なぜ地方ではアニメが放送されないのか

取材して書き直しました。

なぜ地方ではアニメが放送されないのかをテレビ局の人に聞いてみた
以前もこのブログで取り上げたのですが、なぜ、アニメの放送は都会ばかりで、地方では放送されないのかを改めて、テレビ局の人に聞いてみました。局名を出さないことを条件に、実際に地方局の社員で携わられていらっしゃる方が取材に応じてくださいました。
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テレビ東京(東京・港区) ※写真はイメージです。本文とは関係ありません。

誰に権限があるのか

「地方は放送されるアニメが少ない
これは地方に住むアニメファンにとって共通の不満である。近年は、衛星放送で放送される作品も多くなり、遅れはあるものの、地方在住者にとっても不満は解消されつつあるのだが、それでも、東京・名古屋・大阪とそれ以外の地域の間には大きな壁がある。地方で放送されるアニメが少ない理由とは何か。

テレビ局の数が少ないから?
地方局が努力をしていないから?

放送の要望を出すにしても、見当違いのところに出しては意味が無い。そもそも、アニメを放送する権限が誰にあるのかを考えることで、その理由を紐解いてみよう。関係者に話を聞いてまとめてみた。

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テレビ番組には2つの種類がある

「地方でアニメが放送されない問題の背景には、アニメ番組には2つの種類があること」というと、ほとんどの人は、「普通の時間に放送されるアニメ」「深夜アニメ」の2つにわけるだろう。実はそれはこの問題とは無関係である。

この問題に大きくかかわるのは、「テレビ局が作っているアニメ」「そうじゃないアニメ」の種類わけである。

テレビ局が作っているアニメ

テレビ局が作っているアニメとは、日本テレビ系列であれば読売テレビ製作の「名探偵コナン」、TBS系列であれば毎日放送製作の「マギ」、フジテレビ製作の「ワンピース」「トリコ」、テレビ朝日製作の「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」、そしてテレビ東京製作の「ポケットモンスター」「NARUTO」などである。

これらは、テレビ局がスポンサーを集めて、そのスポンサーからのお金でアニメを製作している。基本的には、スポンサーが製作費と全国の各テレビ局分の電波料を負担しているので、キー局だけでなく、地方局もネット保証金という名目でお金を受け取り、放送をしている。

さらに、特にテレビ東京のアニメに多いのだが、スポンサーが放送を希望しなかった地域の地方局でも、キー局から地方局がそのアニメを買うことで、放送をすることができる。テレビ静岡のように、系列でないにもかかわらず、積極的にテレビ東京からアニメを購入している地方局もある。

これらテレビ局が作っているアニメは、もし、その地方で放送されていないのであれば、地方のテレビ局に要望を出すことで、その局が放送したいと思ったり、その地方だけのスポンサーがつけば、キー局からアニメを購入し、放送をすることができるのである。テレビ局が製作したアニメは、そのテレビ局の権限で売買できるというわけだ。

問題は「そうじゃないアニメ」である。

テレビ局が作っていないアニメ

主に深夜に放送されるアニメを見ると、製作は「製作委員会」という形になっている。これは、製作委員会参加企業それぞれが出資をする形でアニメが製作され、そのアニメの製作委員会が、広告代理店を通して、テレビ局の放送枠を購入して放送を依頼しているのである。そしてDVDやブルーレイなどを発売し、その収益を参加企業でわけあうのだ。

つまり、ジャパネットたかたテレビショッピングや、青汁の通販番組などと一緒で、通販会社がテレビ局の放送枠を買うように、アニメの製作委員会がテレビ局の放送枠を買って流しているのである。製作委員会にテレビ局が加わっていることはあっても、テレビ局そのものに放送に関する権限は無い。

製作委員会の用意した放送予算に応じて、広告代理店が東京、大阪、名古屋、そして時には原作者や物語の舞台となった地方などのテレビ局の放送枠を買って、そこにアニメを流しているのである。

