徐々に知名度の低いブランドが登場するようになってきましたが、まだまだメジャーと言っても良いブランド「モバード」についてです。
革新的な技術とそれを超える革新的なデザインを得意とするモバードは、先進的な企業経営を行って来ました。
●創業
モバードの前身は、19歳のアシール・ディティシャイムがスイスに開いた時計工房です。1885年には会社に加わった兄弟の名前をとり、「LA&Iディティシャイム」と社名を改めました。
わずか10年余りで雇用している時計職人は80人にも達し、スイスにおいても大手に分類される時計会社の仲間入りを果たします。1905年には社名を「モバード」に改め、新しい社屋で一貫生産を開始します。
●社名の由来
モバードはエスペラント語で「運動」を意味しています。転じて、たゆまない前進を意味していると言われています。
エスペラント語はいわゆる「人工言語」の代表的存在です。母語の異なる人々の間で意思疎通を図るため、開発、普及が進められました。
社名を考えるにあたり、フランス語やドイツ語でも、もちろん英語でもラテン語でもなく、エスペラント語を選んでしまうあたりにモバード社のセンスを感じます。
●革新的な技術とデザイン
モバードが1912年に発表した「ポリプラン」は、ケースを手首の形に沿って湾曲させた世界初の腕時計です。少し考えれば思いつきそうなアイデアですが、実際に実現するのはかなり難しく、ましてや市販品として登場させたことに驚きです。
他にもリザードに時計を収めた「バレンチノ」や、ケースの開け閉めによってゼンマイを巻き上げる「エルメト」など、独創的で革新的な技術とデザインを盛り込んだ時計を多数輩出します。
●クロノグラフ
モバードと言えばクロノグラフの開発でも有名です。キャリバー90/90M/95Mは手巻きクロノグラフの名機として知られています。
1969年にはゼニスと共同で、世界初となるカレンダー付き自動巻クロノグラフ「エル・プリメロ」を開発しました。
エル・プリメロといえばゼニス、のイメージが強いですが、ゼニス社の製品とほぼ同じデザインで、モバード社が提供したモデルも多数存在します。
●ミュージアム・ウオッチ
モバードの時計で最も有名な時計と言えば「ミュージアム・ウオッチ」でしょう。これはネイサン・ジョージ・ホーウィットのデザインによるものです。ネイサンは当時、アメリカにおいてバウハウス芸術運動を実践していたデザイナーの一人です。
黒文字盤に金属のドットを配置しただけのシンプルなデザイン。金色の丸は正午の太陽を、針の動きが地球の自転を表しています。この時計は高く評価され、ニューヨーク近代美術館の永久所蔵品に認定されました。
●技術とデザインと
先進的な技術に取り組む時計メーカーは多数存在します。また、デザインのみに注力するブランドもたくさんあるでしょう。その両方を追求し、評価されるレベルまで高めることの出来る希有な時計ブランド、それがモバードです。
【吉田貴之】[email protected]
イディア:情報デザインと情報アーキテクチャ
http://www.idia.jp/
兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。