ネタを訪ねて三万歩[67]「使えるモノはなんでも使う」が正解
── 海津ヨシノリ ──

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●iPadの不満が万年筆に化ける

ところで、先月予告したように、銀座で新しく万年筆を購入しました。発端はiPadに良いお絵かきソフトがあるのに、指を使うしかないのが現状。私はかなり不器用なため、指で絵を描くなんてことは出来ません。

6月にアップルストア銀座で行われたセッション当日に思い出し、少し時間があったのでセッション前に伊東屋へ向かい、かなりひつこく試し書きを繰り返した後に、ペリカン"Junior"という子供用の万年筆に落ち着きました。ペン先は中字です。本当は太字を買うつもりでいましたが、試し書きしたことにより私の求めていた太さが中字であることを悟ったからです。

今では買い物の多くはAmazonとなっている私でも、さすがに万年筆または筆記具の類のオンライン購入は出来ません。筆記具は相性というものがあるので、実際に試してみないと無駄遣いになってしまいます。ちなみに、インク色はペン先が太いので少しばかり薄めのロイアルブルーとしました。このあたりも実際に比べてみないと分らないですからね。また、ペンに付属で一本入っているカートリッジの色は選択できませんが、伊東屋では同時購入したカートリジの色に変更してくれました。このあたりが専門店の対面販売の良い点ですね。

このペンは、その後かなり気に入ってしまったので、2本目を購入してしまいました。四六時中持ち歩いていたいからです。こうなったらiPad風のメモ用紙と万年筆で、開き直ってしまうのも面白いかもしれませんね。直感的に面白いモノを追い続けるのが好きですから。多分ストレス発散になっているのだと思います。私はお酒で憂さ晴らしするタイプではなく、買い物で発散するタイプですね。そう考えるオジサンではなくてオバサン系(?)かも。



ちなみに「仕事で使うものは鉛筆と紙で充分」なんて嘯いた方がいましたが、私は「仕事で使うものは万年筆と手帳で充分」と思っているわけではありません。「使えるモノはなんでも使う」がクリエイターだと感じています。ですから、アナログとデジタルに線引きする氏の挑発に興味はないです。確かにあの問題発言は正論の域だとは思いますが、上品とは言い難い挑発的な態度はいただません。氏のような方には、もっと機知に富んだ思慮ある上品な表現をとって欲しかったですね。でも大先生なってしまったから無理なのかも......。

ちなみに某スタジオの初期作品は素直に楽しめて良かったのですが、最近のものは何か引っかかりが多すぎてスッキリ楽しめません。きっと私が凡人過ぎるから理解出来ないのでしょう。だから新作にもまったく反応できなくなっています。それよりも今見たいのは「トイ・ストーリー3」と「私の優しくない先輩」ですね。時間が欲しいです。

話を戻すと、実は私も現在のように猫も杓子もiPad絶賛だらけだと逆に不気味さを感じています。もちろん私もiPadは重宝していますが、手放しで絶賛するほどではないですね。ペンの問題やプロジェクター投影時に画面表示が出来ない仕様など問題は山積みです。Flashについては、アダルト産業が主要ブラウザにHTML5が対応したらFlashを捨てると公言してしまったので、現状の仕様を引っ張りつづけると未来はきついかもしれませんね。未来は誰にも分りませんが、傲慢種族と横暴種族は消滅して欲しいです。

とにかく我々は、メディアの情報に翻弄されすぎているように感じています。冷静に考えればおかしなことばかり。TVで本を裁断し、ScanSnapでPDF化させてiPadに入れる得意げな特集(?)を偶然見ました。5万円でも買えないような裁断機とScanSnap、そしてiPadで20万円ちかく出費して、本をせっせとPDF化させる必要のある人って一般ユーザーではないですよね。もっとも番組は途中から見たので、ターゲットについては冒頭で説明があったのかもしれませんが......。

確かにiPadは便利で、私もPDFをしこたま入れて持ち歩いていますが、わざわざ蔵書を裁断するまではしていません。昔の人間なので本を裁断するなんて事が出来ないからです。それも時間の問題だとは思いますが、突っ張れるだけ突っ張ろうと考えています。プライベートな思い出まではPDF化出来ないですからね。ただし事務的なカタログ類は容赦なくPDF化しています。当然ながら特殊印刷などはPDF化しようがないです......。