この構図を知れば、テレビ局が作っていないアニメの場合、放送していない地方のテレビ局にアニメの放送を要望したところで、意味の無いことがわかるだろう。地方のテレビ局からしてみれば、ウチに言われてもどうしようもない、そんなことはアニメの製作委員会に言ってくれ、である。

製作委員会形式のアニメについて、地方のテレビ局に「○○を放送して!」とお願いするのは、クライアントからの要望が無いにもかかわらず、地方のテレビ局に「この日にジャパネットたかたの通販を放送して!」や「青汁の通販のあの回を放送して!」とお願いするのと同じくらい無意味なことなのである。

放送時間は関係ない

そのアニメをどこが製作しているのか、見分けるには最後の「製作」のテロップを見るしかない。そこにテレビ局の名前が大きく書かれていれば、テレビ局の製作であり、「○○製作委員会」とあれば製作委員会の製作である。

最近は深夜アニメだけでなく、「しろくまカフェ」など夕方に放送されているアニメや、バラエティ番組でも「○○製作委員会」と表記されるものがある。いくら夕方に放送されていても、しろくまカフェは「テレビ東京が作っているアニメ」ではなく「テレビ東京で流れているアニメ」でしかない。当然、深夜よりも夕方のほうが電波料が高く、同じ深夜でも夜が深い時間のほうが安くなる。よく「深夜じゃなくて夕方に流せばいいのに」という声もあるが、もしそうしようとなると、製作委員会が枠を買う予算をもっと潤沢に用意しなければならない。

テレビ局が自ら作っているアニメと、製作委員会がテレビ局に放送を依頼しているアニメでは、そのお金の流れ、放送決定のプロセスが全く違うわけだ。

なぜ地方で深夜アニメが放送されないのか

これでもうおわかりだろう。地方で、製作委員会形式の深夜アニメが放送されない理由が。それは、地方のテレビ局がさぼっているのでもなく、キー局が地方に配信しないのでもなく、アニメの製作委員会と代理店が「この地域では放送する予算もその必要も無い」と判断した結果なのである。DVDやブルーレイ販売などによる収益が電波料を上回りそうな地域にしか放送しない。これはビジネスとして考えれば、残念ながら当然のことと言える。

【追記:解決策が無いのが地方を見下してるとか言われるのがイヤなので、後づけで書いときました。】

ところが最近は、BS11(日本BS放送)の枠を買ってのアニメ放送が増えており、BSは1つのテレビ局で全国をフルカバーすることができるため、これこそ地方にとって希望の光である。この流れを絶たず、より強固にするためには、「BSの放送を見た地方の視聴者が特にソフトなどを買っている」という声が業界に届くことが何より重要である。

ただし、製作委員会に地上波のテレビ局が入っていたり、有料CSチャンネルの局が入っていると一筋縄で「BSでも放送」と行かない難点がある。映らない地域の人にこそソフトを買わせたい、映らない地域の人を有料CSチャンネルに加入させたいという、そちらの思惑が働いている場合、BSでの放送を意図的にしない場合がある。さらに、BSが主流になり、BSだけでの放送で済んでしまうようになると、そもそも地上波での放送がいらなくなってしまうのだが、これを地上波テレビ局も代理店も望んでいないという点もある、ということも付け加えておく。

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この記事を書いた人

TOPPY/川合登志和

記事や脚本を書いたり、名古屋のラジオやテレビの構成作家をしたり出演したり、地域のFMラジオで喋ったりディレクターしたりミキサーしたり、講師したり、サイト作ったりしてます。

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コメント

  1. SWATY より:

    はじめまして!
    深夜アニメの場合、製作委員会に参加されている企業が、提供スポンサーになっているケースが多いです。

    一部のTBS系深夜アニメが、関西では…独立局で放送されたり、TBSが製作された作品が…自局・系列局でなく、独立系で放送というケースも目立ちます。

  2. エル より:

