愛着障害は主に養育者と子どもの関係において語られる場面が多いのですが、大人になってもなお、苦しんでいる人が少なくありません。大人の愛着障害には親密さを避ける傾向や怒りなどの情緒面、さらに対人関係に不安があります。
この記事では大人の愛着障害の特徴や原因、子どもの愛着障害との違い、また効果的な治療法などについても詳しく解説します。
本記事を読むことで大人や子どもの愛着障害への特徴や具体的な対処法などがわかります。
このページの目次
愛着障害とは?
愛着障害とは、乳幼児期に特定の養育者(母親・父親など)との愛着形成がうまくいかず問題を抱えている状態のことを指します。
愛着障害の人は対人関係において不安定で依存的、さらに拒絶などの恐怖を感じやすく、しばしば自己肯定感や自己価値感にも問題を抱えていることが少なくありません。
子どもの頃に発症した愛着障害が治療されず、症状が改善されないまま成長した場合に「大人の愛着障害」として症状が続くことがあります。治療には長い期間が必要となることが多く、専門家の指導を受けながら取り組むことが重要です。
愛着障害の原因
愛着障害の原因は、幼少期に養育者との愛着が十分に形成されなかったことが主な要因です。具体的には、以下のような要因が考えられます。
乳児期の虐待やネグレクト(育児放棄)などの不適切な養育環境
乳児期に十分な愛着関係が形成されなかった場合、その後の発達にも大きな影響を及ぼすことがあります。
乳児期の虐待やネグレクト(育児放棄)などの不適切な養育環境例えば、虐待やネグレクト(育児放置)などの不適切な養育環境で育った子どもは、愛着障害を発症するリスクが高くなる等です。
両親の不在や離婚などの家族の変化
子どもが幼い頃に両親が離婚したり親が不在になるなど、心身に負担のかかる環境で育つことで愛着関係が形成されにくくなり、愛着障害を発症するリスクが高くなります。
これらの要因が複合的に作用することにより、愛着障害が発症するとされていますが、実際には複数の要因が絡み合っていることが多く、原因の特定が難しい場合が多いです。
大人の愛着障害と子どもの愛着障害の違い
医学的な愛着障害の診断基準は子どもが対象とされており、5歳以前に発症するといわれています。しかし、実際には「自分は愛着障害ではないか」と悩んでいる大人は少なくありません。
大人の愛着障害と子どもの愛着障害には、いくつかの違いがあります。
この章では「子どもの愛着障害の特徴と大人の愛着障害の特徴」の違いをそれぞれ解説します。
子どもの愛着障害の特徴
子どもの愛着障害は、児童期に安定的な愛着関係を築くことができなかった場合に発生することが多いです。
個人差はありますが、子どもの愛着障害の特徴として以下のような特徴が挙げられます。
行動が問題的
愛着障害の子どもは、問題的な行動を示すことがあります。これは、感情の調節が難しいため、相手に対して攻撃的になったり、自己防衛のために逃げ出したりすることがあるためです。
具体的には髪の毛を抜く・爪を噛むなどの自傷行為や、他人に危害を加える他害行為などです。
感情の調節が難しい
愛着障害の子どもは、感情の調節が難しいことがあります。
これは、保護者や他の大人との相互作用が不十分であったため、愛着を形成できずに感情が自律的に発生するためです。
信頼関係を築くことが難しい
愛着障害の子どもは、保護者や他の大人に対して信頼関係を築けないことがあります。
これは保護者が不在だったり、虐待を受けたりした経験があるためです。理由もなく嘘をつく、大人を試すような行動も見受けられます。
また、しっかりと食事や睡眠がとれない等、基本的な生活習慣を身につけることが難しく、風邪をひきやすいといったことも特徴のひとつです。
さらに、後述する「反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)」と「脱抑制性型対人交流障害」のどちらに当てはまるかによって特徴が異なります。
反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)
反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)は、子どもが適切な愛着を形成できなかったり、既に形成された愛着が破壊されたりすることによって発生する障害です。
個人差がありますが、反応性アタッチメント障害の主な特徴は以下のようになります。
社会的無関心
社会的な関係を築くことができない傾向があります。他人に無関心であったり、他人を必要以上に警戒し過ぎてしまい、交流をしない場面もみられるでしょう。
