Bookeater's Journal

洋書の読書感想文

" The Breast " Philip Roth

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*へ〜んしん!*

夏休みに大阪に行って大阪大学国語学部の図書館で涼をとった…と"How to Kidnap the Rich"という本の感想に書いたが、その時出会ったもう1冊がこれ。私が見つけたのは日本語版でタイトルは「乳房になった男」。!?!!だ。

作家はアメリカ人のフィリップ・ロス。昔「さようならコロンバス」という彼のデビュー作を日本語で読んでかなり好きだった記憶がある。「Goodbye Columbus」というのは、実際にある歌のタイトルで、その後「 Cafe Apres-midi Roux」というコンピーレションアルバムにその曲が入ってるのを見つけて思わず買ってしまい、歌ったりしてみたのだった。

はい、誰とも話が合わない変わり者ですね…。

こんな売れそうにない(失礼!?)本を翻訳した人も出版した会社もほんとすごいなーと思う。

誰が読むんかい!?と思いつつ、早速Amazonで購入した次第です。

カバーがピンクでかわいい。

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フィリップ・ロスピューリッツァー賞を受賞したこともある現代アメリカを代表する作家らしいのだけれど。2018年没。ウィキペディアによると、ソウル・ベローとも知り合いで、「ベローに会わなければ作家にはなっていたかわからない」と言っていたそうだ。ベローファンの先輩に報告しなければ。

英文学教授のデビッド・ケペシュはある朝目が覚めると155ポンド(約70kg)の人間の女性の乳房になっていた。

お察しの通り、これはカフカの「変身」のパロディなのだが、この場合変身したのは虫ではなく人体の一部なのだった。

このブログを初めて間もない頃、イアン・マキューアンの「The Cockroach」という本について書いた。それも「変身」の話だったけど、「とりかえばや物語」のように人間とゴキブリの位置関係に工夫があって、その点が斬新だった。

今回の作品はそもそもの変身した物体自体がとてつもなく奇抜だ。

第一に、乳房というのは通常2つ1組である。

第2に、それは独立した物体としては存在しない。人間の体の1部である。

大きな目玉おやじみたいな感じかな。でも、目玉おやじと違う点は、手も足もなく自分で動くこともままならない、自分ではお風呂にも入れないというところ。視界も狭く、話し声もくぐもっている。

気づいた時には病院に運び込まれ、ハンモックに寝かされていた。

ハンモックに入れられた球体の乳房のおじさん。想像してみてください。

冒頭のの数行が好きだったので紹介したい。

It began oddly. But could it have begun otherwise, however it began? It has been said, of course, that everything under the sun begins oddly and ends oddly, and is odd. A perfect rose is "odd," so is an imperfect rose, so is the ordinary rosy good looks growing in your neighbor's garden. I know about the perspective from which all that exists appears awesome and mysterious.

それは奇妙に始まった。しかし、それがどのように始まったとしても、他の始まり方があっただろうか? もちろん、太陽の下にあるすべてのものは奇妙に始まり、奇妙に終わり、奇妙であると言われている。完璧なバラは「奇妙」であり、不完全なバラも、隣人の庭で育つ普通に美しいバラもそうだ。存在するすべてのものが素晴らしく神秘的に見えるという物の見方を私は知っている。

 

その後、変身する前の主人公の下半身に起こった変化について長々と述べられる…はは。「もういいよ。そんなに知りたい訳でもないし。」と言いたくなるほど詳細。おそらく一生使う機会のなさそうな身体の部位の名称などを学べた。

本書によると、1971年の2月18日午前0時から4時にかけて、変身は起こったという。日時がいやにはっきりと特定されている。作家というのはどうやってこういう細かい日時を設定するのかな。ダーツとか?

主人公は学者だし、本人にとってはかなり深刻な問題だろうから、真剣なわけだけれども、真面目になればなるほど笑えてくる。

例えば、ゴードン医師と主人公の会話。

Two fine long reddish hairs extend from one of the small elevations on the rim of my aerola. "How long are they?

"Seven inches exactly."

"My antnnae."

"Will you pull one, please?"

"If you like, David, I'll pull very gently."

乳輪の縁にある小さな突起の 1 つから、細く長い赤みがかった毛が 2 本伸びている。

「長さはどれくらい?」

「きっかり7インチ。(約18cm)」

「私のアンテナだ。」

「1本引っぱってくれませんか?」

「そうして欲しいなら、デイビッド、そうっと引っぱってみよう。」

 

ふざけてる?