    深夜アニメのカバー状況についてですが、TBS系はBS-TBSで4枠全部、地上波独立TV局向けはBS11やBS日テレ、アニマックス(無料枠)などで殆どがネットされています。

    TXN系は地上波ではエリアが狭い(特にTVOやTVAは県域放送)のですが、CSのAT-X(有料放送)で視聴できることを考慮すれば、まあまあかな…。

    それよリ、日テレ系やフジ系の方がもっとひどい状況です。

    僕の住んでいる福島県ではノイタミナ枠がネットされています。しかし、BSフジでは2009年11月からネットしておりましたが2013年3月を以って打ち切られました。また、CS放送および公式インターネット無料あるいは有料配信も同時期に行われない作品が殆どの為、未放送局エリアで同時期に視聴する手段は事実上ないのが現状です。

  3. 樋口正孝 より:

    こんにちはTOPPYさん、樋口です。
    確かに最近のアニメはTV局の製作ではなく、「〇〇製作委員会」というのが多いですね。そういう理由があったわけですか。
    私の住む滋賀は、TV東京系を除いてほぼ放送されているのでありがたいですが、地方では放送局そのものが2局しかなかったりするため、放送しようと思っても枠が決まってしまいますね。
    ま~最近では、放映からは若干遅れますがレンタルでも見られますし、ネットでも見ることができるようになりましたから(違法で上げられている動画を見るだけでも犯罪になるのかな?)全く見られないアニメというのは減りましたね。
    ところで、静岡のTV局では「ワンピース」ばかり再放送している、という記事を見ましたが、やはり局の方針というか都合とかもあるのでしょうね。

    では失礼いたします。

  4. とむけん より:

    地方局が独自にスポンサーを付けてアニメを放映する可能性もあるのかなとちょっと思ったのですが・・・
    そこで考えてみると、最近の制作委員会方式だったり、あるいはAniplex等が単独でやっているやつですと、CMまで全部セットで30分の媒体枠買っちゃいましょう、という話なんですよね。
    それを見ると、地方局がアニメの放映権を買い、CMは自社で埋めるといった話は、アニメ制作会社からすると不満なのでしょう。CMに地場のバス会社や温泉旅館、不動産会社といった広告が流れるのはまずいでしょうから。

  5. いんど より:

    テレビ局がお金を出して作っているアニメは深夜以外の枠でも、一つもありません。ポケモンもドラえもんも提供料として集めたお金で製作費と放送料を賄っていますが、広告代理店が「買い切り枠」としてすべての金銭リスクを背負っています。人気アニメ番組でも不景気などで提供スポンサーが足りなくなって製作費が赤字になることもありますが、全額、広告代理店が赤字を負担し、放送局は1円も負担しません。
    地上波キー局はアニメは収益になるから放送しているだけで、お金にならないなら止める、という考え方です。なぜかというと、アニメ番組の前後のスポットCM枠は高く売れないので、視聴者層が幅広いバラエティ番組などをかけたほうが得だからです。アニメ番組はバンダイなど大手玩具会社がお金を出して、広告代理店が放送局に企画を持ち込み、全額の費用保証をしてはじめて放送できるのです。ちなみに放送局はお金は出しませんが、著作権は持っていくのでアニメは放送料だけではなく権利収入も入るおいしいビジネスです。テレビ東京はアニメの権利収入がなかったら、とっくにつぶれていたと思います。
    地方局がアニメを購入して放送しないのは、製作委員会やアニメ制作会社が嫌がっているのではなくて、前後の枠のスポットCMの値段が下がるアニメ番組をわざわざ購入して放送するメリットが局にないからです。キー局と違って権利収入がない地方局はアニメ番組をかけても儲からないので、放送しないだけです。子供向けに地方局がアニメ番組を購入する場合も、新作は高いので昔のアニメを安く買うことが多いです。「夏休みアニメ劇場」みたいな枠は大体そうです。ちなみに地方の地場の企業がアニメ番組を積極的に提供してくれるのであれば、地方局ももっとアニメを放送すると思いますが、先程のとおり、地方でもアニメ番組を提供する企業は少ないため、なかなか難しいと思います。

