はじめまして。 kitajinと申します。kitajin palaceというblogの館を運営しております。 当館では、お客様に楽しんでもらえるような話を用意しております。 どうぞ、一度お越しくださることをお待ちしております。
浜松市出身のkitajinと申します。 小説のサイトを運営しております。地元の人と交流ができたら幸いとやってまいりました。どうぞお見知り置きを<(_ _)>
ドアがゆっくりと開き、理紗が入ってきた。夏生は自分の言葉に酔いしれ、ガラス窓からステージを見下ろした。「見ろ、あの美しい姿を。こんな遠目からでも輝きが分かる」その時、夏生の顔が曇った。「理紗がいない……?」ステージの上に理紗の姿がない事に気
英里佳にとって、まるで夢のようなひと時であった。それは、念願の年越しライブに来れたことだけでなく、そのチケットを宇部理紗から渡され、ハポン47へと関われたことなどすべてであった。英里佳にとって、ハポン47とは特別な存在であり、仙台にいた頃か
ホテルの一室。上半身裸で無心で筋トレをする。なぜだろう?この数日間、とても落ち着かない。こうして身体を動かすことで、身体の芯から沸き上がる物を発散させているが、それでもダメだ。よく、移植した部位に元の持ち主の記憶が残るというが、加山の身体に
深夜、ハポンの運営ビル五階にある総務部部長室に二つの影があった。「申し訳ありせんでした」葛城が深々と頭を下げる。「……いろいろとおかしなことがあるが、何よりおかしいのは、なぜリストのことを賊は知っていたのかと言うことだ」「ですから、それは奴
夏生有英は運営ビルの総務部部長の部屋で、デスクトップの画面をじっと見つめていた。ドアをノックする音がして返事をすると、葛城が入って来る。「お呼びですか?」「ああ。……葛城、一人の女に二つの人格ってあると思うか?」「は?」「理紗は確かB型だっ
その日、加山幸作は怪我の治療のため、近くの病院に刑務官二人が付き添いで向かった。機動隊に受けた全身八か所に亀裂骨折があり、その他、打撲や擦り傷なども含め、全治一ヶ月の診断であった。この日は回復具合を見るのと、痛み止めを貰いに来た。午前十一時
セインズを訪れてから数日後、英里佳が私の部屋にやって来て、探偵の小野乃木の知り合いの情報屋は、シゲちゃんの行方をまだ見つけられないと言った。「何でも、襲撃事件では、金属バットを持った人間が大勢いたって話だって。ホントに怖いよね」英里佳は顔を
十二月に入り、他のメンバーは忙しく動き回っているが、私はほとんど休業状態だ。年越しライブの公式発表があり、一部のファンの間では、なぜ私がAメンとして、年越しライブに参加するのかと批判が出ているらしく、毎度、運営の二枚舌と、絶賛大炎上中だと言
病院を退院してからの私は多忙な時間を過ごしていた。というのが、五ヵ月前まで住んでいた部屋に戻り、(畠山さんが私が戻ると思い、そのまま残しておいてくれた)元の生活に戻るための準備をしたり、英里佳が借りてくれた部屋の片づけなどもしなくてはならず
退院の日がやって来た。その日の朝、病院に畠山さん、運営の葛城と佐藤の三人が来てくれた。葛城が二人に外で待っているようにといって、病室に二人きりとなる。「……まったく、夏生先生には困ったもんだ。思い付きで、君をAメンに復帰させようというのだか
私は放心したようにぼんやりと外を眺めていた。――ケガが治り次第、お前をAメンで活動させる。夏生の言葉が頭をよぎる。外は欅の葉がすっかりと落ちて、時折、強く風が窓を叩いていた。ドアを開けて、畠山さんが病室に戻ってきた。「……いつ目覚めたの?」
目が覚めると真っ白な壁が広がっていた。霞が晴れるように頭がはっきりとしていくにしたがって、それが天井であることに気づき、突然、視界に白髪頭のギョロっとした目のじい様が現れた。「目が覚めたようだな?」じい様は苦い顔をして、低い声でいって、素っ
