電気自動車(EV)シフトが自動車業界の秩序を突き崩している。後発の米テスラがEV市場をリードし、異業種から車への新規参入も相次ぐ。既存の自動車メーカーやそこで働く技術者らは混戦模様のこれからの自動車市場で勝ち抜くため、どんな自己変革を求められているのか。低燃費と走りの両立を狙ったマツダの「スカイアクティブ技術」の生みの親で、業界きってのエンジン技術者として名をはせた人見光夫シニアフェロー イノベーションに話を聞いた。

人見光夫(ひとみ・みつお)氏 マツダ・シニアフェロー イノベーション
人見光夫(ひとみ・みつお)氏 マツダ・シニアフェロー イノベーション
1954年生まれ。東京大学大学院航空工学科修士課程修了、79年マツダ入社。ほぼ一貫してエンジンの先行技術開発に携わり、2011年執行役員パワートレイン開発本部長・コスト革新担当補佐、常務執行役員 技術研究所・パワートレイン開発・電気駆動システム開発担当などを経て、17年常務執行役員シニア技術開発フェロー 技術研究所・統合制御システム開発担当、19年シニアイノベーションフェロー、22年4月から現職(写真:柴仁人)

自動車業界で電気自動車(EV)シフトが大きな潮流となっています。車づくりに関わってきた一人ひとりの技術者、自動車メーカー、部品メーカーはどんな自己変革を求められているのでしょうか。

人見光夫マツダ・シニアフェロー イノベーション(以下、人見氏):いかに燃費と走りを良くして、いかに安くするか、排ガス規制にいかにスマートに対応するか――。今までエンジン関連の技術者はこうしたことを考えていれば良かったのです。自動車メーカーと取引するサプライヤーもそれに適用できるような部品を提案していれば良かった。

 でも今からは違います。動力源がモーターに置き換わると、どこの会社が作ったってもうエンジンみたいな差は出てきません。今まで競ってきたような性能の領域で競争する時代ではなくなります。バッテリーなどに使われる素材が足りないこともあって、EVは簡単には安くならないともみています。

 (ホンダと提携した)ソニーグループのような異業種がEV市場に入ってきます。彼らがエンターテインメントを目玉に車を売ろうとしたとき、我々もそれに追従するのかどうか。一部は追従すると思いますが、(既存の自動車メーカーは)どう生きていくか、という根源的な問いに向き合わなければなりません。

 IT(情報技術)のスタートアップ企業などは技術を持ちながら、顧客に対してどんな価値を提供するか、どう人々の生活を変えるかというところを追求しています。自動車の技術者もそこまで考えなければなりません。

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