  6. でもなぜ? より:

    映画などは放送権を購入して放送しています。
    なぜアニメは地方局が独自で購入して放送しないのでしょうか。
    話題性のある視聴率の獲得できる作品だったり、ターゲットが明確な作品ならばスポンサーを付けたり納得させたりする事もできるだろうに。

    また、地方局が独自で製作する事も出来るはず。

    キー局と比べて予算が少ないという事は分かるが、このコラムではイマイチ納得しきれなかった。

  7. エル より:

    追記
    BS-TBSがTBS系の深夜アニメを全てネットしているのは、
    TBS-TVと同じくTBSHDの兄弟会社である為と思われます。
    かつてBS-TBSのみで放送されていたアニメ作品(例に「これが私のご主人様」など)については製作委員会と共にTBS名義でクレジットされていました。
    MBSの枠についてはアニメイズムのレギュラーネット局であるためです(その代償にRKBやTBCなどの地方局は引き上げました)。

    BS11で放送しているUHFアニメを含む深夜アニメは、ANIME+の枠でネットしているためです。

  8. トッピー@管理人 より:

    >SWATYさま

    提供スポンサーになっているというよりは、
    製作委員会そのものが提供ですからね。
    通販で「提供:ジャパネットたかた」と表示されるのと同じですね。

    >エルさま

    枠購入なので「ネットされる」というよりは、
    「放送されている」ですね。ネットワークなわけではないので。
    未放送エリアを作っているのも、意図的な可能性はあります。

    >樋口正孝さま

    テレビ局が自らの意思で再放送する場合は、
    どうしても視聴率をとらないといけませんから、
    視聴率のとれるアニメ、ドラマの再放送に偏るということは
    よくありますね。

    >とむけんさま

    可能性がないわけではないです。実際に九州などでやっている
    テレビ局もあります、ただしかし、
    都会の局がお金をもらって流しているものを、
    逆にお金を払って流すということに、抵抗があるのだと思いますよ。

    >いんどさま

    ちゃんと読んでくださいね。
    「テレビ局が作っているアニメ」について、
    テレビ局が自らお金を出しているなんて書いてませんよ。
    スポンサーから集めたお金で制作しているのです。

    >でもなぜ?さま

    先ほどのコメントにもかきましたが、
    都会の局がお金をもらって流しているものを、
    地方局は逆にお金を払わなければ流せないということに、
    抵抗があるのだと思います。
    映画の場合は、都会の局も含めてお金を払ってますからね。

  9. T.T より:

    >なぜ地方ではアニメが放送されないのか

    本来なら、「地方でアニメが放送されない」ではなく、いまだに「地上波で放送する」ことの方を問題視すべきです。

    BSデジタル放送や、有料のAT-Xやアニマックスまであるのに、なぜBS・CS限定で放送しないのか、も問題視すべきです。

    それとも、民放の地上波でアニメを一切放送しない、となると、キー局に何か不都合でもあるんでしょうか?

  10. トッピー@管理人 より:

    >T.Tさま コメントありがとうございます

    「べき」だと思うのであれば、どうぞご自分で問題提起してください。
    この記事は、そこは本旨ではありません。

  11. kohei より:

    なぜ、昔に比べて製作委員会方式のアニメが増えたのですか。

    また、製作委員会方式のアニメが増えることはアニメ産業にとって良いことですか。悪いことですか。

  12. トッピー@管理人 より:

    >koheiさま コメントありがとうございます

    なぜ増えたのかは、
    テレビ局が枠の販売に積極的になったからではないでしょうか。
    製作委員会方式のアニメの増え方と、
    通販番組の増え方はほぼ同じですからね。

    良いこと、悪いことという尺では計れないと思います。

    同じスタッフで長期間にわたって一つの作品製作に取り組む、
    ということは製作委員会方式ではできない一方で、
    たくさんの作品がアニメ化されるという面もありますね。

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