師走に差し掛かろうとする街並みはどこか慌ただしく、肌寒い風が人恋しさを呼び起こした。「……君はなぜ、ハタリロが夏生有英だと分かったんだ?」小野乃木の言葉が耳をつく。葛城と繋がっていて、あそこまで他人を操ろうとする人間を夏生以外ほかに思いつか
その日、私と英里佳が『KOUTAI』に行くと、オーナーが二人の前に現れていった。「悪いが、君たちにここで使わせるわけにはいかなくなった」「何でですか?」英里佳が珍しく食って掛かる。私はすぐに先日のミキオの一件だと思った。「店にクレームの電話
「あなた、酔ってるの?それとも、頭大丈夫?」シゲちゃんは鋭い目を向けて國士を見た。「それは、俺を見た目で判断しているからだろ?でも、嘘はついてないぜ」「……そうね、ごめんなさい」なにも間違ったことは言っていないという思いが、シゲちゃんを黙ら
「エントリー№19番、狂った果肉で~す」私たちは特設ステージに立って、『ちょっとまってうぉりあ~』のレギュラー陣十人のいる前で漫才のネタを披露した。しかし私は、ネタよりも宇部理紗が目の前に現れた光景が頭から離れず、心中は混乱していた。コンビ
ネタバトル終了後、打ち上げで近くの居酒屋にいった。「いやあ、よかった。狂った果肉は短期間でずいぶんと腕を上げたよ、なあ?」酔っ払った柱谷さんが隣に座る都並の方を見た。「まあな……」この夜の都並は何故か無口であった。大会前には絶対に優勝をする
ずいぶんと前から、ビルのあちこちに『お笑いライブ・ネタバトルトーナメント開催』というポスターが張られていたようで、その甲斐があってか、ライブハウスは満員御礼であった。「……狂った果肉でした、ありがとうございました。続きまして、結成十年のベテ
どうやら英里佳が機嫌が悪かったのは私のミスだけでなく、客席に梨花が来ていたことに関係していたようだ。宇部理紗の妹と言われ、梨花は驚くでもなく、「そうだけど、それがどうかした?」「ニクニは当然、知ってたでしょう?」「まあ……」逆に私がオドオド
現在の時刻は夜の十一時。うるさく言うつもりはないが、高校生が出歩いていい時刻ではない。しかも、ここは実家のある三鷹ではなく渋谷。また、一緒に歩いている男も気に入らない。三十代後半から四十代前半、一見して業界人らしい男。見るからにパパ活だ。だ
胸揉み男の名は、都並雄一郎つなみゆういちろうといった。身長175センチくらい、筋肉質でデブの丸坊主。どこかプロレスラーか柔道家といったような男くささがあって、意地の悪そうなニヤケ顔が特徴的の年齢は三十は超えていそうな老け顔だが、実年齢は二十
舞台に眩しすぎるほどのライトが当たり、客席が見えない。「……きのう私、洋服を買いに行ったんですよ」隣で英里佳が甲高い声で話している。「で、お気に入りのデパートの婦人服売り場の屋上に行ったら、あいにくの雨で、洋服がビショビショに濡れていたの」
「国枝さん、とてもいいですよ」理学療法士の森本さんは、三十代の頼れる女性だ。いつも親身になって訓練に付き合ってくれる。約三か月の寝たきり生活で、筋力は相当、弱体化してベッドで起き上がることもままならなかった。だが、元々健康な肉体であったため
第五章 主な登場人物・ 国枝國士《くにえだくにお》 主人公、宇部理紗の身体に入ったイケてない二二歳。・ 宇部理紗《うべりさ》 悩めるアイドル、國士の身体の中で引きこもり中。・ 横田英里佳《よこたえりか》 若手お笑い芸人、國士の元相方。・ 宇
「先生お待ちしておりました」関係者で入口で、夏生有英を出迎える元木と佐藤。「マスコミにはまだ知られていないようだな。……で、どうなんだ、状況は?」付近には物々しい警官たちの姿があった。夏生は周囲を見回しながら訊いた。「それが、警察は強行突入
