最高気温が15℃を超える日も増え、放牧地の草も青々としてきました。馬たちにとっても、わたしたち人間にとっても過ごしやすい季節の訪れです。
4月13日にミスミズ2024(牡:父アニマルキングダム)が誕生し、今シーズンすべての分娩が終了しました。子馬は破水から15分経たずに娩出され、介助要らずのスムーズな分娩となりました。全頭無事に分娩を終えることができ、安堵しています。
2月、3月に誕生した子馬たちは広い放牧地での昼夜放牧を開始し、子馬同士で遊ぶ姿も見られるようになってきました。社会性を身につけはじめ、こころもからだも成長しています。元気に大きくなりますように!
分娩1時間後のミスミズ親子
2月12日22時頃、今シーズンのホームブレッド第1号となるルイゼリアクィーン2023が誕生しました。大きな星が特徴的な牝馬です。父は2022年より供用が開始されたミスチヴィアスアレックスで、この世代が初年度産駒となります。
また、16日7時頃には第2号となるブレシッドサイレンス2023も誕生しました。母馬によく似た白斑をもつ牡馬で、父はデクラレーションオブウォーです。
日高育成牧場では出生翌朝(出生8~12時間後)に子馬の血中免疫グロブリン濃度を測定して、初乳免疫移行の確認を行っています。今回生まれたルイゼリアクィーン2023は出生3時間以内に哺乳行動を確認していたものの、翌朝の母馬の乳房が大きく腫れていたこと、また子馬の免疫グロブリン濃度が低かったことから、十分な初乳摂取ができていなかった可能性が考えられました。子馬が初乳から免疫抗体を吸収できるのは生後24時間以内と言われており、中でも6時間以内が最も吸収率が高いと言われています。そのため分娩直後の初乳(搾乳し、冷凍保存しておいたもの)とその場で搾乳した母乳の強制投与を行い、初乳免疫の獲得を促しました。
処置翌朝(出生翌々日)、子馬の血中に十分量の免疫移行が確認できたことから、初乳免疫獲得は成功したと考えられました(ここで移行確認ができなければ、血漿輸血の検討も必要です)。その後数日間母馬の乳房を確認したところ大きな腫れは引いたことから、子馬の哺乳は上達し十分な栄養摂取ができていると判断しました。
子馬の初乳免疫移行にはタイムリミットがあり、新生子馬は感染症に弱いためその確認は極めて重要です。免疫グロブリン濃度の測定が難しい場合でも、母馬の乳房の状態から母乳摂取状況を推察することで、子馬の健康状態把握の一助となるかもしれません。
まだまだ朝晩の寒さが残りますが、日高育成牧場では2020年のホームブレッド(JRA日高育成牧場生産馬)の第一号が誕生しました!お母さんは元JRA育成馬のアイハヴアジョイ(母父アイルハヴアナザー)、お父さんは今年本邦初年度産駒がデビューするマクフィという血統で、順調に育ってくれればお母さん同様にJRA育成馬になる予定です。
虚な瞳と額の大きな流星がとっても印象的ですが、生まれて40分でしっかりと自分の足で立ち上がった元気な女の子です。日高育成牧場には、分娩を控えた繁殖牝馬があと8頭在厩していますが、まずは順調に生まれてくれることを祈るばかりです。
この子が産まれた今日は、今まで一緒に働いてきた仲間とのお別れの日でもありました。新天地でのご活躍を祈ります。
今年の第1号ホームブレッド(JRA生産馬)が誕生しました!
その日は、15:30に集牧してウォーキングマシン運動を行い(4㎞/h*30min)、馬房に入れて乳汁を測定したらpH6.4, Brix31.2!
「まだ乳ヤニも付いていないけど産まれるんじゃね?!」ということで、汗モニターを腰に付けて分娩に備え、監視モニターを眺めたら「もう破水してんじゃん!」ということで、17:30に無事安産でした。破水後、胎位を確認した後は自然分娩。娩出後も10分以上も臍帯が切れることなく、胎児の胎盤中の血液はすべて回収されました。後産は分娩後30分で出てしまいました。3産目の母馬は授乳も上手で安心して見守ることが出来ました。
まだ少し後肢の繋が硬いけど、経過観察しながら様子を見ていきたいと思います。
翌日、元気に母馬に付いて歩きます。
今年から新生子不適応症候群(NMS:Neonatal Maladjustment Syndrome)に関する調査の一環として、生後直後・1日後・3日後・7日後にプロジェステロン(P)値を免疫発光測定装置(パスファースト) により測定し、正常馬およびMNS馬の推移についてデータを蓄積しています。パスファーストは、血漿サンプルを用いて僅か17分で測定結果の出る装置です。この馬に関しては、分娩後40ng/mL以上あったP値は、翌日には4.9ng/mlまで低下していました(NMSでは上昇することが知られています)。
生産育成研究室では、これからも現場での応用し易い技術の検討も実施していく予定です。
今日はカリフォルニア大学デービス校のDr.Madigan教授による講演会がありました。
Madigan先生は新生子不適応症候群(NMS:Neonatal Maladjustment Syndrome)に対する治療として胸部圧迫療法(Rope squeeze)で有名な先生です。
https://www.youtube.com/watch?v=uZ9KpOSN6iU
ほとんど感染症への抵抗性を持たずに生まれてくる子馬は、12時間以内に初乳を摂取することで腸管から抗体を取り込むことがとても重要です。しかし、この抗体が取り込める機能を有する期間の腸管は感染の原因となる細菌も入り易い状態なのです。
そのため子馬が生まれる馬房環境や最初に触れる繁殖牝馬の体は、清潔にしておかなくてはなりません。講義に中では、子馬が立ち上がる前に初乳を人工的に投与することが有効とも仰っていました。
また、多くのNMS症例馬も紹介していただき、改めて新生子馬に対する取り扱いを再認識できる講演でした。