医薬品のネット販売存続を訴える楽天会長兼社長の三木谷浩史氏
(写真:都築雅人)
「おかしいやろ」――。
楽天の三木谷浩史社長の口から思わず関西弁が漏れてしまった。
2月24日、厚生労働省が入居する中央合同庁舎の9階。省議室で開かれた「第1回医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」、意訳すると「医薬品のネット販売を規制するか否か、もう1度、議論する出直し検討会」の場で、三木谷社長はまたしても吠えた。
昨年暮れ、本誌の取材で「これはアンシャンレジュームとの戦い。裁判でも何でもする。必ず崩す」と訴訟も辞さない徹底抗戦の構えを見せた三木谷社長。当初、楽天からは渉外を担当する警察庁出身の関聡司執行役員が検討会のメンバーに選出されていたが、自ら“参戦”の意思を決め、関執行役員に代わって乗り込んだ。
検討会にはNPO法人(特定非営利活動法人)日本オンラインドラッグ協会や楽天のスタッフと寝ずにまとめた「業界自主ルール案」を持参していた。それを紹介しようとすると、必ずほかの委員に発言を遮られてしまう。そのフラストレーションが、噴出した。
「薬剤村」vs「ネット村」の主張は平行線
既に各所で報道がなされているので、経緯については大幅に割愛するが、要は、このまま今年6月に改正薬事法が施行されると、「ルル」などの風邪薬や「バファリン」などの解熱鎮痛剤に加えて、胃腸薬、水虫薬といった一般用医薬品(大衆薬)の約65%をネットで販売できなくなってしまうことに、三木谷社長は腹を立てている。
対立の構図は、「薬剤村」vs「ネット村」。無論、薬剤村には、法令を作った厚労省も含まれる。
対立の中身も子細はほかに譲るが、要は、ビタミン剤などリスクの低いものを除く一般用医薬品は「対面販売が原則」であり、ネットも含めて通信販売に属するような販売方法は「副作用の危険性が高まる」というのが、薬剤村の主張だ。
ちなみに、ネット販売が禁止される医薬品には「妊娠検査薬」も含まれる。肌に触れない妊娠検査薬の使用にどんな副作用が生じるのか疑問だが、それも置いておく…。
対してネット村は、ネット販売を活用していた過疎地や離島などの住民、あるいは障害者など「弱者の権利を剥奪する」ものであり、正しい情報提供や安全性の担保は「技術が可能にする」と主張している。
これだけ大騒動になっているのだから、両者ともに理論武装を重ね、それなりに合理的な説明を有する。言い換えれば「安全性」vs「利便性」。主張の是非についても検討会に譲るとして、ここで論じたいのは、薬剤村の民間代表を隠れ蓑にし、議論にも表立って参加せず、だが背後で情勢を操る厚労省の姿勢である。
6月以降のネット販売は、行政処分の対象に
まず、今回の規制は、国会で決められたものではない。「省令」という、省の権限で公布できる法令の一種。厚労省が決めたものである。
厳密には、厚労省が「薬事法施行規則(昭和36年厚生省令第1号)」を改正し、今年2月6日に公布した新施行規則が、ネット販売を禁止している。直接的には、厚労省の判断で、国民生活や産業を左右する規制が生まれたのだ。
改正薬事法の新施行規則第159条の14に「第1類医薬品は、薬剤師、又はその管理下にある登録販売者か一般従事者が、薬局等で対面販売しなければならない」「第2類医薬品と第3類医薬品は、薬剤師や登録販売者、又はその管理下にある一般従事者が、対面販売しなければならない。ただし、第3類医薬品は通信販売も可」という旨の記述がある。
第1類医薬品から第3類の向きでリスクが低い。詳しい分類については、厚労省のホームページを参照されたい。
これをまとめた厚労省医薬食品局総務課によると、省令を無視して今年6月以降もネットで医薬品を販売した場合、「一義的には法律違反ではないので罰則はないが、法令違反として、各自治体による行政処分の対象となる」という。指導しても改善がない、つまり無視すると、「営業停止や許可取り消しに至ることもある」。
厚労省としては、言わば「法令違反なのだから当然」という姿勢だ。だが、現在の省令で規制するのは越権行為だ、という見方もある。
「施行規則の省令、違憲の可能性高い」と弁護士
日本オンラインドラッグ協会の顧問弁護士、阿部泰隆氏は、「改正薬事法には通信販売について何の規定もない。細かい部分は省令に委任することが認められているけれど、今回の省令は憲法に定められた国民の権利を大幅に制限するもの。委任の範囲を超え、違憲の可能性が高い」と指摘する。そして、こうも。
「規制したいのならちゃんと法律の条文として書くべきで、立法の手続きを経ずに規制しようとするのは、悪辣だ」。
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