この医者と患者の会話がおもろい。乳房氏は医者には何でも打ち明ける。動けない患者にとって考える時間はいくらでもあり、考えすぎてだんだんと会話は哲学問答のようになっていく。

全部で88ページの本の半ばまでは、ただ可笑しくてニヤニヤしながら読んでいた。でも、だんだん主人公が可哀想になってきたのだった。

世界とは多かれ少なかれ不条理なものなのではないだろうか。

ちょうどその時私はたちの悪い風邪をひいてしまい、3日間声が出なかった。全ての予定をキャンセルして、家に籠るしかない。

結果としていつもより内省的となり、主人公に同情し始めた。この前読んだ本の中のハリウッド女優よりも、この本の中の乳房になった男に共感できるのだった。

彼としてはもう気が狂ってしまいたい。でも、できないんです、と医者に訴える。医者はそれは男が「生きるという強い意志」を持っているからだという。男はそうじゃない。右足を出したら左足を出してしまう、それだけなんだ、と。

To be putting one foot in front of the other is maddness―especially as I have no feet!

片足をもう一方の足の前に出すなんて狂気の沙汰だー特に私には足がないのに!

 

可笑しくて哀しい。

その後、主人公の思考は迷走を極めて、最後はよくわからんけど楽観的な感じでかっこよくリルケの詩の引用で幕を閉じる。

ん?と思って最後の10ページくらい2回読んでみたけど、ちょっと私にはよくわからない。文学なのかな?

おまけに、これを書いたあと、この作家は同じ人物を主人公にして2冊の小説を書いていて、その中ではケペシュ教授は人間の形をしている模様。

全てが壮大なジョークなのだろうか?

大人のためのナンセンス童話?

そんな軽い気持ちで読むといいと思う。

楽しかったです。

短い小説なので、何かバカバカしいものが読みたい方、または長〜い小説(「戦争と平和」とか?)を読んでて、途中で息抜きしたい方におすすめします。

明日の朝起きても、人間だよね?

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"Seven Husbands of Evelyn Hugo" Taylor Jenkins Reid

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*形容詞を冠する*

友達が「耳の下をげんこつでぐりぐりするとリンパの流れが良くなり顔のむくみがとれるよ。」と教えてくれたので、やたらとぐりぐりしている。痛い。もし、あなたが街中で耳の下をぐりぐりしている人を見かけたら、それは私かもしれません。今のところ顔に変化はない。騙されてる!?

その友達は娘さんから得た情報だと言っていた。盲目的に人の言うことを信じるのはよくないあるね。裏をとるある。

こういう人間が陰謀論に騙されるんだな。それは私だけれど。

さて、図書館にブックハントに出かけた。自転車なので、ぐりぐりはできない。手放し運転は危険だ。

それで、1年ほど前から読みたいと思ってたこの本を見つけて、ぐわしと掴んで借りてきた次第です。

ハリウッド女優とその歴代の7人の夫に関する物語。すごいな。7回結婚……可能か!?フィクションだけど。この本を読む人の多くは女性かと思われる。女性っぽいタイトル。女性っぽい物語。作者も女性。ドレスにパーティにアカデミー賞の授賞式…。華やかだ。

こんな本を選んだのは、前回読んだコーマック・マッカーシーがかなり男性的な灰色の話だったので、その反動かもしれない。無意識にバランスをとろうとしているのだろうか。

引退した有名なハリウッド女優からいきなり指名を受けて伝記を書くことになった女性ジャーナリストが、元女優の家にインタビューに通う。なぜ彼女が選ばれたのか?7人の中で女優が最も愛したのは誰だったのか?ジャーナリストの人生と女優の人生が交差しながら語られる。最後に全てが明らかになる。エンターテイメントだから、ある程度納得出来る終わり方だった。

はぁー、でも疲れるわ。さすがに。7回も結婚すると。人間関係複雑すぎて。おまけに実際には8回と言えなくもない。フィクションだけど。読んだだけで疲れるようじゃハリウッド女優になれないぞーと一応自分に無駄な喝を入れておいた。

各パートが形容詞を冠した夫たちの名前のタイトルを持ち、時系列に話が進む。

1人目  POOR ERNIE DIAZ

2人目  GODDAMN DON ADLER

3人目  GULLIBLE MICK RIVA

4人目  CLEVER REX NORTH

5人目  BRILLIANT, KINDHEARTED, TORTURD 

           HARRY CAMERON

6人目  DISAPPOINTING MAX GIRARD

7人目  AGREEABLE ROBERT JACKSON

見やすいように形容詞にアンダーラインを入れています。

これで7人。それと、結婚したり離婚したりスキャンダルを起こした時は、その事が書かれた新聞記事もある。楽しい趣向。

夫達につけられた形容詞の数々。残念な形容詞も素敵な形容詞もある。形容詞、数限りなくある訳だが、こんな風に自分に形容詞をつけるとしたら、どんなものがピッタリくるかなと考えてみる。

Hopelessly Optimistic, Miserably Positive, Frequently Absent-minded……副詞+形容詞という形が好きだ。言葉の渦に巻かれる。ぐるぐる。ぐるぐるしている場合ではない?もっといい形容詞を自分に与えられるようにがんばるべき?