握手会の会場である東京ビッグサイトの楽屋内に監禁されたハポンのメンバー三十四人。監禁しているのは、ハポンの元メンバー依田華の自称兄という、加山幸作。加山の腹には約十本のパイプ爆弾が巻き付けられていて、メンバーの周りには長机を重ねたバリケード
加山は男を殴るように、拳で殴りかかってきた。拳は肩口に当たり、続けざまに髪を掴んできて、膝をボディを入れてくる。それは両腕で防いだが、腕と襟を掴まれて、腰払いをされ床に投げ飛ばされた。更に倒れたところに腹に向かって、つま先蹴りが飛んできた。
「なんだ、今の地響きと音は?」俺は立ち止まり、耳を澄ました。しかし、それ以降、何も起こらないので楽屋に戻ろうと歩き出すが、自分がまた迷子であることに気づく。「……またか」適当に進んでいると、こちらに向かって歩いてくる女子三人組に気づいた。「
午後五時ごろ。結局、警察に通報して、暴言集団の若者たちは不退去罪で連れていかれた。同じく中年男性も、剥がしの係員に暴行したことにより、威力業務妨害で警察に連れていかれた。「騒動続きの握手会の最後に相応しい幕切れでしたね」疲れた表情で楽屋へと
その男は二十代前半、少し茶色に染めた髪を遊ばせている大学生かフリーターのような雰囲気の若者であった。「え?今なんて言った?」一瞬、自分の利き間違いかと思った風香は訊き返した。「いや、近くで見るとヒデェ顔しているなって。よくそれでアイドルをや
枕元に置かれた時計の針が六時をさすと、目覚ましのアラームが鳴り響く。「ねえ、朝だよ。起きないの?」大手優梨愛の声がする。「……こら、起きろ。遅刻するぞ」布団から伸びた毛むくじゃらの手が、アラームを止めようとすると、目覚まし時計を倒れ、大手優
都内某所にある築数十年のボロアパートの一室で、十一月だというのに、Tシャツ一枚で男が机に向かって何やら作業をしている。時折、ジュっという音の後、広い背中の向こうから白い煙が立ち上る。乱雑な部屋。キッチンのシンクには食器が溜まり、床にはゴミが
カメリハが終わって、メンバーは一旦、楽屋に戻る。途中、長い廊下を歩いていくと、Aメンのメンバー19人がスタジオに向かって歩いてきた。AメンとBメンが入り乱れ、すれ違う中で理紗に対し、三期四期のメンバーは挨拶して来るが、二期、一期は微妙な顔を
「前にも言ったと思うが、君にはこういう事態が起こらないようにというための見張りとして置いておいたのに、なぜ気づかないんだ?」葛城に呼び出しをくらい、五鈴が大手を襲った事への叱責を受ける。「……それは本当に悪いと思っています」葛城の疑念を聞い
第四章 主な登場人物・ 国枝國士《くにえだくにお》 主人公、宇部理紗の身体に入ったイケてない二二歳。・ 宇部理紗《うべりさ》 悩めるアイドル、國士の身体の中で引きこもり中。・ 畠山曜子《はたけやまようこ》 理紗のマネージャー、唯一國士が理紗
五鈴璃々の芸歴は十五年である。一歳のときから赤ちゃんモデルとして芸能活動しており、映画やドラマの子役、教育番組の出演者などに多岐にわたって活躍してきた。そして十三のとき、ハポンの三期生のオーディションを受けて合格する。順風満帆に見えた芸能生
「優勝、チームゴースト」島が宣言すると、大手が目の前にパイがセットされた椅子から立ち上がり、チームメートの元へ駆け寄る。チームゴーストの九人が集まり、輪になって喜びをアピールする。「いやあ、終盤までダメキャプテンだったけど、最後は大手の運が
安アパートの脱衣所に全裸で立って、浴室のドアに背中を付ける俺こと宇部理紗。「……わたし、プロフィールは千葉ですが、本当は東京都出身で、今も都内に両親と暮らしています」浴室から大手優梨愛の声が聞こえてくる。「うちの両親、二人とも仕事をしていて
