5年振りに来日した米アマゾン・ドット・コムCEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾス氏。インターネットの黎明期に事業を興し、今なお第一線で活躍している限られた経営者の1人だ。今回、ベゾス氏は日経ビジネスのロングインタビューに応じた。
言葉を慎重に選びながらも、ベゾス氏は時折ジョークも交えつつ、自身が掲げる経営理念や日本における電子書籍事業の詳細などについて赤裸々に語ってくれた。
前回から5年振りの来日です。その間、EC(電子商取引)だけでなく電子書籍端末「キンドル」やクラウドサービスの拡充など事業は多岐に渡っています。アマゾンは何を目指しているのでしょう。
ベゾス:「地上で最も顧客中心の会社」が私たちのビジョンです。そして、望んでいるのは、まったく異なる業界からもアマゾンが手本にされるようになること。「あのような卓越した顧客経験を我々の産業でも実現したい」と言われるようになりたいですね。
そのために我々は「品ぞろえ」「利便性」「低価格」という3つの要素を大事にしています。この3つは密接に結びついているものです。まずは、品ぞろえから始まります。顧客が求める品物がなければ、価格がどれほど安くても、どれほど速く届けられても意味がありません。
しかし、品ぞろえが充実していても、届けるのが非常に遅かったり、価格が安くなければ顧客にとって意味がありません。この3つの要素を全て改善していくためにエネルギーとリソースを注ぎ込んでいます。
「競合の名前を挙げるのは顧客中心主義ではない」
アマゾンの顧客中心主義の徹底は広く知られています。しかし、ほかの企業の経営者もまたその言葉をよく口にします。
ベゾス:そうですね。我々と彼らが何が違うかをきちんと説明しておいたほうがいいかもしれないな。
顧客を中心に考えていると言い張る会社の行動を見て下さい。実際に何を言っているのか、何をしているのかを見れば、決して顧客中心でないことが分かるでしょう。メディアに対して最大の競合他社の名前を挙げる。これは競争相手中心であることの明らかな兆候です。もちろん、私はこれを間違いだと言っている訳ではない。会社によってはそれでもいいのです。
「close following(すぐ後ろからついていく)」という戦略があります。競合の一挙一動にじっと目をこらし、何かした時にはうまくいくかどうか様子をうかがう。うまくいけば、迅速に真似をする。この戦略はある意味難しい。だからこの戦略を取る会社を非難すべきではないとは思う。
だが、同時に彼らは何も発明していないのです。何も発明していないということは、すなわち先駆者ではないということ。誰かの後ろについていくのは、顧客ではなく競争相手が中心にいるということです。
アマゾンの顧客中心主義は3つの「ビッグアイデア」に基づいています。1つ目は顧客を出発点にして、そこからさかのぼるというアイデア。2つ目は発明と革新を進め、先駆者になることを目指すというものです。3つ目は長期的な視野に立つこと。
この3つの組み合わせがあるからこそアマゾンは特別な存在になり得ています。顧客に対するこだわりを持ち、発明し、開拓し、新たなことに挑戦する。そして必ず長期的視野に立つ。このアプローチがアマゾンの優位性を形作っています。
我々が何か商品やサービスをリリースするにしても、必ず顧客を出発点にしてさかのぼっていき、準備が整った時点で発売する。会社が本当に辛抱強いかどうかは、行動に表れます。バグが残っているような商品を時期尚早に発売している会社は決して辛抱強くない(笑)。
「我々は市場シェアを自分たちで決めることはできない」
短期的利益を追求する企業が増えている中で、確かにアマゾンは辛抱強い。先行投資期間が長い印象があります。
ベゾス:おっしゃるとおり、私たちは辛抱強い。待つのは平気です。2、3年でうまくいく必要はまったくありません。状況によっても変わりますが、一般的に私たちの会社が見ているタイムラインは、5年から7年。
もちろんどこかの時点で顧みる必要は出てくるでしょう。うまくいかないものにいつまでも投資することはできませんから。しかし、1つの事業を構築するために5~7年にわたって投資する用意は常にあります。
我々は市場シェアを自分たちで決めることはできないと常に思っています。最高の顧客経験を提供することに重点を置いてビジネスを展開するだけ。あとは顧客がアマゾンのシェアを決めます。アマゾンで買い物をするのか、それとも別のところでするのか。これは常に顧客が決めることです。
しかし、新しい事業に進出する際には、私たちは経験が不足しています。その費用を顧客に払わせるようなことをしてはならない。初めて何かをするときには、必ず授業料を払わなければならないのです。未経験で分からないことがあるから我々は学習します。学習をしている間は投資期間です。うまくできるようになったら、投下資本利益が向上し、その投資は利益を生むものに化けます。
もともと短期的な利益を追求するウォールストリートにいたのによくそんな考え方に立脚できますね。
ベゾス:だからこそ、私は“かつて”ウォールストリートにいて、そして今はいないのだと思います(笑)。
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