昨年、政府・自治体システムの共同基盤となる「ガバメントクラウド」の事業者に選ばれた。「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」などの米IT大手4社に続き、初の日本企業となる。国内唯一のクラウド専業としての誇りを胸に大仕事に挑む。
(聞き手は 本誌編集長 熊野 信一郎)

田中 邦裕[たなか・くにひろ] 氏
1978年大阪府生まれ。舞鶴工業高等専門学校4年生だった96年にさくらインターネットを創業し、98年に会社設立。2022年からソフトウェア協会会長。日本データセンター協会理事長、日本インターネットプロバイダー協会副会長も務め、政府系では「AI戦略会議」の委員も務める。
昨年11月、政府や地方自治体が共同で使う「ガバメントクラウド(政府クラウド)」の提供事業者に選定されました。これまでに採択されたのは、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)ジャパンなど米系4社。今回は、国内勢からインターネットイニシアティブとソフトバンクも応募しましたが、選ばれたのはさくらインターネット1社でした。
選定事業者は、まさか1社になると思っていませんでした。ガバメントクラウドの選定に当たり、国の姿勢が大きく変化したのが昨年です。私たちは、入札基準のハードルを下げない状態で他社が手掛けた「サードパーティー製品」の使用も認めることをパブリックコメントで国に求めました。その後、国が似通った内容で入札基準を設定し、それで私たちが応募、採択に至ったという経緯があります。
今は、(本選定の条件になっている)2025年度末を期限とする技術要件の達成に向けて取り組んでいるところです。もちろんハードルは低くはありませんが、達成はできると考えています。
創業以来、最高峰の仕事
周りの反響はいかがですか。
大きな反響があるのが採用です。以前の3〜4倍となる月1500件ほどの応募があり、年間で約200人を採用する予定です。従来、さくらがここまでやる会社だと思われていなかったでしょう。それが、ガバメントクラウドに選定されたことで、本気であることが伝わったのだと思います。
私たちは、多くの国内他社と異なり、すべて自社で開発することも宣言しています。さくらに来ればいろんな仕事ができる。それが想像しやすくなったと思います。応募してくるのは、国内大手や米企業の社員らが多いです。
ガバメントクラウドの事業者になることはどのような意味がありますか。
28年前に創業して、クラウド事業を専業とする企業として誇りを持ってビジネスをしてきました。そんな私たちにとって、ガバメントクラウドはこれまでのクラウド事業の中でも最高峰の仕事になります。もうかる、もうからないを超えて、以前から挑戦したいとの思いを強く持ってきました。
実は、意気消沈していた時期もありました。ガバメントクラウドを目指して頑張ってきたけれど国は21年、AWSを中心に(米国勢を)選定すると決めました。やはりAWSやグーグル(グーグル・クラウド・ジャパン)には勝てないのかと落ち込みました。(編集部注:このほかの提供事業者は日本マイクロソフト、日本オラクル)
そんなとき、周りの声が大きな励みとなりました。私が2年前から会長を務めているソフトウェア協会の役員の存在は大きく、前会長だった豆蔵K2TOPホールディングスの荻原(紀男)さんや筆頭副会長のサイボウズの青野(慶久)さんなどが「日本のITの構造を変えよう、クラウド化を進めよう」と訴えていて、勇気をもらいました。悪化していた会社の業績が好転したことも追い風となりました。
多くの国内企業は分業型の事業モデルである一方、さくらはクラウド事業の上から下まですべて自社開発する垂直統合型です。「自前」であることは採用に効いていますか。
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