社会的交流があまりないという点は、自閉スペクトラム症(ASD)と似ているため、判断が難しいといわれています。
感情の鈍麻
喜びや悲しみを表現しないなど、感情の表出が少ない傾向があります。
また、他人からの声かけに対しても反応が乏しく、無反応であることが多いです。
適応性が低い
新しい環境に適応することが難しい傾向があります。必要な社会的スキルや行動の柔軟性が欠如していることが原因です。
周囲に対して無関心で、まわりを気にせず一人でもくもくと遊ぶなどの行動がみられます。
他にも「自己評価が低く人の言葉に傷つきやすい」「落ち込みやすい」なども特徴のひとつです。
脱抑制型対人交流愛着障害
脱抑制型対人交流愛着障害は愛着関係の形成に問題を抱えており、他人との関係が深まるにつれ、過剰に依存的になる特徴があります。
以下に、脱抑制型対人交流愛着障害の子どもに見られる一般的な特徴をいくつか挙げてみました。
他人への過度の接近
他人への接近を積極的に求めます。そのため、知らない人に対しても必要以上に親密な態度をとることがあるでしょう。
こういった特徴は、ADHD(注意欠如・多動性障害)との区別が難しいといわれています。
自分勝手な行動
過剰に自分勝手な行動をとることがあります。自分の欲求を優先し、他人に配慮することができません。
そのため友達を傷つけたり、協調性のない行動をとったりすることがあります。
暴力的かつ衝動的な行動
脱抑制型対人交流愛着障害の子どもは、暴力的な行動をとることがあります。
例えば友達や家族に対して暴力を振るったり、物を投げたりする等です。
他にも「落ち着きがなく、行動が大袈裟」「謝罪ができず、嘘をつく」なども特徴としてみられます。
大人の愛着障害の特徴
大人の愛着障害は幼少期に愛着関係が十分に形成されなかったことが原因で、大人になっても人との間に信頼や親密さを築くことが難しい状態のことを指します。
この状態では自己否定や孤独感、寂しさなどの感情が強く現れることがあります。
大人の愛着障害においての特徴を「対人関係」「情緒面」「アイデンティティの問題」に分けて解説します。
対人関係
大人の愛着障害について、対人関係における3つの特徴を以下にまとめました。
怒りを上手くコントロールできない
大人の愛着障害には、人間関係において適切な距離感を保つことが難しいという特徴があります。
「怒り」の感情をうまくコントロールできず、トラブルになりやすいといえるでしょう。
思考が極端
思考が極端で「100か0か」「白か黒か」になりやすいなど、物事に柔軟に対応することが難しいといえます。
過去に捉われてしまう
愛着障害がある人は自尊心が低いケースが多いため、自分の選択を信じられず、過去に捉われてしまう傾向があります。
進路や就職などに関する決断も後悔することが多く、人生の満足度が低くなりがちです。
情緒面
大人の愛着障害には、情緒面において以下のような特徴があります。
適切な距離感がわからない
人間関係の程よい距離感がわからないため、極端に人の顔色を伺うなどコミュニケーションに難しさを感じる場面があるようです。
過去のトラウマや傷があるため相手に心を開きにくく、自分から積極的に他人と交流することが苦手です。
不安定な関係性
パートナーや子ども等の親しい人と情緒的な関係を築くことを困難に感じる傾向があります。
一度は良好な関係が築けたとしても、些細なことで相手との関係が崩れてしまうこともあり得るでしょう。
自尊心が低い
自尊心が低い傾向があるため、親の期待に応えられないときに必要以上に自分を責めてしまいます。
自己肯定感が低く自信が持てないといった特徴もみられます。
アイデンティティの問題
愛着障害があると、アイデンティティの確立(自分は自分であると自覚すること)が上手くいかないことがあります。
以下に具体的な特徴を3つ、挙げてみました。
決断力がない
大人になると自分自身で考え、選択しなければならない場面が出てくるでしょう。
しかし、愛着障害があると自分自身で問題を解決できない場面が多く出てきます。
自己肯定感が低い
自己肯定感が低い傾向があるため、自分自身に対して否定的になりやすいといえます。
自分の選択に対する満足度が低いことも特徴のひとつです。
否定的になる
自分自身を信じることができないことから、自分を責めたり必要以上に落ちこんでしまう傾向があります。
大人の愛着障害の克服・治し方
子どもの愛着障害の場合は周りの養育者が気付き、適切な対処をすることが可能です。
では、大人の愛着障害の克服・治し方についてはどんな方法があるのでしょうか。