全国ツアーも終わりグループに暫しの休息が訪れると思いきや、三週間後に迫る新曲のリリースに向けての準備に入っていく。その合間にも、個々の活動が詰め込まれていく。そんな中、一つのビックニュースがハポングループ内を駆け巡った。「大変だよ。ビックニ
小野乃木は三十代後半から四十代前半くらいの、柔道選手のような体格をした浅黒い肌で眉毛の太い、如何にも精力的な男であった。「いいですか?」小野乃木は写真を自分の方へ引き寄せた。「この人ですか……お名前は?」小野乃木はメモ帳とペンを取り出した。
玄関の前に立つ、大手を見つめて俺は緊張した。「ど、どうした?」「あの、入っていいですか?」「あ……ああ、どうぞ」時刻は深夜零時を回っていた。こんな夜更けに女子高生、しかもアイドルが家に訪ねてくることなんて国枝國士では絶対あり得ない。「失礼し
「そういえば、何で理紗と井熊莉緒がフロントメンバーから外されたのか不思議に思っていたんだよね。別に二人がスキャンダルを起こしたわけでもないし、人気もあったのにさ」俺は当時の記憶を呼び起こして尋ねた。「一つは、メンバー同士の相性のようなものね
十月十日、ハポンの全国八か所で行われた全国ツアーが最終日、東京ドームで千秋楽を迎えた。最終日の東京ドームでは井熊の卒業コンサートが行われ、彼女の最後の雄姿を見ようと多くのファンが集まった。井熊莉緒はグループ結成当初からフロントメンバーに抜擢
どれくらい土下座をしていただろうか?静まり返る会議室の中に咳払いが聞こえてきた。「おい、もういいだろう?」誰かがいった。「それでは、スポンサーを降りることを考え直してもらえるのですか?」俺は頭を下げたまま尋ねた。再び沈黙が流れる。畠山さんの
毎週月曜の19:00~21:00『山根レイのどこかで聞いたはなし』がnayfmで放送されていた。番組の内容は、山根レイの興味のある時事ネタを取り上げたり、リスナーから送られてきた質問やクイズを出題したりと盛りだくさんである。「それでは今日の
第三章 主な登場人物・ 国枝國士《くにえだくにお》 主人公、宇部理紗の身体に入ったイケてない二二歳。・ 宇部理紗《うべりさ》 悩めるアイドル、國士の身体の中で引きこもり中。・ 畠山曜子《はたけやまようこ》 理紗のマネージャー、唯一國士が理紗
代々木競技場敷地内の通路を長蛇の列ができており、それぞれに手にした応援グッズなどを持ってソワソワとしている。開演一時間半前、開場となり荷物チェックを受けた観客たちは足早に入場していく。入場して正面の上りのスロープから、二階席から会場が一望で
『BメンLIVE 夏の終わりから秋の始まりまで』【日程】202✕年 9月9日(日曜日)15:30開場/17:00開演【出演】ハポンBメン【会場】代々木第一体育館【料金】9000円全席指定【配信】あり 16:00~――――――――――――――
その日の練習は最悪であった。無言の重圧が池谷と尾藤から発せられ、それがメンバー全員に伝わって、動きがズレていく。見事なまでの逆以心伝心であった。「どうした?君たち、今日は不調かね?」山本先生が冗談ぽく激を飛ばし、渇いた笑いが響いたが、相変わ
目の前に立つ小園紬は、透き通るような白い肌とわずかに色を抜いた綺麗なストレートのロングヘアーをしていた。全体の雰囲気は理知的で浮ついた感じが無く、理紗を見上げるその目は何を考えているか表情が読めない。「あの紙って?」俺は惚けて聞き返した。「
大手優梨愛が付いて一週間、俺は見違えるほどダンスが上手くなった。と言っても素人の目から見てだが。「理紗ちゃん、感覚が戻ってきたみたいね」井上が俺のステップを見て褒めた。「先生、褒めるのを止めてもらっていいですか?調子に乗りますんで」大手の言
