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陰謀論にハマる人:ロマン優光連載175【2020年12月4日記事の再掲載】

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175回 陰謀論にハマる人

ある著名人が、全く彼と無関係な人々を、自分を監視し色々と妨害している秘密組織の一員と思い込んでいる様子が、自分のTwitterのタイムラインにRTで流れてきた。

これまでも似たような発言をネット上で繰り返してきた彼。

薬物による逮捕歴があることから、薬物使用を疑うような声や、薬物の後遺症ではないかという疑いの声もあがっているが、確認されたわけではないので何とも言えない。ただ、彼が精神医学用語としての妄想にとらわれてしまっているのは確かと思われる。

昔ならば彼のような状態の人は実生活の中で孤立し、世界に何の影響力を持たないまま、周囲や近隣の住人の監視の中で暮らしていくことになったと思う。しかし、SNSという簡単に世界に発信でき、双方向でコミュニケーションができるツールが発達している現代ではそういう訳にはいかない。彼の発言は多くの人々の目に触れ、様々なリアクションが起こることになる。

あからさまに病を患っている人が鳴り物入りで見世物状態にされることには当然問題がある。また、彼がエゴサーチで自分に対する無遠慮で否定的な感想を見れば見るほど、「敵はやはり存在する」と妄想は強化されてしまうだろう。また、彼が著名人であるために考えなしでその発言を肯定しているかのようなリプを送ってしまうファンもいるし、逆に彼の発言の異常性を心配して諌めようとリプを送るファンもいる。ただ、どちらも彼の妄想をより強固にするだけだろう。肯定されれば自分は正しかったと考えるし、否定されれば敵による妨害と考えるからだ。面白がってわざと煽り、反応を楽しむ人間もいるだろう。彼の発言が広まることで彼と似たような状態にあった人が触発されて、自分の妄想を強化してしまうこともあるだろう。

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彼のツイートをRTで広げることで、彼がどういう状態にあるのかが周知されるようになり、不意に絡まれても動揺せずにすんだり、絡まれる被害者が減る可能性があると言われれば否定はできない。しかし悪意の有る無しに関わらず、考え無しに不用意な呟きをしたり、変な絡み方をしてしまう人も増えてしまうわけで、あまり良いことではないように個人的には感じる。

ネット上で彼と接触する場合、肯定も否定も無視もどれも正解ではなく、はっきり言って、どうしてあげようもない。現実で精神科医がやるように、肯定も否定もせず話をただ聞いてあげるのは、文字で成り立ってるTwitterでは不可能だ。なんらかのリアクションを言葉で取らざるを得ないし、具体的なことを言わず「それは大変でしたね」みたいなことを言って対応するのは直接話すなら有効なやり方でも、文章だとバカにしてるようにもとらわれかねない。規約に反するようなことを書かなければ、だれも彼のツイートを止めることはできない。周囲の親しい人間が彼に適切な治療を受けるようにさせる以外の方法で状況が良くなりはしないだろう。ネット上で彼と出会う人間は、彼の妄想を悪化させることは出来ても、状況を好転させることはできないのだ。

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話は変わるが、陰謀論の大元になるような情報を発信しているタイプにはどのような人間がいるのだろう?

精神科医学的な意味での妄想ゆえにそのような「物語」を発信する人間もいるとは思う。しかしどちらかといえば意図的にそういう「物語」を捏造して発信する人間の方が多い。その中には、病人の真似をして悪ふざけをしている人間もいれば、何らかの利益を誘導するためにやってる人間もいる。そして実際に広がりやすいのは、そういう意図的に「物語」を捏造している人たちの創ったものの方だ。病から生まれた「物語」より、捏造された「物語」の方が大勢が共有しやすいということだと思う。

病から生まれた「物語」は他者が入り込みにくい。「陰謀」も妄想も、現実の断片から「物語」を作り出している点では同じだが、現実の断片を様々な方法で彼の信じる「真実」が出てくるまで弄り続けたり、何を見てもその「真実」しか出てこないような状態では、「真実」が出てくるまでの過程が理解し難すぎる。

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