自分にふさわしい形容詞探し、やってみたい方はどうぞ。冬の夜長にふさわしい遊びです!?

最初はスポンジが水を吸うように楽しく読んでいたのだが、後半少し疲れたのは、たぶんユーモアが欠けていたからじゃなかろうか。笑える場面はひとつもなかった。そういう意味ではすごく真面目な小説と言える。

フィクションだけど、1950年代から1980年代の時代の空気が上手く取り入れられている。本当にこんな女優さんが存在していたかのようだ。

LGBTQもこの作品のテーマのひとつだと思う。ゲイの登場人物が 1969年のThe Stonewall Riot(ストーンウォールの反乱)の行進に行こうか迷っていたりする場面もあり、歴史の勉強になった。

既にNetflixで映画化も決定しているようです。

日本語で読みたい方には翻訳もあります。タイトルは「女優エヴリンの7人の夫」ということです。

今度は笑える本が読みたいな。

というわけで、brilliantな週末をお過ごしください。

 

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"The Road" Cormac McCarthy

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*ご試着なさいますか?*

はぁ。やっとこさ読み終わった…というのが今回の正直な感想です。

この本はオンライン英会話の先生が薦めてくれた。関西に住むアメリカ人の人でこの作家が大好きだと言う。私が悲しい話は好きじゃないと言うと、Cormac McCarthyの本はどれも暗くて薦められないけど、これは最後に希望があるから読んでみたら?読んだら意見交換しようと言われた。

その人はこの本を7~8回は読んでて、読む度新たな発見があるとのこと。

そんな読書会の話、断るわけないよな~。本の話に飢えてるもん。

それで早速読み始めたのだが、難航する。

舞台はいつかわからないが未来のアメリカ。核戦争か何か原因は不明だが、地球は焼け野原になっている。その灰の中を父と息子がひたすら旅をする。廃屋で残された僅かな食料を探しては安全な場所を見つけて野宿する。時折人間に出会うが、皆野蛮な暴徒となっているので、銃で脅したりして逃げる。残された銃弾はあと二発…。

とにかくその旅の生活の一部始終が細かく描写される。常に死と隣り合わせの希望のない旅なのだが、父は息子にはいつも「Okay」と言う。自分に言い聞かせるように「Okay」と言う。したがってこの小説の中で最も多用されている言葉はokayなんじゃないかと思う。

英語を話している時、油断してるとOK連発してて、いかんなと思う時あるけど、意外といいのかな。OKって言う時はあまりOKでもない時なのかもしれないっすね…。またはどうでもいい時か…。便利な言葉すぎる。

どんな災難がふりかかって来るのかと思うと怖くて読む気にならず、渋々読み始める。でも、読み始めるとすらすらと一気に20ページくらい読める、というのがこの本の不思議なところだった。

まず文体がシンプル。一文は長くてコンマなどがない。短いパラグラフに別れている。章もない。それから、wasn'tやisn't などの否定に使われるアポストロフィが全て省かれていて、wasntやisntと書かれている。これはこの作家の特徴だそうです。実際なくても全然困らなかったんだよねー、アポストロフィ。もしかしたら将来英語はこういう形に進化していくのかもしれないと思った。

男だ女だとか年齢だとかあんまり言いたくないけど、読書活動は読者の性別、経験、趣味嗜好などのバックグラウンドと切っても切り離せないのではないかと思う。だから、私にとってこの本は身体に全然合ってない好きでもない服を着ている時のようだったが、試着してみて改めて自分に似合う服がわかるというのはある。

この本が好きな人はたぶん

①男性または男性的な人

②息子がいる人

③お父さん

④ハードボイルドが好きな人

⑤「ロビンソン・クルーソー」「宝島」「15少年漂流記」などが好きな、または好きだった人

ヘミングウェイが好きな人

⑦サバイバルが好きな人

⑧キャンプが好きな人

などの可能性が考えられる。私はどれも該当しない。

感情移入していないので、涙も出ない。

この本を紹介してくれた人は泣いたって言っていたけど、どこで泣いたのかな?

そういう事ってままある。

悪い人間達が出てくる。人を殺して略奪して生き延びようとしている人達。父親は子供を守るため、時に悪者を殺さなければならない。子供はそれを嫌がる。父親は自分達はいい人間だから、むやみに人を殺したりしないと言うんだけど。

「This is what the good guys do. They keep trying. The dont give up.」

こういう善と悪みたいな考え方って私にはあまりしっくりこない。ディズニー映画を見ても、そこんところがひっかかる。それはアメリカンな考え方なのか?西洋的なのか?

