2月19日、一般社団法人日本芸能従事者協会が主催する勉強会「どうする?フリーランス新法 ①:芸能従事者向け勉強会[初心者編]」が開催された。
この会は、2024年秋から施行予定の「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)」に向けて、フリーランスが多い映像業界や芸能関係者向けに、事業者とフリーランスの取引にどんな変化が生じ、気を付けるべき点かをわかりやすく解説するものだ。対象として想定しているのは、発注者となる事業者側と受注者となる俳優・声優や演奏家などのパフォーマーから現場のあらゆるスタッフなど多岐にわたる。
初心者編の今回は、公正取引委員会と厚生労働省の担当者がフリーランス法の基本的な概要を解説してくれた。
フリーランス法成立の背景
登壇したのは、公正取引委員会の事務総局経済取引局取引部取引企画課上席・武田雅弘氏と、厚生労働省の雇用環境均等局総務課雇用環境政策室室長補佐の尾崎拓洋氏。
この法律が成立した目的は、日本社会の働き方が多様化しフリーランスが増えている中、弱い立場に置かれがちな個人のフリーランスと組織の関係に着目し、安心して働ける環境を整備するためだという。
新法は主として2つの柱があるという。「取引の適正化」と「就業環境の整備」だ。このうち前者は公取・中小企業庁が、後者は厚労省の管轄となる。
フリーランス法が対象とするのは、以下の3つだ。
1:フリーランス…特定受託事業者
2:発注事業者①…特定業務委託事業者
3:発注事業者②…業務委託事業者
1は個人事業主か法人かに関係なく、個人を対象とする。つまり、いわゆる「法人成り」の個人も対象となる。逆に個人事業主で従業員を雇っている者は対象外だ。
発注事業者には2種類あって「特定業務委託事業者」はフリーランスに業務委託し、従業員を使用している者、「業務委託事業者」は従業員の有無は関係なくフリーランスに業務委託する者を指す。フリーランスがフリーランスに業務を発注する場合は3のケースに該当する。そして、法律の対象となる取引は事業者からフリーランスへの委託「B to B」の取引のみとなるとのこと。
契約内容の明示と支払期日が義務化
まず、公取の武田氏が「取引の適正化」について解説してくれた。フリーランス法における取引の適正化には2つの義務と、7つの遵守事項があるという。
2つの義務は、「取引条件の明示義務」と「期日における報酬支払義務」だ。
取引条件の明示義務は、業務委託をした場合、書面又は電磁的方法により明示することを定めている。明示内容は、給付の内容、報酬の額、支払期日、その他の事項について、直ちに明示せねばならない。 また、正当な理由があってすぐに明示できない場合は、その限りではないとのこと。
明示方法は紙の書面かメールなどで行うが、仮に紙の書類を求められたら発注者はそれに応じる必要がある。
2つ目の「期日における報酬支払義務」は、原則として60日以内の報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払うことを義務付けている。再委託の場合は、一定の条件を満たせば、元委託の支払期日から起算して30日以内と定めることも可能となる。
映像業界において契約書が交付されないという話はよく聞かれるが、今後は法的に義務化されると考えた方が良いだろう。また支払いの遅れのトラブルもよく聞かれるが、この法律によって支払い期日が明確化されることになる。これは映像業界にとって大きな変化となるだろう。
そして、7つの遵守事項は以下となる。
フリーランスに対するハラスメント対策も義務化
次に厚労省の尾崎氏から「就業環境の整備」について解説があった。こちらは4つの義務が発注者に課せられる。「募集情報の的確表示義務」、「ハラスメント対策に係る体制整備義務」、「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」、「中途解除等の事前予告・理由開示義務」だ。
「募集情報の的確表示義務」は、仕事の募集情報に虚偽や誤解を生む表現をしてはならないというシンプルなものだ。これの違反となる例は、意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示したり、実際に業務する企業と別の企業名で募集したりすることや、報酬額の一例に過ぎないのにその旨を表示しない場合などだ。逆に、当事者の合意に基づき取引条件を変更することは違反とならない。
「ハラスメント対策に係る体制整備義務」は、ハラスメントによってフリーランスが不利益を被らないように体制を整備する義務を定めている。具体的には3つの体制整備が想定されている。
・研修会の実施や社内報の配布などで、ハラスメントを行ってはいけない方針の周知・啓発
・相談窓口や担当相談者の設置
・ハラスメントが発生した場合に迅速かつ適切な対応
これらの義務規定は、雇用者に対する企業のハラスメント対策と同様のツールを、フリーランスも使えるようにすることを想定しているとのこと。つまり、フリーランスも普通の従業員と同じハラスメント対策の保護下に置かねばならないということだ。
その他、「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」は、フリーランスの妊娠・出産・育児や介護をしながら業務を両立できるように、必要な配慮を「可能な範囲で」するというもの。「中途解除等の事前予告・理由開示義務」は、業務委託と途中で打ち切る場合は、30日前までには予告しなければならないとし、中途解除や不更新の理由の開示請求にも応じなければならないと定めている。一方的な通告でいきなりクビにはできず、明確に理由を提示する必要があるということだ。
最後に、本法の施行後、実際に違反と思われる事態に遭遇した場合は、「フリーランス・トラブル110番」に相談か、直接公取・中企庁・厚労省に申告してほしいとのこと。フリーランス・トラブル110番は、現在もフリーランスの取引に関するトラブルについて、個別に相談に応じているが、本法の施行後には、相談のほか、必要に応じて申告の案内も行ってくれる。
また、公正取引委員会ウェブサイト「フリーランスの取引適正化」ウェブサイトでは、フリーランス法に関する情報を随時発信しているので参考にしてほしい。