でも、「捨てる前にPDF化」という事を続けていると、今までであれば絶対に読まないモノまでPDF化するといった無駄が発生してきます。届いてもそのまま捨ててしまうようなDMなどがソレ。捨てる前にPDF化ではなく、直ぐに見る事が出来るようにPDF化し、オリジナルは保存という使い方が理想かもしれませんね。もっともそうなると、はじめにオリジナルを裁断しなくてはなりません。うまくいかないですね。将来その問題がクリア出来たとしても、本当に直ぐに見る事が出来るかについては少々懐疑的になっています。

面白い例として、私は多摩美術大学造形表現学部でコンピュータ画像処理論という講義を担当していますが、毎回授業の最後に昔のTVドラマやアニメ、マニアックな映画を少しだけ紹介しています。そして、その資料類を昨年まではプリントとして持参していましたが、今年からiPadに入れたPDFを表示させるだけだと張り切っていました。しかし、実際の授業であえなく撃沈。実際に使う段になって、電源入れてツールを選択して、該当PDFを起動させるまでに時間が掛かりすぎてしまうからです。

もともと授業の日は、機材一式をキャリーバッグに入れて大学まで通っているので、重たい荷物は問題在りません。どんなに軽いと言ってもプリント2枚とiPadの重量比較は話にならないですからね。以前、MacBookProだけではだめなのかと友人から質問を受けたことがありました。本体の他にタブレット、電源やケーブル類、そして仮想記憶用にも使える外付けハードディスクなど、鞄に入れてかつぐには限界を超えているからです。ですから3Kgほどの重さでも高速処理が可能であれば私は助かるのですが......。

結局、不特定多数をターゲットにしたツールに対する個人的な不満は永遠に解決しないわけです。大学の控え室にはそれなりの個人ロッカーも用意されているので、まだまだプリントアウした紙に囲まれたアナログ人生を謳歌といったところです。
余談ですが、プリントに失敗した用紙などが大量に余っており、誰かに渡したりするようなものでないかぎり、私はその用紙の裏面を活用しています。そのため、時々裏面の内容を思い出したように読み返すことで、新しい発見やアイデアが生まれてくることがあります。まさに「使えるモノはなんでも使う」が吉と出る瞬間です。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

"国境之南" by 范逸臣 in 2008
映画「海角七号」の中で主演の范逸臣が歌う劇中挿入歌。映画を見てしまうと頭から消えなくなってしまいます。

"海角七号(かいかくななごう)/君想う、国境の南" by 魏徳聖 in 2008(台湾)
60年前の復員船の中で書かれた7通の手紙と現代が交差する物語。でも決して反戦反日映画ではないのです。むしろその逆。主人公が手紙を読むナレーションは台湾映画なのに日本語という具合に。こんな親日的(もともと台湾は親日の国)な映画が台湾で作られ、それが台湾映画史上No.1の観客動員数となった事を知って驚きました。恋愛ドラマと言うより明るい喜劇で、台湾人の明るさや善良さ、優しさなどが伝わってくるこの作品を、某国では「媚日映画」「皇民化の影」と言った苦し紛れな理由で上映禁止になったそうですが、民意の低さに開いた口が塞がりません。とにかくそんな反日の国が500年掛けても作れない名作なのは確か。

ラスト5分......しかしエンドロールが3分なので、実質ラスト2分の静かな語りにカメラアングルと演出、そしてそこに流れる「野ばら」の曲で一気に号泣してしまいました。もしDVDなどで鑑賞する機会があれば、2回見て下さい。文化の違いで少々ギコチナク感じる前半部分も、2回目の鑑賞では払拭できます。

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■アップルストア銀座のセッション 8月16日(月)19時より

Hands on a Macとして画像処理セッション
『海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol.49』
8月のこの回から偶数月はハンズオン形式となり、9月からの奇数月は従来通りのセッションとなります。詳細につきましては、随時私のサイトやBlogでもお知らせいたします。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター
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・間抜けな一方通行の礼節
長年にわたり礼節を重んじてきたのに、当の相手はそれを逆なでする行為をしていたことを知ったら、やっぱり怒り心頭ですよね。もっともこんな時に怒ると相手のペースにはまってしまうので、最近は知らんぷりでリセットするようにしています。正直、相手のポーカーフェイスが余計に腹立たしいわけですが、関わっても疲れるだけですからね。