世の中はそんなにに善悪がはっきりしてなくてもっと複雑だ。悪者の中にも良い部分が、善人の中にも悪い部分がある、人は善と悪のマーブル模様なのではないかと思う。限りなく黒に近いマーブルもあればほとんど白にしか見えないマーブルもあるだろう。もしかしたら、そういう考え方は東洋的なのかもしれない。日本的なのか?

最後に希望があるからと思いながら読んでいた。繰り返される同じような生活。それは何故か私に「ボレロ」のメロディを想起させた。たーりらりらたったららー♪りろらろりらろー♪たりれりらろらろー♪

微妙に音を変えながら終末へと向かう。総ページ数307ページ。290ページ目くらいから、ん?まだかい?まだかい?まだなんかーい!待って待って待たされて、最後の数ページで唐突に変化があり、終了。希望があるにはあるけど、ちょっとわからない結末だった。

「The Road、お前もか…。」最近納得出来るエンディングは文学ではない?と思い始めているので、めでたく文学認定。ちなみに Cormac McCarthyはピューリッツァー賞を受賞しているそうです。

読んだ後、本の感想を報告すると、「なかなか面白い考察だ。その考察を踏まえて、もう一度読んでみる。」と曰われた。まじか。私はもうたぶん二度と読まないけど。そんなに好きな小説があるっていいなー。少し羨ましく思ったのでした。

2010年に映画化もされています。私は…見ないな。映像化にはちょっと耐える自信がない。

次は自分に合った服を来て自分の好きな本を読みたいと思います。

 

*後日記*

一部の読者より「あなたは②に該当するんじゃないですか?」というご指摘をうけた。私には息子がいるのだった!忘れていた訳ではない、と思う。

ということで、訂正お詫び致します。

言い訳するようだが、父親と母親の息子に対する感覚はかなり違うかもしれない。どう違うかはこれから考えたいと思います。

"The Theft" Saul Bellow

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*使えない単語*

ニューヨークからインドへ行って、またニューヨークへ帰ってきました。もちろん、本の中で。ニューヨークには行ったことがないし、もし行ったら緊張のあまり右手と左手同時に出して歩行してしまいそうだ。都会にびびる。

この本は、Saul Bellow ファンの職場の先輩にお借りした2冊目です。

まず、何がいいかと言うと、ページ数がかわいい。109ページ。やる気が出る。大作に挑みたいけど、あまり読むのが速くないので、900ページとか言われると…1年に1冊か2冊なら読めるかなー?

子供の時はお小遣いを貯めて文庫本を購入していた。当時の私のお小遣いは月200円。今はペットボトルの飲み物くらいしか買えないけど、当時は新潮文庫の「坊ちゃん」とか薄っぺらーい(物理的にですよ)本なら180円くらいで買えた。薄い本はお財布にも環境にもやさしいです。

今調べたところ、新潮文庫「坊ちゃん」現在価格341円、意外と安い。偉い。

あ、でも、今はブックオフとかでなら、200円でも1冊買えるんだ…。

1回目にお借りした「Seize the Day」と比べると、このお話は女性が主人公なので読みやすい…はずなのだが、文章が簡単なようで難しく、各章を2回ずつ読んだ。同じ文を何度も読んだ。

もぐもぐかみかみ。小さな器に入ってるなと思ったらきんぴらごぼうだった…みたいな感じ。

さて、主人公の名前はClara Verdeという。Veldeって今気づいたけど「緑」って意味だな…。ニューヨークのファッションジャーナリストでエグゼクティブ…わっほいな設定だ。とにかくキャラが濃い。物語は彼女の人物像から始まっている。

「Clara Velde, to begin with what was conspicuous about her, had short blond hair, fashionably cut, growing upon a head unusually big. In a person of an inert character a head of such size might have seemed a deformity; in Clara, because she had so much personal force, it came across as ruggedly handsome.」

「クララ・ヴェルデ、彼女の特徴的なところは、まず第一に、流行の髪型にカットされた短いブロンドの髪が、異常に大きな頭の上に生えていることだった。無気力な性格の人であれば、そのくらい大きな頭は欠陥に見えたかもしれないが、クララの場合は、非常に人間的な力強さがあったため、それがたくましく美しく見えた。」

 

ほんとかい?特筆するほど頭の大きな女が主役の話って初めて読んだかも。独創的で引き込まれる。

クララは現在4度目の結婚中で子供も3人いるのだが、彼女が本当にずっと心の底から愛しているのは4人の夫の誰でもなく、4度の結婚前に付き合っていた元彼。名前はイティエルという。彼の方も3度結婚していて、いつも間違った相手を選ぶ(クララ談)。ワシントン在住。本人がその気になれば政府の要職にもつけたと言われるほど有能な人物&ハンサム。今はTVに出たりしている。