午後十時。三階の更衣室から五階の総務部へ行くと、まだ明かりがついていた。「ごめん下さい」ドアを開けて声を掛けると前のデスクに知った顔があった。「あっ、理紗ちゃん」ボオっと座っていた男が理紗を見ると慌てて立ち上がる。確か、佐藤とか言った葛城の
「それで全部?井熊莉緒との会話の内容は?」レッスン前に葛城に呼ばれて、昨夜の井熊莉緒との会話について根掘り葉掘り聞かれた。「まあ、だいたい……」「だいたいじゃあダメだ。詳しく話してもらわないと分からないだろう?」「それなら、これから会話を録
その日、葛城からレッスン前に、オフィスに一人で来るようにと言われた。「これから君は卒業までの間、私の手足となり、何としても密告者を見つけることに協力してもらう」入室すると、いきなり葛城からそう言われた。「え?でも、なんか、もう用なしみたいな
第二章 おもな登場人物・ 国枝國士くにえだくにお(身体は宇部理紗)女性アイドルの身体に入ってしまった冴えない男。フリーター二十二歳。・ 宇部理紗うべりさ(身体は国枝國士)人気アイドルグループ一期生。現在、國士の身体に入って、動けない。・ 畠
ホテル暮らしも悪くはない。いや、悪くはないどころか、畠山さんが用意してくれた部屋はとても快適で、俺が生きてきた中で、これほど贅沢をしたのは初めてであった。ルームサービスは取り放題、テレビは見放題、ベイサイドだけあって港の幻想的な朝夕を見れる
合同会社HAP(ハポン アミューズ プロジェクト)の会議室では今、常務を中心に、各部の部長など十数名の幹部連中が集まって会議をしている。「まずこの記事が事実かを知りたい」そういって、机上に雑誌が置いてある開いたページを顎で指して聞いたのは、
17 古い本の匂いと薄暗い室内に差し込む木漏れ陽にヤーニャは時を忘れて、書庫の中を歩いていた。棚を一つひとつ見て回って、興味のある分野の本を探す。 室内はとてつもなく広いが、利用する者は少なく、話声どころか物音一つない静寂に包まれる。
16 「いったん町に帰って、組合の人たちと話し合って、今後の対応を考えようと思います」 ビンデとリタ―は正門に向かって歩いていた。 「そうですか。それにしても王が王なら役人も似たようにろくな奴がいない」 「いえ、私も感情的になってしまっ
15 朝食にしては豪華すぎる食事を済ませ、ビンデは大きなゲップをした。 「失礼……しかし、バランスが悪すぎるよ。昨日は何も食べさせないで、今朝はこんなに豪華な朝食って。旨かったけど」 空になったテーブル上に並べられた皿を見回した。
14 朝が来るとリタ―は、宿屋を引き払い、王宮正面入口に近い宿屋に移ることにした。 昨日のミスに学び、大量の荷物があったので、馬車を雇い、正門に近い宿屋まで行ってもらった。 新しい宿屋に荷物を置いて、役所の開く朝九時には跳ね橋を渡り、最
13 観客席を埋めた人々から歓声が上がり、闘技場にルーカス・アリバスが姿を現した。 「ルーカス、不死身の男」 「百勝だ、ルーカス」 客席から声援が飛ぶ。 ルーカスはビンデに貰った布を腹に巻き、ゆっくりと闘技場の中央に歩いて行く。そ
9 ビンデは見張りの兵士にアルフレドの所在を聞くが、兵士はみな要領を得ない。 「まったく、あのアルフレドってやつは何なんだ?」 ブツブツと文句を言いながら、宮殿内を巡り、一階に降りていくと、出口に向かう市民たちの姿が見えた。その先
8 馬車はアーケード状の門を通過して、王宮の一階入り口の階段の前で停まった。 まず、苦虫を噛み潰したような表情のビンデが吐き出されるように降りてきた。続いてトランポリンとヤーニャが、その後にセッツがキャビンの足掛けと地面の段差を気
7 王宮の朝は早い。 朝日が昇ると同時に正門に掛けられた跳ね橋が下ろされ、多くの使用人や行商人、通いの兵士たちが通行証を見せながら門を潜る。 勿論、常駐する者も多く、王宮内では、忙しくそれぞれに朝の仕事に取り掛かる。 ガリアロス
