独立系のAIJ投資顧問が、顧客の企業年金資産約2000億円の大半を消失していた問題が波紋を呼んでいる。AIJの顧客の約9割が、中小企業が集まる「総合型」の厚生年金基金だったことが判明している。実は「日経ビジネス」は2011年7月18日号特集『年金残酷物語』で、こうした中小年金基金が陥っている危機の実相を、いち早く取り上げていた。日経新聞の調査などで判明した顧客企業の中には、特集で財政危機を指摘した年金基金も含まれている。どうして年金基金はAIJに資金を預けたのか。背景の理解に役立てるために、当時の記事を再掲する。
「高齢化」と「現役世代の人口減」が年金を維持する力を衰弱させ、「景気低迷」がさらに追い打ちをかける。年金制度の重要な担い手である企業が今、苦しんでいる。
例えば、国の厚生年金の資産の一部を借りて(代行して)、それに企業独自の上乗せ分をつけて運用し、定年後の従業員に給付する厚生年金基金。全国で608ある基金のほとんどは、中小企業が都道府県内などの業界単位で組織する総合型と呼ばれる基金だ。
その財政が今、極めて厳しくなっている。
受給者が加入者の2倍
運用でも穴埋め不可能
「もう手の打ちようがないよ。運用で損を取り戻そうとしても、今の市場環境でそんなことができるはずはない。加入者の保険料を引き上げて穴を埋めようと提案したところで、上げたら払えない企業が増えるばかり。もっと保険料収入が減ることになる。改善の手はないんだよ」
福岡県内のあるタクシー会社。伊田裕司社長(仮名)は精も根も尽き果てたように肩を落とした。
伊田社長が「打つ手はない」とうなだれるのは、福岡県内のタクシー会社で組織する福岡県乗用自動車厚生年金基金(会員企業197社)の財政再建のことだ。
福岡県乗用自動車厚年基金の積み立て状況は深刻だ。代行部分に対応する必要資産の54%しか保有していない(グラフ参照)。
厚年基金は前述のように、「公的年金(厚生年金)」に「独自給付部分」を乗せて運用・給付している。福岡県乗用自動車厚年基金のような基金は、独自給付部分の資産をすべて失い、さらに公的年金まで損失が食い込んだ状態と言える。
福岡県乗用自動車厚年基金だけではない。厚生労働省のまとめによると、2009年度末時点で約40%もの厚年基金が、代行部分の必要資産額の90%を下回っていた。
しかも、公的年金部分の資産は足りているものの、独自給付部分が必要額に足りていない基金を加えれば、その数は364(2009年度末)にもなる。実に6割の基金が、企業年金の給付に必要な資産を割り込んでいる。
厚労省は今年5月、厚生年金の代行部分に対応して維持、保有しておくべき年金資産額を2010年度まで3年連続して10%以上割り込んだ50基金(上の表)に対して、財政健全化計画の提出を要請した。今後5年間で必要水準を回復する方策を求めたのだ。ところが、9基金が出した健全化計画は「不十分だ」として“却下”された。福岡県乗用自動車厚年基金も却下された基金の1つだった。
年金基金の苦境は、日本の年金問題の縮図だ。
「ここまで年金財政が悪化したのは、ひとえに高齢化と運用の悪化のせい。我々もできるだけのことはしてきたのだが…」
同厚年基金の大楠眞悟・常務理事は、厚年基金が瀬戸際に追い込まれた原因をこう話す。
同基金の年金受給者数は今年5月末で約1万5000人に上る。誕生日がくれば受給が始まる待機者も約2000人いる。一方で実際に保険料を納付する加入者は約8100人だから、同基金は年金受給者が現役世代の2倍もいるという、典型的な逆ピラミッドの「超高齢化社会」になっているわけだ。
現役と受給者のバランスを金額面から見ると、同厚年基金の保険料収入額に対する年金給付額は、既に1995年度から100%を超えており、重圧は年を追って厳しくなるばかりだった。
だが、大楠常務はそこでもう一言継ぎ足した。「業況も厳しい」。
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