2人は現在も連絡を取り合う友達みたいな関係。

そしてクララが何よりも大切にしているのが、この永遠の心の彼氏に貰ったエメラルドのエンゲージリング。それがなくなったり盗まれたりする。その出来事を取り巻く物語。

エンゲージリングって返さんでいいんかい?とそもそも思う。と言ってしまえば元も子もないのだけれど。

明らかにこの指輪がこの2人の関係を象徴している存在として描かれていて、シンボリズムや比喩が大好きな私としては、いろいろ考えて楽しめた。

例えば、どうしてダイアモンドじゃなくてエメラルドなの?とか、エメラルドの緑の色は何かを象徴してる?とかそういうどうでもいいようなことを考えるのが好きだ。

なんだか設定といい人間関係といい、ロマンス小説を読んでいるようで、良い意味で俗っぽくてワクワクした。

私の行く図書館の洋書コーナーの棚にはダニエル・スティールの本がずらりと並んでいる。それはそれでまぁ、いい。多分図書館の人が好きなのかなと思うし。俗っぽい本には俗っぽい本の味わいがあり、ハーレクィーンや少女小説にも芸術的なほど面白い物語がある。ただ、同じような話を読んでると飽きて来ない?そういう時、こんな本を読むと変わってて刺激になっていいんじゃないかなと思いながら読んでいた。俗っぽくて奇妙で深い。

そして、この主人公の言語感覚というか作家の言語感覚なんだろうけど、彼女が語る時、クララ語とでも呼びたくなるような個性的で変な言葉がたくさん登場する。

その一部を紹介します。

Gogmagogsville····ニューヨークのこと

Gogmagogは昔イングランドに住んでいた巨人の名前の様です。ニューヨークは悪い人でいっぱいだと言いたいのでは?

I was carrying too much of an electrical charge.

イティエルと付き合っていた時の自分を振り返って述べた言葉。何となくわかる。

bamboozle····だます

uglitude····ugly+attitude(造語)

that woman is about as human as a toilet plunger!

あの女はトイレのラバーカップと同じくらい人間的だわ!(イティエルを捨てた妻を評して)

以上、あまり使う機会がなさそうな言葉コレクションでした。使えたら使ってみてください。特に最後の一文はいいなー。

というわけで楽しく読んだが、最後にあれれ?となる。ロマンス小説みたいなハッピーエンドにはならないとわかってはいたものの、予想以上に理解出来ない終わり方だった。どうすりゃあいいんだこの不完全燃焼な気持ち。

文学的ってそーゆーこと?

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"How to Kidnap the Rich" Rahul Raina

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*印度を旅する*

夏休み大阪に行った。激暑の大阪で、大阪大学国語学部の図書館で一休み。箕面市船場図書館と一体化していて、一般の人でも入れる。新しくておしゃれ。こんな図書館近くにあったらいいなー。住みたいくらいだ。

それで、本棚を熟読していたら、この本の日本語版を見つけた。邦題は「ガラムマサラ!」インド人が書いた本だからガラムマサラ?日本人が歌ったから「Sukiyaki」みたいな大雑把さであるが、インパクトはある。

調べたら映画化の話もあるそうで、帯には「RRRの次はこれ!?」などと書いてあった。

読んでみようと思ったのは、ちょうどインドについて知りたいと思っていたところだったからだ。

きっかけは、最近インドの総選挙が投票して結果がわかるまで1ヶ月くらいかかると聞いた事。

このデジタル時代に?IT の天才が沢山住んでいそうなインドで?

日本の選挙は当日に結果がわかる。それが普通だと思っていた。

多様な民族、多様な言語、広い国土、世界最多14億人!の人口、インフラの不整備…など理由はいろいろあるんだろうが、もう規格外な感じだ。

それと、最近時々在宅の仕事をしているのだが、私に連絡をくれるのがインド人のKumarさん。

インドと日本の時差は3時間半。インドの人々の仕事がノリにノってきた頃…午後5時くらいに携帯が「リロロン」と鳴って「おまえ、今日働けるか?」と聞かれる。「そんなん、もう今日は終わりかけとるんじゃー!」とツッコミを入れたいところだが、そうすると仕事がもらえないので、「はい、大丈夫っす。」と答えるのであった。(会話部分はイメージ)

でも、どんなアホみたいな質問をしても、親切に答えてくれるし、「締切絶対間に合いません。」とか言っても「まぁがんばれ。」みたいな感じで怒らない仏のようなお方です。インドだけに?

