証券取引等監視委員会は5月16日、資金管理がずさんであるとして、長野県飯田市の太陽光発電事業者「おひさまエネルギーファンド株式会社」に対して行政処分するよう、金融庁に勧告した。東日本大震災以降、急速に導入機運が高まった再生可能エネルギー。志ある市民のお金を流し込む仕組みをいち早く作り上げた会社に当局のメスが入った。関係者は「他のファンドへのイメージダウンになるのではないか」と、衝撃を隠せない。

 おひさまエネルギーファンド株式会社は、太陽光発電事業の推進で全国的に知られた長野県飯田市で生まれた会社だ。飯田市は1997年から太陽光発電装置を導入する公共施設や家庭、事業者を積極的に支援してきた。同社は飯田市と連携しながら装置導入にかかる費用をファンド組成を通じて調達し、その運営・管理を行う。

 その仕組みはこうだ。出資者の資金は太陽光発電装置の設置業者に渡り、パネルなどの設備購入費として使われる。発電事業者が電力を売却して得られた収益から出資者へ配当を支払う。

 飯田市は発電事業が長期に継続できるように支援する。公共施設の屋根を20年間、無償提供するとともに、太陽光発電で得た電力を固定価格(当初は1キロワット=22円、現在は29円)で買い取る。発電装置が設置されている建物が老朽化などで取り壊されたり、改修されたりする場合は、契約が継続できるように配慮するという。

会社名義の口座から配当を出す

 このような官民の連携によって、おひさまエネルギーファンドは2004年以降、8種類、16本のファンドを通じて計20億円を越える資金を運用してきた。

 だが今回、明らかになったのはずさんな資金管理の実態だ。出資者の資金が会社名義の口座に振り込まれていたり、会社名義の口座の資金や他のファンドの口座資金を別のファンドの出資者への配当に充当したりしていた。

 また、ファンド立ち上げ直後で事業利益が発生していないにも関わらず、収益を算出せずに当初計画に沿った配当金を出資者に支払っていた。

 ファンド資金の私的流用などの問題は認められなかったが、資金はすべて原亮弘社長が1人で管理する状況だったという。このような出資金の管理に関して不適切な点が多いことを重くみて、監視委は処分勧告に踏み切ったと見られる。

 「再生可能エネルギー事業の健全な発展に期待して改善を促すための勧告である」。監視委は16日の記者会見でこう説明した。おひさまエネルギーファンドは勧告を受けて、「指摘された内容にについて特段の異議申し立ては行わない」とするコメントを発表。資金管理のための社内担当者を新たに配置するなどとする改善策を明らかにした。

 今回の事例は「草の根ファンド」「ご当地ファンド」とも呼ばれる、市民参加型の自然エネルギー事業のあり方に、大きな問題を投げかけたともいえる。

 太陽光ファンドは、2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まってから、さまざまな業界からの新規参入が相次いだ。この制度は、再生可能エネルギーで発電した電力の全量を買い取ることを電力会社に義務付けるものだ。

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