ひまな教師のつぶやき

「少年の日の思い出」という話を知っているだろうか。１年生の教科書の最後に載っているけっこう長文の教材だ。２時間しか時間がとれなくて、（なぜ、２時間かという話題は機会があったら）　その２時間目の授業。

　３つのクラスを受け持っているのだが、大きく２つの方法をとった。どちらの発問が効果的だったか想像がつくだろうか。

Ａ
「自由に感想を書いてもらいます。分量は４～５行程度です。できた人から提出してください。」

ï¼¢
「自分の一番気に入ったところを、ノートに視写してもらいます。ノート半分ぐらい、８行程度でいいです。書き終わったら、なぜそこを選んだか２行程度で書いてください。提出です。」



　Ａの方が自由に書けていいだろう。分量もそう多くないし。「私」や「エーミール」に感情移入したいい感想が書けるだろう。Ｂの方は分量も多いし、写すなんてめんどくさがられるだろう。

　そう思っていた。

　しかし、生徒が持ってくる感想は
「私が悪い、いくら欲しくても盗みをするべきでない」
「エーミールも冷たすぎる。もっと友達のことを理解するべきだ。」
などの道徳の感想のようなものばかりだった。一生懸命書いているだけに、かわいそうになってきた。すまんな、こんなくだらないこと書かせて。と心の中で謝ってしまった。
「無理して長く書かなくていいぞ」早々に切り上げて翌日の実力テストに向けて文法の復習に入った。

　Ｂはどうかというと、結果、とてもよかった。
　まず、ここがいいか、それともこっちがいいか、と視写するための気に入った場所をあれこれ比較せずにはいられない。（ほんとに、真剣に選んだ。）
　また、後で選んだ理由を書かなければならないから、あんまりいい加減なところは選ばれないという抑止力が働いてくる。
　指示したあと、３分ほどで教室はシャーペンのカツカツという音と、時折聞こえる咳の音だけになった。その状態が２０分ほど続いた。
　選んだ理由も、２行じゃ足りなくて５行も６行も書く生徒が続出だった。結局１時間いっぱい試写した生徒もいた。
　内容もよかった。「～、わたしのどうしても許してもらえない悔しさがよく分かったから。」「初めての体験をするときのどきどきが思い出されたから～。」と心情や表現について、様々なところに着目して、その理由が書かれてあった。

　間接性の原理とよく言うけれど、その通りだと実感させられた授業だった。

　もちろん、３クラス目もＢパターンで進めたのはいうまでもない。