この小説の主人公もRamesh Kumarという人物だ。

他のところでもちょくちょくKumarという名前を見かける。それで、Kumar という名前は鈴木さんのような、よくある苗字なのかと思い、インドの人に聞いてみた。すると、意外な答えが返ってきた。Kumarは苗字ではなくて「息子」という意味の言葉なのだそうです。カースト制度の残るインドでは、苗字を聞けば誰でもその人がどのカーストに属するかわかるから、自分のカーストを知られたくない人はKumarを使う。逆に高貴な苗字を自慢に思っている人は自分の苗字を使い、名前の後ろにKumarを入れたりすることもあるそう。

うーん、全く奥が深い…。

本を一冊読んだくらいじゃ、何もわからないかもしれないけど、とりあえず読んでみました。

これ、コメディってことになってるけど、結構悲しい。語り口は一貫して達観的にコミカル。

主人公Rameshは観光地の露天でチャイを売る父親に育てられる。カーストでは中の下に属するらしい。職業を変えることは基本できないことになっているので、将来は父親のようなチャイ売りになるしかなかった。この父親がろくでなしで、主人公を児童就労させ虐待している。

そんなある日、ある人物が現れ、Rameshは勉強を教えてもらうことに。階級の壁を乗り越えるため必死に勉強する。全国統一学力テストでいい成績を取れば大学に行く奨学金が貰えるのだ。

彼の学力は向上するのだけれど、いろいろあって、物語が始まる時点では、金持ちの子息のために身代わり受験をするというビジネスで生活する状況に陥っている。もう、ちょっと受験生には見えない年齢になっているのだが、かつらを被ったりして奮闘している。

そんなのバレるだろ!?と思うのだがチェックも適当だったり、賄賂を渡したりしすれば大丈夫だったりする。

ほんとかな…。

試験監督のアルバイトをしているが、かなりチェック厳しい。日本ではないかもしれないけど、外国ではメガネの中に小型カメラを搭載して撮影してたりして、もはや007的なことになってるらしい。

手段を選ばなければ、学歴もお金で買えるのか?でも、後でバレない?学力や知性は買えない。

とにかく、その後のストーリーは誘拐したりされたり、逃走したりされたりのドタバタハチャメチャな感じだった。英語に時折混じるヒンズー語も混乱させる。その点では、ボリウッド映画化されるのも頷けないではない。

で、最後はハッピーエンドかと思いきや、アンハッピーではないけどやね、みたいな終わり方で。

良くも悪くもインドという国は予想を裏切り続けるなーと思った。そして、いいもの悪いもの、美しいものそうでないもの悲しみや喜びも入り混じる混沌的ごった煮ワールド。

結果として、何もわからなかった訳だが、わからないということがわかった。

どこにも行く予定がないから読書で旅をする。

涼しくなってきてうれしい読書の秋、皆さんも表紙の向こうのどこかへ出かけてみませんか?

 

 

 

 

 

" Leap Year : a novel " Peter Cameron

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*恋愛にたとえる*

この小説は片思いの相手みたいな感じで、「2回振られて今はSNSでフォローしてます。」といったところかと思う。相当やばいな。人間でなくてよかった。

そもそもの出会いは、数年前、この作家ピーター・キャメロンの「最終目的地」(英語のタイトルは"The City of Your Final Destination")という日本語の本を図書館で借りて読んだことだった。そんなに劇的なことが起こる訳でもないのに読むのがやめられない不思議な魅力があり、一気読み。映画化されているのを知り、映画も見た。

それで、ん?この名前なんか見覚えあるなーと思ったら、随分前に同じ作家のデビュー短編集「ママがプールを洗う日」を読んでいた。文庫だったけどおしゃれな装丁で、読んだ人たくさんいるんじゃないのかな?相当好きな本だった。

さて、それから数十年の間、この作家はずーっと書いてきて、今こんなにいい小説を書いてるのかと思った。私もいろいろあったから、この人もいろいろあっただろうな。何も知らないけど。何も知らないから、その間どんな小説を書いたのか読んでみたいと思った。

で、彼が「ママがプールを洗う日」(原題: "One Way or Another")の後に書いた、著者初の長編小説がこの"Leap Year: a novel"です。

a novelってつけるの、慎ましい感じでいいな。

しかしながら、英語で読みたいと思ったこの"Leap Year: a novel"ですが、絶版になってて、新品は販売していない。それで、Amazon経由でアメリカから古本を買うことに。それが発送されたものの届かず、返金してもらう。1度目の失恋(?)。

その後、図書館で翻訳を見つけて(邦題「うるう年の恋人たち」)日本語で読んだ。おもしろかった。英語で読んだらどんな感じ?

