オリンパスは4月20日、一連の損失隠しの責任を取って全取締役が退任するのに伴い、新たな取締役候補の承認などを得るため、臨時株主総会を開いた。英米メディアはこぞってこの臨時株主総会について報じたが、その論調は一様に厳しく冷ややかだった。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の記事はこんな書き出しで始まっている。

 「(この総会は)茶番だと言う株主が数人いたものの、オリンパスは15億ドル近くに上る粉飾決算の発覚後、初めてとなる株主総会において会社議案を通すのにほとんど苦労することはなかった。この事実は、これほどひどい経営をする役員を許してしまう日本の投資家の『甘さ』を、(我々に)再認識させるものである」

オリンパスの臨時株主総会は、「日本の投資家の『甘さ』を再認識させるものだ」と指摘した米紙ニューヨーク・タイムズ電子版の記事
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 そして記事はこう続く。

 「オリンパスは、何十年にもわたり投資による損失を隠してきたことを認めた今回のスキャンダルによって、実に時価総額にして40億ドル以上を失った。にもかかわらず、同社が日本の機関投資家から支援を失うことはなかった。彼らはオリンパスの経営陣と足並みを揃え、総会でも一枚岩となって強い結束を固めて賛成票を投じた。議決権行使助言会社や一部の海外及び個人株主は、経営上層部の総退陣を要求していたにもかかわらず、取締役候補らは承認されたのである」

 「日本の機関投資家」に対する痛烈な批判である。

「問題の3人」も日本の機関投資家の結束で承認される

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)も厳しい。

 「今回の株主総会の結果(取締役など会社議案がすべて承認されたこと)は、多くが人が予想していたことだ。とはいえ、今回の結果は、新たな取締役に債権者である銀行出身者が就任するなど、銀行と(オリンパスの)取締役メンバーが緊密な関係となることに懸念を表明してきた一部の海外の株主にとって、『事態が改善に向かうかもしれない』という微かな期待を消し去るかもしれない」

臨時株主総会に出席したマイケル・ウッドフォード氏は、総会後にメディアに対して、「こんな総会は茶番だ」と語り、オリンパスを強く批判した
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 海外の機関投資家や議決権行使助言会社は、元三井住友銀行専務の木本泰行氏が取締役会議長を務める会長に、オリンパス執行役員の笹宏行氏が社長に、そして元三菱東京UFJ銀行執行役員の藤塚英明氏が取締役に就任することについて、かねて強い不満を表明してきた。にもかかわらず、総会では3人が多数の賛成票を得て承認されたからだ。

 木本氏の場合、総会における賛成票の64.62%に対し反対票は34.25%。笹氏は、賛成票70.74%に対し反対票は28.04%。藤塚氏は、賛成票が68.35%に対し反対票が30.47%だった。

 昨年6月のオリンパスの株主総会で、取締役候補がいずれも賛成票94.5~99.4%という高い賛成比率で承認されたことを考えれば、かなり低い支持にとどまった。だが、NYTが指摘する「日本の機関投資家の強い結束」の結果として、全役員候補は問題もなく承認されたのである。

 日本の機関投資家の今回のオリンパス事件への対応については、かねて海外から批判する声があった。例えば、同社の大株主となっている米ファンド、ハリス・アソシエイツの最高投資責任者(CIO)、デイビッド・ヘロー氏は、オリンパスが損失隠しを認め、株価が事件発覚前の半値以下に暴落していても、同社に対して何の説明や事態の解明を要求しない日本の機関投資家について、昨年末、こう痛烈に批判していた。

 「資産運用のビジネスに身を置く者は、顧客が自分たちに大切なお金を託している、ということを強く自覚すべきだ。顧客にとって最良の判断をすることが、自分たちにお金を託してくれている人たちの信頼に応えることになる。日本の機関投資家は、顧客から託された信頼(に応えること)を放棄している」

 米国では年金基金が加入者利益に配慮した議決権を行使することが義務づけられている。だが、今回の臨時株主総会で、日本の機関投資家はガバナンスという観点では必ずしも機能しないという事実をさらけ出した。

 冒頭のNYTの記事では、「1000人近い人が出席した3時間に及ぶ株主総会では、多くの出席者が、会社の提案する11人の取締役候補の賛成を表明すべく、必死になって拍手をしていた(clapped enthusiastically in support of the company's proposals)」と皮肉混じりに記している。

「改善すべき方向性」と逆行

 こうした機関投資家の問題以外に、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)や英BBC、英紙ザ・テレグラフ、ロイターなどが一斉に取り上げたのが、マイケル・ウッドフォード氏が臨時株主総会で爆発させた怒りの声だ。同氏は、オリンパスによる一連の買収を巡る問題点を指摘して、昨年10月に同社の社長を解任された。

英紙テレグラフは「総会の冒頭、オリンパスの全役員は日本で謝罪する際の通例に倣い起立して深々と頭を下げたが...」と報道
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 オリパスが臨時株主総会を開くわずか4日前の4月16日、同社が渡辺和弘取締役常務執行役員(59歳)と西垣晋一取締役執行役員(57歳)を執行役員として残留させる方針であることが漏れ、海外も含む複数のメディアが報じていた。

 ウッドフォード氏は臨時株主総会の会場で質問に立って、この報道に言及しながらこう怒りを爆発させた。

 「(西垣氏と渡辺氏を執行役員として留任させることが)世界からどのように見えるかあなた方には分からないのか。今日が新たな始まりの日だって? 冗談じゃない。恥を知れ」

 高山社長はウッドフォード氏の指摘に対し、「2人は当社が設けた取締役責任調査委員会による調査で粉飾決算についての責任はないとの判断が出た人物だから」とその正当性を主張した。そして、オリンパスは臨時株主総会後に取締役会を開き、西垣氏と渡辺氏の執行役員就任を正式に決定、同日、これを同社のホームページ上で発表した。

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