。後にこう振り返った橋本が言う「統合」とは、旧新日本製鉄と旧住友金属工業の経営統合を指す。
12年に誕生した巨大鉄鋼メーカー、新日鉄住金。その連結売上高は約4兆3900億円、従業員数は7万6000人。世界の鉄鋼市場で首位の欧州アルセロール・ミタルに次ぐ第2位に躍り出た。中国勢も台頭する中、合併によってグローバル競争を勝ち抜くのが狙いだった。
だが、「外には立派なことを言っていても、お互い苦しくなって統合した」と橋本は言う。統合後の業績は、かりそめのものだと見ていた。
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