5 王の間からクッサル湖が一望でき、湖畔には松明の火が灯され、幻想的な風景を映し出す。 王宮と湖との中間に周囲を壁で囲まれた広場があり、そこに壁の隙間から男が一人、広場へと入ってきた。筋骨隆々の逞しい身体に剣と盾を手にして、自信の
4 首都グララルン・ラードの北、リザード連峰を越えた反対側にデートラインと呼ばれる大地が広がる。そこは人類未開の地として、長年、多くの開拓者、冒険者を阻んできた。 しかし、様々な恩恵をもたらす魅惑の大地は現在も多くの人々を引きつけて
3「えーっ、なんだって?ラク酒の他にも馬車の運賃が初乗り50プンスになり、待てっ、待て。エントラントの関税が1チロにつき、1ルギー?ふざけやがって」ビンデは新聞をカウンターに叩きつけた。「王は国民を締めつけ、自分は毎晩、宮殿に芸人などを呼ん
2大きな欠伸をして、ガリアロス十八世が会議堂に入ってきた。すでに着席していた各首脳たちは一斉に立ち上がろうとするのを手で制して、ガリアロス十八世はゆっくりと着席した。「お早うございます」一同が挨拶をする。「おはよう、聞こう」「はい。...
1 「グアアッ~」 大きな欠伸をして、居間に入ってきたノースランド・ビンデを見て、母と姉は顔を見合わせた。 「あんた、また飲んできたのかい?」 母のセッツが聞いた。 「ん、ああっ……」 眠そうな顔をして居間を通り過ぎていく...
〇 登場人物 ノースランド・ビンデ 主人公 ノースランド・セッツ 主人公の母 ノースランド・ヤーニャ 主人公の姉 パムル・リタ― ラク酒の女主人 ガリアロス・ロス サウズ・スバート
いつも使っている道が、その日は限って道路工事で通行止めとなり、大きく迂回して高校に行く羽目になった。いつもは家の前を通る表通りに出る道しか使っていなかった阿藤悠馬《あとうゆうま》は小学生以来、家の裏を大きく回って住宅地の奥の道へと入っていっ
「年間、三万人だよ。日本でこれだけの人数が行方不明になっているんだ。おかしいと思わない?」カウンターの席のサラリーマンが、熱弁しているのが店内に響き渡る。「……まあな。でも、その中には心配性の親が警察に捜索を依頼しているケースってのもあるん
桜の花も散り、新緑が目立ち始めた五月中旬。夜、散歩をするのもちょうどいい季節になっていた。昨年の暮れの健康診断でメタボと言われ、「生活改善プログラム」仰々しい名前を付けて、会社から十キロの減量を言い渡された。社員の健康リスクが会社に及ぼす影
これは俺が新しいアパートに引っ越したときの話。その日、仕事を終えた俺は同僚と飲んだあと帰路についた。閑静な住宅街の中にあるアパートの前に差し掛かると、道一本挟んだ向かいにある一軒家の軒先にいる犬が盛んに吠えているのに気づく。いつもは小屋の中
シンクで哺乳瓶を洗って、煮沸消毒をする。「……日付が変わりました。午前零時です」リビングのテレビから零時のニュースが流れてくる。喜乃《きの》は手を止め、思わず舌打ちした。そのとき、眠ったと思っていた息子の喜一良《きいら》の泣き声が隣の部屋か
ビックヘンというお笑い芸人がいる。今年四十三歳で芸歴は二十五年だが、タレント名鑑にも一度も載ったことのなく、アルバイトしながら何とか生計を立てている。もちろん独身であった。見た目は、日本人の平均身長くらいで細身、スキンヘッドで、どこか近寄り
「……物事が人の目に触れるよりずっと多くの事象が、その下に隠されている。例えば、ここに年間の交通事故の死亡件数があるが、昨年は約三千人の尊い命が失われた。しかし、交通事故件数はそれよりはるか多く、発生件数は約三十万件ある。つまり、警察が介入
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