以下の3点の方法についてご紹介します。
- 心の安全基地をつくる
- 困っていることを整理する
- 無理に人と関わらない
ひとつひとつみていきましょう。
心の安全基地をつくる
大人の愛着障害を克服する方法のひとつに「心の安全基地をつくる」という対処法があります。
心の安全基地とは安心して休める「環境」のことで、心を落ち着かせられる場所として必要不可欠です。
愛着障害を持つ人は過去に不安や恐怖、不安定な状況などに直面してきたため、自分自身を守るために心を閉ざしてしまうことがあります。
しかし、そうした心の閉ざりが対人関係における問題や、自分自身の感情に向き合うことができなくなることにつながります。
そのため、心の安全基地をつくることが大切です。
例えば、親から受け取れなかった愛情をパートナーや友人から獲得し直すのもひとつの方法です。
他にも自分自身を受け入れ、自分に対する批判的な考え方をやめること、自己破壊的な行動をやめることなどが挙げられます。
心の安全基地をつくることで、自分自身を守るための防衛的な心の閉ざりを解放し、感情に対する理解や受容が進むでしょう。
その結果、他人との関係性や自分自身との関係性が改善されることが期待できます。
ただし、心の安全基地をつくることは容易ではありません。自分自身と向き合い、過去のトラウマや傷ついた感情に向き合い、ゆっくりと取り組んでいく必要があります。
専門家のサポートを受けながら、自分自身に合った方法で取り組んでいくことが大切です。
困っていることを整理する
愛着障害を持つ人は、過去のトラウマや傷ついた感情に向き合うことが困難になる傾向があります。
そのため、自分自身が抱えている問題や困っていることを整理することが愛着障害を克服する上で大切な要素のひとつとなります。
まずは、自分自身が抱えている問題や感情に向き合うことが必要です。
そこで「自身がどのような場面で困るのか?」や「トラブルの背景にはどのような要因があるのか?」整理することが重要です。
整理を行うことで自分自身が抱えている問題や感情を明確化し、自分自身を理解することができます。
また、自分自身がどのようなサポートやアドバイスを必要としているのか、どのような方法で問題解決に向けて取り組むことができるのかも明確になります。
整理する方法としては、自分自身の感情を日記に書き出すことや、プロフェッショナルのサポートを受けて問題や感情を整理するなどがよいでしょう。
困っていることを整理することで、自分自身の気持ちを整理し、自分自身を理解することができます。
その結果、自分自身との関係性や他人との関係性が改善され、愛着障害を克服するための一歩となります。
無理に人と関わらない
大人の愛着障害の特徴として他人の目を気にし過ぎるなど、被害妄想が生まれやすいため、無理に人と関わらないことも重要なポイントのひとつです。
人と関わるのが辛い場合は距離を取ることも大切、と考えましょう。
人との関係を構築する前に、自分自身を見つめ直す時間を取るのもおすすめです。
自分自身に対して優しくなり、自分自身を受け入れることができるようになると、自然に人との関係も改善されていくことがあります。
また、無理に人と関わらなくても自分自身が楽しめる趣味や仕事、自分自身が成長できる環境を見つけることも重要です。
自分自身が楽しむことで、自信や自己肯定感を高めることができ、人との関係もより良好なものになる可能性があります。
まとめ
本記事では、大人の愛着障害の特徴や原因・治し方、そして大人の愛着障害と子どもの愛着障害の違いについても解説しました。
愛着障害は周りの人のサポートを得ながら、焦らず適切な対処をすることで克服へと近づくことができます。
うつ病などの二次障害を防いで症状を改善していくためにも、まずは専門機関へ相談すると良いでしょう。
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■監修者コメント
幼少期からの葛藤を抱えている社員には、優しく理解ある対応が大切です。信頼関係を築くのには年単位の月日が必要なことも珍しくないので、焦らず、適切な距離を保ちながら、見守り続ける心構えが必要です。
監修 : 益田 裕介 (医師)
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック 院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医 精神分析学会所属
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