諦めきれず、また今年の夏、Amazon経由で古本を購入、発送されるも届かず、再び返金。2度目。

残念無念。これは縁がないってことなのかなと思いつつ、未練がましく検索していたところ、なんとオンラインの無料アーカイブ図書館で借りて読めるらしい。

最近"The Initiate"という小説を読んだ時使ったサイトだった。あの本は著作権が切れてたから、読み放題だったが、今回はログインして貸出しないといけないし、貸出も1時間だって…面倒臭いな。

でも読みたい気持ちが勝って読むことにしたという訳です。

相当執念深い物語を長々とおきかせしてすみません。語らずにはいられない、それが恋バナ!?

大学の時の先輩で、全ての話を恋愛に例えて語る人がいた。「おれと君が付き合ってたとするじゃん?」付き合ってませんけど…。別にその人は私に気があったとかいうんでもなく、女子全員に対してそんな感じなのだった。もしかしたら男子にもそんな感じだったのかもしれないがそれは未確認。

先輩…お元気でしょうか…?

で、結論として読んでよかった。ほんとよかった。

1時間貸出でもやってみたら全然めんどくなかった。何度でも借りれるし、私はあまりAI朗読好きじゃないから聞かなかったけど、音声でも聞けます。

ニューヨーク人間模様みたいな感じかな。ある離婚したカップルを中心とした人々の群像劇で、至る所に設置されたカメラで撮ったスナップ写真が次々と映し出されるのを見ているような気がした。監視カメラじゃないですよ。ニコンとかPENTAXのカメラ。1980年代のニューヨークの雰囲気が何となく伝わります。ニューヨークに住む彼らは大きな家族のように、みんな何かしらどこかでつながっている。

淡々としてるけど、時々じんわりと心に響く場面がある。だけど押し付けがましくなくて、しゃれてて素敵だなー。うっとり。

ところどころにかわいいユーモアもあって。例えば、ある登場人物の飼い猫の名前はMs.Mouseだったり。

私が好きな祖母(ジュディス)と孫娘(ケイト)の会話の場面から。

"What's going on here?" Judith asked, pointing to a photograph of some GIs relaxing in Honduras.

"They're soldiers," said Kate. "Girls can be soldiers if they want." Kate was learning nonsexist role identification at daycare.

"That's right," said Judith. " Do you want to be a soldier?"

" I'm too small," said Kate.

"But what about when you're bigger?

"I don't know," said Kate. "They look hot."

"What do you think they're doing?"

" They're guarding something. Probably the President?"

"Who's the President?"

"Donald McDonald," said Kate.

"Ronald Reagan," corrected Judith.

"Oh," said Kate. "That's what I meant."

 

英語読みたくない人のために一応訳しますね。

「何してると思う?」ジュディスはホンジュラスでくつろぐ兵士たちの写真を指差した。

「この人たち、へいたいだよ。女の子もなりたければへいたいになれるんだ。」ケイトは保育園で性別により役割を特定しないことを学んでいる。

「その通り。兵隊になりたい?」ジュディスは言った。

「わたし、小さすぎるもん。」とケイト。

「でも、大きくなったら?」

「わかんない。この人たちかっこいい。」

「この人たち何してると思う?」

「何かをまもってるの。たぶん、だいとうりょう?」

「大統領って誰?」

「ドナルド・マクドナルド」とケイトは答えた。

「ドナルド・レーガン

「あ。そういいたかったんだ。」

 

こんな感じです。雰囲気伝わるかな?

ハートをズキューン!てやられちゃった人いますか?

末尾にリンクを貼り付けて置くので、恋の予感がする人はぜひ読んでみてください。つまんなかったらすぐやめていいから。

日本語で読みたい人はお近くの図書館で探してみてください。

こんなすんばらしい本がこの世から消えかかってる…?世界の中心でさけばなければ。

ぎゃぴー!!

という訳で、今後もスローにピーター・キャメロンのキャリアをたどる旅を続けたいと思っています。

ではまた。

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"The Enchanted April" Elzabeth von Arnim

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*過去からの宿題②*

今年の夏は暑かったのと短期のアルバイトをしていたのとで図書館に行くのをお休みしていた。それで、読む本を探して本棚を物色することに。

これ。読みかけで、しかも2、3回最初から読み直して挫折した記憶さえある。

今なら読めるかも。

読みかけのところに栞代わりに挟んであったのはBrecon Beakons National Parkという場所のポストカードだった。草に寝そべる羊たち。Google検索したところウェールズにあるらしい。ポストカードっていいな。手紙を書かなくてもこういう風に昔訪れた場所にもう一度仮想旅行することもできる。とても美しい山だ。へー、こんなところ行ったんだ。…行ったのか?

果たして、つるつるの脳みそ人間には旅行する価値があるのだろうか。

これから旅行に行った時には本を読みかけにしてポストカードとか入場券とか旅の欠片を挟んでおく…という壮大な計画を思いつく。先日読んだ「Haroun and the Sea of Stories」という読みかけの本にはドイツ語の文字が書かれたペーパーコースター(コーヒーのシミ付き)が挟んであった。…どこに行ったのか?それはともかく、なんだかうれしくてそのままそっと元に戻した。

そもそも栞が好きで集めたり作ってみたりしているくせに、いつもそこら辺のものを挟む。スーパーのレシートとか、ティッシュペーパーとか、それはそれでまぁいいとして、旅と栞、その未来の計画についてはゆっくり考えてみたいと思う。とりあえず旅の予定は無いし。

偶然なのか必然なのか、これも旅についての物語だ。

イギリスの女性が4人、雨の降る暗いロンドンから明るい太陽の燦々と輝くイタリアへ1ヶ月のバカンスへ出かける。4人はそれぞれ新聞広告で集まった見知らぬ者同士でそれぞれにいろいろな問題を抱えているのだが、美しい花咲き乱れるこの世の天国のような古城ではみんな魔法にかかって幸せになるのだ。

そーんなこと起こりませーん!…って思ってません?まぁ、これはフィクションなわけだけど。

この作家は「離婚した夫をモデルにした悪意あるコメディ」を書いた後「ハッピーな物語が書きたい」と思い、実際4月にイタリアの古城を借りて住み、この物語を描き始めたそうです。

だから、舞台設定というか風景はそのままリアルなんだろうと思う。夢のように美しい。

たくさんの花の名前が登場する。

wistaria…藤

periwinkles …ヒメツルニチニチソウ

scarlet geraniums

nasturtiums

marigolds

red and pink snapdragons…金魚草

olieves

fig-trees…無花果の木

peach-trees

cherry-trees

vine-buds

blue and purple irises

lavender

cactuses…サボテン

dandelions…たんぽぽ

daisies

freesias

banksia roses…モッコウバラ

summer roses

plum-blossom

daphnes…沈丁花

orange-blossom

lilies

white stocks

(カタカナ表記にならないものだけ訳しました)

スマホで花の写真を見ながら庭の様子を妄想する。ページから溢れ出る色彩と香りなのであった。

エリザベス=アーニンは花が好きな人で一日中花の話をし続けることができたらしい(一日中聞いていたいかは微妙だけど)。本人も華やかな経歴を持つ。シドニーで生まれ、イギリスで育ったという。ドイツの貴族と結婚して未亡人となり、H.G.Wellsと付き合って別れ、イギリス貴族と結婚、離婚している(貴族にモテるタイプ?)。作家のKatherine Mansfieldとは従姉妹同士。E.M.Forsterは一時期彼女の子供たちの家庭教師をしていたという。

おお!世の中とはそんなに狭い場所なのか?

(BGMは It's a small world でお願いします。)

もともとこの本を買ったのは、同名の映画(邦題は「魅せられて4月」)を観たからだった。それで本を買って何度も読もうとトライするとは、よほど映画が気に入ったに違いない。うろ覚えだけど。それで、読了後、Youtubeで見つけたので見てみた。

前半のロンドンの陰鬱さがすごい。なんだか笑える。

ロンドン、いい所だと思うよ。

4人のうちの2人はハムステッドに住んでいて、あまり裕福じゃないという設定(貴族目線で)。ハムステッドは今は高級住宅地だと思うんだけど、当時(物語の設定は1800年代初頭)は違ったんだろう。「Keats(詩人の)を見たことがあります!」とか言ってた。はは。ハムステッドのKeats が住んでいた家は今では博物館になっています。

この滑稽なくらいのロンドンの陰鬱さは、イギリス特有の自虐ジョークなのではと思うが、イタリアの古城の素晴らしさを際立たせるためでもあるのだろう。

映画の庭は本の中の庭より花が少なくてしょぼめなのが残念。CGなしの本物の風景です。

イケメンは出てこないが、イタリアの古城の持ち主Mr.Briggsはどこかで見たことがあるなーと思ったらNHKでも放映していた「刑事フォイル」のマイケル・キッチンという俳優さんだった。Kitchenって苗字かわいい。本人も猿顔が素敵だ。フォイルファンは要チェックです。

果たして、1ヶ月のバカンスで幸福になった人々は幸福を持続させることができるのか。そんな無粋な疑問もある。夏はいいけど冬が問題だな。

美しい環境は人を外面も内面も美しくできるのか?良い環境は人を善良にできるのか?

絶対ではないけど答えはYESじゃないのかな。

美輪明宏様も美しいものを自分の周りに置きなさいみたいなこと言ってたし。うろ覚えだけど。

とりあえず、掃除して花でも飾るかな、と思います。

植物好きな人とか「ダウントンアビー」が好きな人におすすめです。

 

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